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クローズアップテーマ リスクとチャンスのマネジメント

第13回 インテリジェンスの生産力を強化する【大林正幸】(2009/3/12)

2009年03月12日 大林正幸


1.サスペンス劇場はなぜ面白い

 最近の人気TVドラマに「トライアングル」と題する番組がある。ドラマは、小学生時代に同級生を殺された当時の旧友たちが、時効を過ぎた時になって過去の真実を探り出すサスペンスドラマである。このドラマは他と比較して、情報が断片的に小出しされていく傾向が強く、また、突然、怪しい人物が登場し、退場することが頻繁に繰り返されれる。見ているとついつい引き込まれてしまう。
 この種のサスペンスドラマは、予想もしない人物の登場で始まるが、その人物はそれぞれ物語を身につけて登場する。視聴者は、役どころから、事件への関与を勝手に予想し、自分で物語を作る。しかし、多くの場合、視聴者は、予想を裏切られることが多い。仮説の構築と期待、裏切のサイクルが連続で繰り返されていく。

 このサスペンス劇場を構成するのは断片的情報である。視聴者から見れば、作者から提供されるインフォメーションである。視聴者は、断片的情報を組み合わせて、編集し意味を創造し、情報に付加価値をつける。これが、インテリジェンスの生産活動である。勿論、我々にとって大切なものは、インフォメーションではなく、インテリジェンスである。インテリジェンスへの転換作業には、能力と経験が必要である。真犯人を見つける名探偵は、断片情報からのインテリジェンスへの転換技術がとりわけ優れているのである。

2.日本軍のインテリジェンス

 話は変わる。小谷賢氏は「日本軍のインテリジェンス」の著書で太平洋戦争中の日本軍はインテリジェンスの生産プロセスに問題があったという。(注1)  
 この本の中には、下図のようなインテリジェンスサイクルモデルの記述がある。

インテリジェンスサイクルモデル



 このモデルで最も重要な点はインテリジェンスサイドへのリクワイアメントであろう。何を知りたく、期待するのかを明確にする能力である。これは思うほど簡単ではない。小谷氏は、日本軍のインテリジェンスの生産の問題はインフォメーションの収集能力の不備ではなく、リクワイアメントに問題があったと指摘される。整理すると以下のようになる。

・インテリジェンスの生産には、断片的情報を編集する専門的な経験と知識が必要であることを理解してもらえなかった。
・生産されたインテリジェンスは、戦争の趨勢を決定する重要な価値を提供しているのに、利用者側で理解できない、また理解しようとしない傾向があった。あくまで参考情報的に位置づけられた。
・その原因は、利用者の仮説に沿うインテリジェンスは受け入れられるが、逆の場合は拒否されるという点にある。自分に都合の良いものしか価値を与えない傾向があったという事である。
・結果的に自分の仮説に合わないインテリジェンスの生産部門は信頼しない。勢い、自ら情報を収集し利用するようになり、偏った情報による判断をする事になる。

 つまりインテリジェンスの生産サイドに要求を出せず、またその結果を信頼し活用しなかったこと、これが旧日本軍の問題であった。

3.ビジネスにおける情報戦に勝ち残るには

 断片的情報の探索力はあっても、インテリジェンスの生産能力がなければ単なるデータにとどまる。生産されたインテリジェンスを活用する部門と生産する部門が異なることで、生産されたインテリジェンスを利用部門に提供しても、利用する部門の期待する内容でなければ評価されない傾向がある。

 これらは次の二つの示唆を与える。ひとつは、インテリジェンスの生産能力を高めること、他はインテリジェンスの生産部門と利用部門の組織の役割と明確化である。

a.インテリジェンスの生産能力を高める

 インテリジェンスの生産の表現を変えれば、断片的情報を編集し繋ぎ合わせることだ。この編集にはシナリオがなければならない。優れたシナリオは、ある程度の経験が不可欠である。経営の教科書を読んで、更に、自分の言葉として、経験と知識とをつなぎあわせてシナリオとしてまとめる能力が求められる。経営組織では、この重要な役割を果たす人は中間管理職層である。この層の優劣が情報戦の鍵を握る。したがって、断片的情報を編集することを日ごろから実践する訓練を行うことが重要である。断片的な現象をつなぎ合わせ物語を語らせる場を作ることが有効だ。日常の仕事の場面で、絶えず上司は部下に物語を語らせることが必要なのだ。この為には、上司は部下に対して、適切なリクワイアメントを行う能力を磨くことが必要になる。

b.インテリジェンスの生産部門と利用部門の役割の明確化

 生産や販売は縦割りの役割分担だが、インテリジェンスの生産活動は組織横断的な情報の収集と編集活動である。インテリジェンスの生産は機能であり、組織職務分掌では分担されるべきものではないが、職務分掌として、インテリジェンスの生産を期待される部門もある。
 例えば、横断的な立場でインテリジェンスの生産を担う部門の典型例は、通常経営企画部や調査部であり、また内部監査部門も該当する。内部監査部門は検査機能と限定する必要はなく企業リスクに対する情報をインテリジェンス化することが期待されている。

 しかし、これらの部門は従来から間接部門として位置づけられ、企業の市場での戦闘に直接に参加しないため縮小されていく傾向も見られた。つまりインテリジェンスの生産活動と言う点から見れば、旧日本軍で見られたような同じ扱いがされているケースが多いのである。

 インテリジェンスの生産活動の改善への取り組みにも盲点がある。例えば、経営企画部を例に考えてみよう。経営企画部は会社によって、その機能は様々であるが、ここでは全社経営戦略立案を進める部門とする。まさにインテリジェンスの生産部門である。しかし、社長が経営企画部担当者に「現場の声を聞いて、(それを踏まえて)計画を作成しろ」と指示をした時点で、現場の都合の良い目的にかなったインテリジェンスになってしまう可能性が高くなる。普通、会社では営業や生産部門、事業部などの発言力が強い場合が多い。経営企画部の生産したインテリジェンスは省みられなくなる。リスクを客観的に評価できなくなってしまい、旧日本軍のインテリジェンスレベルに陥る危険性を持つ。


(注1) 小谷 賢 『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』 講談社選書
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