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11月17日 大学事務職員の本領とは・・・・
2008年11月17日 吉田 賢一
多くの読者の方には釈迦に説法ですが、国公立と私立とでは相違があるものの、概念的には大学組織は「教員集団」と「職員組織」から成り立っています。
なぜ前者が「集団」で後者が「組織」なのでしょうか。これもご案内のとおり、教員、つまり教授や准教授など「先生」と呼ばれる方たちは学部長などの役職に就くことはあっても、年次による先輩後輩の序列は別として、研究教育を担う専門家の立場としては理屈上、対等な存在なのです。ですから中世のギルドのような「集団」に例えられます。一方で、一定の手続きを正当に進めていく、あたかも機械のような動きが求められる事務職員はM.ウェーバーのいう「官僚制」の典型的モデルとして存在しています。このような組織としての性質やもともとの生い立ちが異なる状況にあるものの、理念的には両者は車の両輪、あるいは「唇歯輔車」の関係といわれています。しかし、先生方からしても、また、職員の皆さんからしても違和感があるのは、こうした組織的な淵源の相違に原因があると考えるのが筆者の仮説です。
ところで、大学を取り巻く経営環境は劇的にかつ大規模に変化しつつあり、自身の事情を理由に対応しない、というわけにはいきません。そこで先生方に思いきり研究教育に専念してもらうために、ますます事務職員の果たすべき役割は大きくなっているのです。
かつては国際化や情報化の対応ということで語学やITスキルといった特殊な技能を持つ職員は珍重されましたが、それらの技術は標準化し、今や保持していることが当たり前となっています。その点では、民間企業に就職することと基本的な状況には変わりがありません。むしろそうした技能を生かすことで、従来の学務や学生生活支援といった業務に加え、外部資金の獲得や産学官連携のコーディネイト、知財のマネジメントなど、活躍できるフィールドは拡大しているのです。
そこで、改めて職員に求められる3つのジャンルの能力を示しておきたいと思います。小職があらゆるところで講演やレポートを書く際に用いているナレッジです。
まず、第一に、「コアとなる基礎的能力」でしょう。大学の世界に勤める人間として、また、事務組織の手続きを管理する人間として当然に保有すべき専門的知識や技術を備えることは当然のことです。学校教育法など基幹的な法体系だけでなく、自身の勤める大学の規程類にも通暁することが大切です。大学側としても個人任せにするのではなく、絶え間なく研鑽すべき能力については、OffJTなどで体系的に学べるようにすることが重要となります。
第二に、「マネジメント能力」であり、これはさらに次の3つに区分できます。
「政策立案能力あるいはプランニング能力」は適切な課題を設定し、それに向けて合理的判断ができる程度の代替案を整え、もっとも環境適合的な選択肢を決定することのできる能力であり、同時にそれは執行能力の裏づけともなります。
「プロジェクトマネジメント能力」は、大学における地域連携など多様なアクターを段階別に整理し、適切な観点から目的に向け統合していく管理運営能力として求められます。
そして「リスクマネジメント能力」は、組織内外において生じるリスクを未然に抽出し回避するための組織的対応を取ることができる、いわば「先見の明」のことです。
第三に、「社会人基礎能力」です。具体的にはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、会議の運営や関係者間の調整能力、ソリューション提示能力などが求められます。特に、限られたデータソースを効率的に活用し、誰にでも分かりやすく説得力を持って提示できるノウハウや、混沌とした問題状況において、投げかけられた問いに対し、適切に回答を導出し説明することのできる能力が重要でしょう。「分かりません」「まだ異動して間がないので」「文部科学省がだめだと言っていました」「先生が決めましたので・・・」などの回答は禁句です。教員の不信感を買うだけです。
各大学におかれては、それぞれに事務職員の能力開発に腐心されていることと思います。ぜひ、鋭意努力を継続していただきたいのですが、大切なことは研修をやって終わり、ではだめだということです。せっかくお金を払って外部の専門家に講演ないしトレーニングをしてもらうのですから、そこで得られた知見を体質化しないと意味がありません。各職員のキャリアパスを個別に設計し、節目毎にきめ細かいカウンセリングを行うことが望ましいでしょう。その過程で学生部や学務部など大学の「最前線」となる職場については全員がローテーションで体験し、特に適性のある人材については本人の希望を勘案しつつ、優先的に配置していくといったヒューマンリソースマネジメントの視点が大切なのです。
いずれの能力もバランスよく体得することこそが人材育成の要諦であり、学内における研修のみならず学外機関の活用や、他大学・企業への出向も含めた国内留学など職員研修の選択肢を広げることも重要です。また、外部人材を招聘するのも結構ですが、彼らは決して「穴埋め」ではありません。民間企業などでそれなりの経験を「暗黙知」として有しているのですから、その知をきちんとプロパー職員に伝授することをお願いしなくてはなりません。すっかり鼻毛を抜かれてしまった外部人材を見るにつけ、その方にとっても、大学にとっても、お互いに不幸なことだとつくづく感じます。事務職員の皆さんの労働意識やモラールを高めていく取り組みが、何よりも重要なのです。
最後に経営責任を担う方は、常に職員の皆さんが自身の仕事と職場に誇りを持てるように、あらゆる面で配慮することを忘れないでいただきたいと思う次第です。組織を生かすも殺すも、最後は「人財」なのですから。