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第11回 境界のマーケティング その3 良い消費と悪い消費~もったいない~ 【大林 正幸】 (2009/04/07)

2009年04月07日 大林正幸


1.もったいない

 ワンガリ・マータイさんは、グリーンベルト運動により、アフリカの女性としては史上初のノーベル平和賞を受賞した。彼女は、環境保護や資源問題、貧困格差などへの取り組み姿勢を示す価値観を、ものを大事に使うことを言い表す日本語の「もったいない」が的確に伝えているとして、「MOTTAINAIを世界共通語にしよう」と呼びかけた。2005年3月、ニューヨークの国連本部で開催された国連婦人地位向上委員会での出来事である。

 それから3年後の2008年9月、リーマンブラザースの破綻に端を発したアメリカ発の金融危機では、過熱していた消費が180度反転したために深刻な消費低迷を巻き起こし、世界的な景気の後退が起きた。消費の低迷に対して、我々の社会がいかにもろいものであるのかを、改めて認識させられた事件である。

 このように、消費は私達の社会の成立基盤であるといえる。しかし、一方で、先のワンガリ・マータイさんが提唱する「MOTTAINAI」のような運動が生じているのだが、この2つは、果たして相容れないものなのだろうか。

2.消費を刺激し続けるマーケティング

 話は変わるが、日本国憲法27条第1項に、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」とある。働くことは国民の義務であり、働くべきかどうかとか働かなくても良いのかと言う議論はない。明日も元気に働かなければならない。そのために、食事を取り、休息し、体力を養うことが必要であり、そのために消費がある。
 しかし、実際の消費を見てみると、温泉に行っておいしいものを食べるため、スポーツカーを持つため、おしゃれをするため等、果てしない欲望を満たすために消費を続けているのである。例えば、海外旅行に年間5回行ける人を、3年に1度しか行けない人はうらやましく思うだろうし、自分も行けるように働いてお金を貯めようと考えるようになっている。
 つまり、消費自体が目的となっており、遊ぶため、楽しむために働くのである。

 今の社会は消費が拡大しなければ経済が成長しないし、また豊かさの実感も得られない社会の構造になってしまっている。私達は、昼夜を問わずこのような欲望を持つように刺激され続けている社会に生きているのだ。このような社会が「消費社会」の本質である。

 消費を刺激するテクニックをマーケティングと言う。マーケティングは、欲望を満たしてしまうことよりも、欲望を作りだしていく機能が重視される。マーケティングには、絶えず私たちの手が届かないところの物を、手が届くように見せかけ続けてくれることが期待されている。欲望が満たされ、消費がそこで終わりになっては、経済は成長しない。

3.欲望の喚起を超えたマーケティングへの期待

 消費を欲望させることが、経済を支えていることになる。ワンガリ・マータイさんの「MOTTAINAI」に込められた倫理観や規範を背景にした消費は、大量生産・大量消費からの転換を促しているように思えるものの、消費が縮小し、成長しない社会を想定しているわけではないだろう。大量生産・大量消費からの転換と経済成長を両立させるためには、少しの大切なものにより多くのお金を払うという考え方につながらなければならない。それは、これまで購買余力のある人がよく言うような、高くても良いものを買うという意味ではないのだ。むしろ倫理観や規範の照らした価値に対してお金を払う。

 自分が選択した消費が良かったかどうかの判断基準は、有名なブランド品であれば迷うことも少ないだろうが、倫理・規範といった不確かな価値基準に基づく消費行動は、消費者にとっては難しい。こんなものに、より多くのお金を使ったことが正しい選択であったと納得できなければならない。

 実は、消費という意味では、豊かさは選択肢の多さといわれるが、反面、自分の選択結果が正しいかどうかの不安がつきまとう。自分の消費活動自体が正しいかどうかの不安と隣り合わせでいるのだ。
 私達は、自分の消費が適切であったか、妥当であったかが気になる。特に高額なものを買うと、自分の買ったメーカーの商品のコマーシャルの方が、他社の商品のコマーシャルよりも気になる。これでよかったのだと確認しているのだ。
 ひとつひとつの消費に対して、なぜこれを選択したかの理由を見つけなければならない時代なのだ。不安と向き合うリスク社会の一面を見せる。

4.正しい消費

 正しい消費とは、消費者が正しいと思える消費である。正しい消費か悪い消費かの判断に、「MOTTAINAI」運動のような普遍的な価値観が持ち込まれるようになってきた。そうなれば、欲望の喚起も、また欲望の充足もこれまで行われてきたやり方から変化するだろう。

 今の社会は、自分では判断できないから、誰かがこれで良かったと言ってくれることを期待する社会である。権威やお仕着せの評価は、不信感をもたれる時代である。むしろ身近の信頼できる人からの賛同や助言しか信じない不安な社会である。つまり信頼できる人、組織や企業であるということが、非常に大切な社会なのだ。この不安な時代だからこそ、同じ価値観を持つ仲間と集い、行動を共にしたい。
 経営という視点からみれば、企業理念やコーポレートブランドの大切さの再確認であるし、マ―ケティングの点ではこの仲間やコミュニティーなどの活用が重視されなければならない。
 これまでの顧客や市場のセグメント基準は、例えばライフスタイルや世代や地域だった。これらの基準に加えて、自分の消費行動に対して、誰が良いと言ってくれるかと言う点でのセグメントも重要になっている。そのために、企業から市場へのメッセージはわかりやすさ、伝わりやすさが殊更に求められる。
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