クローズアップテーマ
本番に入った大学教育改革-必要となる大学全体としての教育戦略の確立-
2008年09月30日 中原隆一
大学教育の再構築については、中央教育審議会において本年3月に「学士課程教育の再構築」が報告され、翌4月には「教育振興基本計画について」の答申があり、それを受け7月に「教育振興基本計画」が閣議決定されています。この基本計画の中では今後5年間に取り組むべき施策の基本方向の一つとして高等教育に関し、「教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える」ことが打ち出されています。さらにこの教育振興基本計画を受けて、今般9月に中央教育審議会に「中長期的な高等教育の在り方」が諮問されています。
このように高等教育分野においてはこれから5年間が教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけられており、大学教育の改革はこれからが本番となり、改革の内容が本格化してくるものと想定されます。
このような状況の中で大学の教育改革の状況を見ていくと、教育手法や手段等に関わる改革と、学士課程教育の見直し論議の中で教育課程の改編が多く見られます。例えば大学教育改革を支援する文部科学省の主要施策の一つである「特色ある大学教育支援プログラム」においても、選考上の分類は「教育課程の工夫改善」、「教育方法の工夫改善」、「その他」となっています。しかも「その他」も19年度分で見る限りは「FD(注1)教育」、「地域連携・地域教育」、「学生の自主性活用」等広い意味での教育手法の改革に含まれる内容が多く見られます。
もちろん、実際の講義や実習の教育手法の改善・改良は重要かつ不可欠ですが、大学という法人の事業として高等教育を提供するという視点では、もっと教育戦略としての構想を策定して改革に取組むことが必要ではないでしょうか。
大学教育における「教育戦略」は「教育方針」と「教育課程(カリキュラム等)」や「教育方法(FD及びIT活用)」とをつなげる役割と位置づけられます。「教育方針」は既に多くの大学では策定されており、「教育課程」と「教育方法」は既に見たように数多くの改革提案が行われ、試行や導入も進んでいます。
しかしながら「教育戦略」についてはあまり明確にされることはなく、大学全体として「教育方針」に沿って「教育課程」や「教育方法」をどのように実現していくかという点が明確ではないように思われます。言い換えれば、個々の教育プログラムの開発に関心が向けられ、大学としてどのようにして教育成果、教育責任を果たすかについてのプロセスやシステムの議論が少ないように感じられます。
教育戦略の確立のためにはまずどのような教育を、誰に、どのように行うかについての言わば教育のドメイン(=領域)を確定することが必要です。その上で一般の事業戦略と同様に、必要となる資源(教員、職員、施設等)の投入、教育における差別化要素の検討を行います。教育課程や教育手法はこれらの検討の対象と考えられます。さらにそのための運営システム、組織体制、管理する仕組み、スケジュール等を策定し、戦略として肉付けしていくことになります。
このように教育は教員個人だけで行うのではなく組織で提供するという考え方に立ち、大学組織全体での教育戦略策定に取組むことが、高等教育のあり方が問われている今、必要ではないでしょうか。
(注1)
FD:Faculty Development=教員の授業内容や教育方法などの改善・向上を目的とした組織的な取組