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5月12日 大学破綻の時代

2008年05月12日 吉田 賢一


 静かに平成21年度入試が始まっています。一般入試の前段となるAO入試や推薦入試では熾烈な学生確保のための各大学間の駆け引きが活発化しています。すでに私立大学の4割の大学が定員割れを起こし、地方や単科の国立大学では志願者倍率の低下傾向に歯止めがかからず、すでに「経営破綻」した大学も見られるようになっています。
 日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)と学校法人活性化・再生研究会では、平成19年8月に「私立学校の経営革新と経営困難への対応-最終報告」を取りまとめ、12月には98法人(大学法人64、短大法人34)がイエローゾーン(経営困難な状態)にあり、そのうち15法人についてはレッドゾーン(破綻状況)にあると判定しています。また、国立大学法人においても、昨年夏に財政審議会が行った運営費交付金に関するシミュレーションが突如として示され、東大ほか旧帝大を含めた13法人のみが増額となり、減じる残り74法人のうち50法人ではさらに50%以上減額となるとの試算となっています。これは将来の道州制をも睨んだ国立大学の配置についての問いかけともだぶって見えるのは筆者だけでしょうか。

 さて、多くの大学経営者の方々にとっては釈迦に説法となりますが、学校経営の難しいところは教育という本来事業が非課税にあることの裏返しとして、多角的な収益事業を行うことが極めて制約的であるという点にあります。これまでであれば、学生数が定員に対し3倍以上の志願者倍率を確保していれば、大きな飛躍はなくとも「持続可能」な経営が成り立っていたのですが、一度定員割れを起こすと、それを埋めるための財政的対応が必要となり、内部補助的に機能する中高など別学校や他の附帯事業などのセグメントがなければ一気に経営が悪化することとなります。こうした一見安定的に見える経営構造は学生が一定数確保できているという仮定のもとで成り立っている一種の「幻影」であり、その実態は、つとに周囲の経営環境の変動に対しては鈍くなってしまうこととなります。今日、大学業界の実態を不透明にさせているのは、そうした保守的な体質から生まれるステークホルダーとのコミュニケーション不足であり、このことは財務状況や事業内容の開示についての遅れに如実に表れているといえるのです。

 では、このまま手をこまねいて、「座して死を待つ」、ということでよいのでしょうか。私たち日本総合研究所では、大学を単なる企業的な観点からの経営主体としてみるだけではなく、知の集積点としての存在、大学がもつ社会的公共性の重要性、そして教育という金銭価値では換算されにくい概念の持つ重みに鑑み、この厳しい大学経営の時代にいかなる取り組みを行っていくべきなのか、シンクタンクの立場として大学関係の皆様や所管省庁の皆様に対しお役に立てるような問題提起や具体的なソリューションの方向性について、様々な視座から意見具申を行ってまいりたいと考えております。

 具体的には、大学ブランドのあり方、学生確保戦略、地域や産学連携、学生満足度とエンロールメントマネジメントなど、ホットな経営テーマを取り上げてまいります。
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