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第6回 脱構築というイノベーション その3【大林 正幸】 (2008/12/18)

2008年12月18日 大林正幸


1.組織は進化する?

 1980年から90年にかけて、組織の環境適応という言葉が流行した。環境から発信される情報に対する組織内の情報処理構造によって、企業の対応行動は影響を受ける一方で、逆に情報処理構造は組織構造を体現するという。環境は常に変化するため、適切な情報処理ができない組織であれば、環境変化に適応できず、かつての恐竜のように淘汰されるという。逆に、環境変化に適応できれば、生物の進化のように組織も生き残り、進化するという理屈になる(注1)。

 一方、「構造主義」も流行した。熱帯のジャングルに住む未開人も、大都会に住む現代文明人も生活の深層の部分では共通点があるとし、人間は、深層部分で生き残りの知恵が延々と受け継がれ、その知恵がルールとなり、ルールに縛られて生きているという考えである。人々の生活は、ルールなどにより形が作られている構造のもとでのものであり、個人で意思決定をしているつもりでも、深層部分では、何らかの影響を受けているという考えである(注2)。
 「構造主義」の考え方は、組織は良い方向に変化するばかりではないという見方もでき、本当に組織は進化するのだろうかという考えにも繋がる。

 受身的に適応していく進化の仕組みは、単に反応しているだけのことであり、これのみでは適者生存という形で秩序が形成維持されるということではなさそうである。構造を変化させる内部からの強い変化が必要なのである。組織の適応を妨げる深層の原因をなくすことが経営者の役割である。

2.環境適応と自己組織化―セルフオーガニゼーション
 
 システムは、システムの外部との情報の送受信を通して、システム間の相互浸透が生まれ、自身のシステムと外部システムとの関係性を構築することにより存続する。お互いのシステムは、情報交換のためにそれぞれ固有の価値交換メディアを備えている。お互いが発信する情報をシステムにとって取り込むべきか否かは、受け入れ側のシステム自身が自己言及的に是非を判断するのである。逆に言えば、この機能が働くことにより、システムは適応と言う行動が可能となり、存続できる。自己言及のフィルターを通して、必要なものを取り入れ変化する。これがシステムの一般的機能なのだ。要は、環境変化の全てをとり込むのではなく、適応レベルの判断機能もシステムに備わっていなければならない。

 揺らぎをおこせば、自然に自己調和的に新しい秩序形成が進むという保証は何もない。組織は、継続的に自己言及という主体的な意思決定機能が有効でなければならない。日常的な意思決定による行動は、自己言及を伴い、過去との差異を認識する行動でもある。これが自己組織化である。

3.組織のイノベーション

 したがって、環境変化への適応にあたって、以下のような楽観的期待は禁物である。
「組織外部の情報を組織内に取り込み、組織に揺らぎを生じさせる。時として、組織は混沌とした状態になる。この混沌とした状況を維持しておけば、自然発生的に、組織で期待されるイノベーションが何か起きる。」これは、結果から見るとこのように見えるかもしれない程度のものでしかない。

 構造主義では、深層部分への意図的な関与が必要であるとされる。また、進化論的にも、将来の生存を懸ける複数の戦力代替案から最適なものを選択するという決定がなければならないという。どちらも責任ある決定を伴うが、どちらが正しいのかというよりも、組織のイノベーションには二つの側面があるということが重要である。このことは、一見、あたり前のようだが、実現は結構難しい。なぜなら、この二つの側面は、同時に進行しなければならず、実行時期のずれが相互に影響を与えることにより、イノベーションの実現を妨げるからだ。

 中途半端な改革論議の原因は、トップ以外に深層部分の改革をできる人がいないため、トップ以外の者が置き去りにされ易いからだ。戦略スタッフレベルでは、深層部分の領域は変化の方向を示すことが憚られる場合も多い。
 言い換えると、BPRや組織改革というが、やり方、方法に関する問題への対応という形だけでは不十分であり、過去との差異を深層レベルまで堀下げ、意識転換させることが不可欠なのだ。これは簡単に実現できるものではない。具体的な行為を通して、組織に痕跡を残し、蓄積することができなければ、単なるスローガンになる。

 繰り返しになるが、重要な点は、何を決めたのか、どんな行動をしたのか、に言い尽くされるのである。この行動の結果として変化が後からついてくるのだ。


(注1)野中郁次郎[2002].『企業進化論―情報創造のマネジメント』日本経済新聞社 他
(注2)文化人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースは、言語のルールが生活や行動へ影響を与えるように、文化も意識の深層レベルで行動に影響を与えているのではないかと考え、後に、構造を決定する関係性こそが、人間の行動や意思決定に影響を与えるとして、構造主義を展開した。
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