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第15回 監査役は「悪魔の弁護士」たれ【太田 康嗣】(2009/3/26)

2009年03月26日 


1.「悪魔の弁護士」とは

 「悪魔の弁護士」というと、何か究極の「悪徳弁護士」のことのようだが、元々は、キリスト教の宣布に功績のあった人を列聖するに際して、その人が「聖人にふさわしい」とされる理由のひとつひとつについて反論する役割を命じられた神学者のことである。現在では、主にロジカル・シンキング(論理的思考)やクリティカル・シンキング(批判的思考)の世界で、ある論理や決定に対して反論者の立場から疑義や矛盾を提起する役割の人のことを指す。ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングは、如何にしてその論理構造を強固にするかが肝であるが、そのためには、この「悪魔の弁護士」の存在が不可欠であり、さらに、その反論、つまり「突っ込み」の鈍鋭が極めて重要なファクターとなる。

2.監査役の任務と実態

 さて、監査役は、「取締役の職務の執行を監査」し(会社法381条1項)、必要があれば「取締役に対し、当該行為をやめることを請求」する(法385条1項)ことが求められており、もしその任務を懈怠したときは、会社に対して「損害を賠償する責任を負う」(法423条1項)とされる。つまり、ガバナンス・レベルでのリスクマネジメントのキーマンである。
 しかし、現実には、人的、物的、時間的等、あらゆる面での制約が大きく、監査役が期待される機能を必ずしも発揮していないのは周知のところであり、企業の不祥事の際に「細かなところまで目が届かず何もできなかった」との監査役の自嘲気味のコメントを目にすることもよくある。また、監査役は、「取締役会に出席し、必要があると認められるときには、意見を述べなければならない」(法383条1項)が、出席するだけで何の発言もしないという監査役も多く、(ご本人はお気づきではないかもしれないが)前掲の任務懈怠による損害賠償責任リスクを常に抱え込んでいる状態にある。

3.監査役の最低限の任務としての「悪魔の弁護士」

 リスクマネジメントにおける監査役の機能を有効にするために、日本監査役協会や監査法人等によって、様々なツールや手法の開発・提供が行われている。いわゆるJ-SOXもその一つに位置づけることもできよう。
 ただ、それらのツールや手法を使いこなすこと自体、監査役自身はもとより、会社としても相当の労力や投資を要する。また、そもそも監査役は、「取締役会に出席し、必要があると認められるときには、意見を述べなければならない」(法383条1項)が、法385条等の規定からは、「必要があるとき」とは、「取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるとき」(法385条1項)と思われ、日常的なリスクマネジメントの範囲外であろう。
 そこで、とりあえず実践可能な監査役の最低限の任務として、取締役会において「悪魔の弁護士」を演じることを提言したい。といっても冒頭に述べたような重い役回りではなく、取締役会に出席して、取締役の決定に対する質問や疑問を投げかける、というだけである。
 どのような決定に対しても何らかの質問や疑問はあるはずであるので、全く無言のまま会を後にするということは少なくなるのではないだろうか。もし、質問や疑問の基準も分からない、ということであれば、いわゆる「経営判断の原則」の最低ライン、つまり、(1)決定の前提となる資料やデータがあるか、(2)その前提資料に基づいて合理的な意思決定プロセスが踏まれているか、だけを確認するだけでもよいだろう。

 監査役制度は、わが国が考え出した非常にユニークな制度であるが、あまりに高度な理想を描き続けてきたように思われる。上記の様な「悪魔の弁護士」としてのごく初歩的な質問や疑問だけでも、ガンバナンスに対するリスクマネジメントの契機として、あるいは任務懈怠に対する監査役の抗弁として有効であると考えるがいかがであろうか。
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