コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

「2007年問題」からみる新しい農業像

2006年04月24日 大澤信一


 最近は、様々な角度から2007年問題が論じられている。よく知られているように2007年問題とは、約680万人と言われる団塊の世代(1947年~49年生まれ)が、2007年~9年に掛けて大量に定年退職するに伴って我が国の経済・社会に様々な影響を与えるという話である。とりわけ注目を集めているのは製造業などである。大量の熟練労働者が定年退職し、職場の技術、ノウハウの承継が上手く行くのかという論点だ。
 しかし、あまり注目されていないが農業の分野では、団塊の世代の大量退職で様々な新しい可能性が生まれつつあるように思う。農業は個人事業であるのでいわゆる定年問題はない。ここで論じようとするのは、大量に生まれる定年退職者の農業への新規就農の問題である。
 
 1)農業と接点がある団塊世代
 団塊の世代の会社人生をたどってみると、農業へあるいは地方へと向かう志向があるように思われる。団塊の世代が生まれたのは47年~49年であるから、例えば高校卒業の年次は、65年~67年頃、大学を卒業する年次でいえば69年~71年頃ということになる。
 我が国の経済は、第一次(73年)、第二次(78年)のオイルショックを経て、年率10%に近い高度成長期から3~4%成長の安定成長の時代へ移行していくわけだか、団塊の世代が学校を終えて就職するのはまさに20年に及ぼうとする高度経済成長が最後の輝きを見せた時期である。
 高度成長期とは、日本が1次産業を中心とするいわば農業社会から2次産業、3次産業を中心とする工業社会へと移行する時期である。そしてこの間、日本各地の農村地帯から急速に工業化が進む太平洋ベルト地帯に大量の人口移動があった。団塊の世代の中にも、日本各地で学業を終え、専業、兼業農家であった実家を出て就職し、会社人生のスタートを切った人が多くいる。また、実家が農家でなくとも、親類、友人、知人など身近に農業を感じられる環境で成長した人は非常に多い。つまり、生活経験のどこかで農業と接点を持つ人が多いのである。

 2)「農」「食」への関心高める熟年・シニア
 この団塊の世代の人々の中で、定年後再び農業に目を向ける人が増えている。理由は、様々である。「食の安全・安心」に関心を持ち、安全・安心で新鮮な農作物を作ってみたい、食べてみたい、あるいは屋外で季節の移り変わりを感じながら農作業をしてみたい等、等である。内閣府の高齢者の日常生活に関する調査でも、「主に屋外で行う趣味活動(園芸、農芸)」と回答した人は12.1%もいる(2004年、内閣府調査)。他の趣味では、読書と応えた人が16.3%、主に室内で行う趣味活動(絵画、書道、手芸、裁縫等)が11.5%、歌、踊り(カラオケ、コーラス、社交ダンス等)が14.3%だから、かなりの人気だ。
 併せて、熟年・シニアの生活意識をみると、生活全般の中で「食生活」の占める割合が急速に高くなる。下の図表に見るように、今後の生活の力点が「食生活」になると答えたのは50歳代では男性14.9%、女性28.1%だが、60歳代になるとそれぞれ26.6%、41.2%へと10%以上跳ね上がる。ちなみに20歳代から50歳代までは男女とも少しずつ「食生活」のウエイトが高まるが、それでも30年間で男性は2.5%増でほぼ横ばい、女性でも7.3%しか高まっていない。

図表 熟年・シニアの生活意識:今後の生活の力点(食生活)
熟年・シニアの生活意識:今後の生活の力点(食生活)
資料:内閣府大臣官房政府広報室「国民生活に関する世論調査(平成17年6月調査)」


 3)必要な熟年・シニアの市民農園参加支援
 このように見てくると、健康維持を兼ねて自分で農産物作りを楽しみたいというシニア層のニーズはかなり高いと見てよいと思う。この人たちに、例えば良質な市民農園を潤沢に供給したり、あるいはセミプロ農家への道を提供することは新しいビジネスあるいは行政サービスとして注目されるのではないだろうか。
 最近、神奈川県相模原市で農政課の方に、同市での市民農園の利用状況をお聞きする機会があった。同市は人口62万人、戦後急速に工業化、都市化を進め、地方から大量の人口流入があったところである。先に述べた団塊の世代の昭和から平成の歴史と同じ歩みをたどった典型的な都市といっても良いかもしれない。
 ここでは、総数で4000区画の市民農園を提供しているというが、毎年の募集には平均で1.3倍の申し込みがあるそうである。お話を伺うと、市民農園の本格的なPRはまだなされていないようだし、市民農園自体、近くに駐車場やトイレが整備されてないなどまだまだ利用者を意識した取り組みは本格化していない。今後の行政の取り組みや、あるいは新しいアグリビジネスとしての開発が進めば、高齢化社会の生活の一部として重要な新しいスタイルの農業として定着する可能性は大きいと思う。
 ちなみに、日本総研では「人口動態から10年後の日本経済を読む(仮題)」(東洋経済新報社)を近刊予定である。筆者はここで、団塊の世代の定年退職で市民農園や直売所が大きくブレイクする可能性を検討している。書店で手にとっていただければ幸いである。

以上

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ