クローズアップテーマ
大学教育の進化
2008年11月25日 中原隆一
中央教育審議会大学分科会は「学士課程教育の構築に向けて」の最終答申案を、今年3月に公表した『審議のまとめ』を踏まえ、作成しました。
その中で大学に対し主として要請されていることは、「学位授与方針」「教育課程編成・実施の方針」「入学者受入方針」の3つの方針を連携させ明確にすること、そのための教職員の職能開発を行うこと、ととらえられます。
今回の答申案が検討提出されるようになった背景には、大学教育に対する社会全般の期待と不信の両方が大きく影響しています。一方はこれからのわが国を支えていくべき人材の供給機関としての期待であり、他方は大学が社会に現状供給している人材への能力等に関する不信感です。この答申案は人材供給の期待に応え不信感を拭えるように、3つの方針の確立と能力開発を通じて人材供給責任を果たすことを大学に対し求めていると考えられます。
そのように考えると上記答申案が大学に求めている中心テーマは、供給人材の品質管理方針の確立と品質水準に直接影響を与える教職員の能力開発・意識改革と理解され、大学は適切な品質管理や能力開発を行うための組織的管理を確立することが必要になってきます。
これまで大学は教員個人の教育活動を基盤に学生への教育を実施してきましたが、これからは大学という組織が教育に強く関与するような新しい大学の姿が求められています。例えて言えば個人技主体の教育から組織力に基づいた教育へ変わっていくようなイメージです。
組織力に基づく教育に必要なのは教育方針、教育内容・方法、入学・卒業制度等における標準化、可視化、共有化等と考えられます。特定の方針に基づき教育サービスを学生に一定の品質で提供するためには、提供するサービスに関して教職員間で共通の理解や認識が確立されていることが前提です。標準化、可視化、共有化等は共通の理解や認識を促す手段と考えられます。
しかしながら現状、大学では同じ学問でも個々の教員毎に異なる教育内容・手法が見られ、教育カリキュラムや成績判定は必ずしも明確でなく、入試制度・選抜方法等は学内からも分かりにくくなっていると推測されます。今後組織力に基づく教育を進めていく上では、大学全体あるいは学部全体として、教育方法の標準化や共有化、成績評価方法や入試制度の可視化等に取組むことが必要になると考えられます。
このような組織力に基づく教育体制はこれまで大学の教職員が経験、認識してきた大学のあり方と異なった教育体制です。しかしながら大学を取り巻く社会は大学内で認識されている以上に変動しており、大学もその環境変化に合わせて教育や研究活動において単に変化するだけでなく、異なる段階へと進化せざるを得ない状況にあると考えられます。
既に各大学で前述の3つの方針についての検討は進んでいると思われますが、単に方針策定だけでは前述の人材供給の品質管理責任を十分に果たすことは難しいと推測されます。方針に沿った教育活動を実践していくための組織力に基づく教育体制が検討される必要があり、標準化、可視化、共有化等を積極的に活用して取組む必要があると考えられます。大学にとっては厳しい要請ですが、このような組織力に基づく教育体制を考える中で進化した新たな大学のあり方が生まれ、それが新たな大学のデファクトスタンダードになるのではないでしょうか。