クローズアップテーマ
大学教育の再構築
2008年05月26日 中原隆一
大学の教育活動に対してはかねてより改革や再構築を求める議論が行われていましたが、平成20年3月に中央教育審議会において【学士課程教育の構築に向けて】(注1)が「審議のまとめ」として報告されました。
この報告の内容の個々の項目については専門の分野から様々な意見等があると思いますが、大学経営の視点でみると以下のような観点で読み取るべきと考えられます。
まず前提として、同年齢の若年層の半分が大学に進学するといういわゆる「ユニバーサル段階」にわが国の大学が移行しつつあり、大学の社会における役割、位置づけがこれまでと変わってきているという認識が本報告の基本認識になっています。誰でも必要な高等教育を必要なときに受講できる時代であり、その高等教育を担うのが大学の役目になりつつあります。大学経営においてもこれまでのマス段階の概念やモデルを見直さざるをえないということです。
次に報告のタイトルに「学士課程教育」というキーワードが用いられています。これまで大学教育というと「学部教育」「専門教育」「一般教育」「教養教育」等という様々な概念が飛び交い、議論の収束や接点が難しく神学論争に陥りやすい傾向があったと考えられます。本報告では明確に大学で授与する学士という学位に必要な教育として議論をまとめており、学士課程という教育プロセスに対応した教育プログラムの確立と提供を提言しています。
元来大学は教育サービスを提供しているので、教育プログラムこそサービスの差別化ポイントのはずです。しかしながらほとんどの大学においては、教育プログラムは永らく経営問題として検討されることが少なく、全学的な共通概念も標準化も行われてこなかったと推測されます。今後は経営問題として教育サービスとしての基本方針、フレームワーク、コンテンツ、スタッフ、支援ツール等を組み合わせ、適切なプログラムを構築することが求められます。
さらに、教育プログラムにおいて重視されるべき事項として「学習成果」が強調されています。何を教えるかよりも何が出来るようになるかを重視することを意味し、授業科目の組み合わせと授業時間数だけでは教育プログラムとしては不十分になります。当然、到達すべき学習水準を設定し、それに向けて必要な講義と実習、レポートやテスト、個別指導、補講等を計画実施し、到達目標とのギャップを繰り返しチェックすることが求められます。
このように成果を目的とした教育プログラムを提供するためには、全学的に組織的な体制を整備し、サービスを提供する仕組みを確立することが求められます。これまでのように個々の教員のみに講義・実習指導、テストやレポート、成績判定等の殆どを任せていては、到底対応できないと思われます。
このような大学の教育内容、教育実態に対して明確に改革を求める提言を踏まえ、大学経営においてはこれらの教育サービス・プログラムの再構築こそが大学の将来を決める最重要の経営課題であるととらえて、対応していくべきではないでしょうか。
(注1) 平成20年3月25日中央教育審議会大学分科会 制度・教育部会