コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

クローズアップテーマ

第11回 戦略オプションによるリスクマネジメント 【大井 大輔】(2009/02/09)

2009年02月09日 大井大輔


1.戦略オプションの重要性について

 サブプライムローン問題に端を発した不況の風が、いつ止むのか見えなくなってきた。このような状況下において、企業は低収益事業から撤退し、事業全体を縮小する動きを見せると考えられるが、それは本当に正しいのだろうか。確かに短期的な視点から見れば、一時的な収益改善には有効であろう。しかし、企業はゴーイングコンサーンであり、リスクマネジメントの視点から見ると必ずしも有効とは限らない。
 企業が特定の事業から撤退することは、戦略オプション(戦略の選択肢)を減らすことを意味し、リスクが高まることと同意である。

身近な例で、東京から大阪へ移動することを考えてみよう。移動手段としては、1)飛行機、2)新幹線、3)自動車等がある。しかし、1)飛行機だけの選択肢しか想定していなかったとすると、航空会社のシステムトラブルなどが起きた場合に、大阪に移動する手段を失ってしまい、足止めを食らうことになる。しかし、予め、2)新幹線、3)自動車等の移動手段も想定していれば、そのようなトラブルにあってもスムーズに対応できるであろう。

 ここで大切なことは、費用や時間は二の次で、大阪まで移動できるかどうか(=企業が永続できるかどうか)が大切なのである。費用や時間(=収益性)は異なる議論のテーブルなのである。企業の永続=収益性とお考えの方もいるだろうが、例えば、新規事業の大部分は設立当初においては収益性が低いことが多く、その後、企業の主要事業となり、新規事業開発が企業の永続の要件となっているケースもあるのだ。つまり、事業の縮小は、将来の戦略オプションの減少を意味する。さらに極論すれば、縮小均衡を図ることで戦略オプション(=次の打ち手)がなくなってしまうと、市場環境に身を任せるしかなく、思わぬトラブルが生じた際に、企業の存続が危ぶまれることとなる。従って、戦略オプションの検討に当たっては、単に収益性からの観点だけではなく、多面的な分析(企業の継続性等の観点)によって意思決定しなければならない。

 このようにリスクマネジメントの視点では、戦略オプションをたくさん有していることが重要なのである。但し、それは低収益事業をたくさん持った方が良いということではなく、既に事業となっているものから構想段階までのものまで含め、将来の打ち手として、戦略のオプションとして有しておくことが重要なのである。少し余談になるが、事業戦略の立案と言いながら、1つのシナリオ(選択肢)について、その具体的な計画を策定している企業があるが、それは事業計画の立案であって、事業戦略の立案ではない。戦略立案とは、そもそもいくつかの選択肢(案)を作ることが最も重要である。

2.戦略オプションの検討コストは「予防コスト」

 戦略オプションの検討には、非常に大きなエネルギーが必要である。関係部署のエース級を総動員して、中期経営戦略、事業戦略が立案されることからしても、その大変さは容易に想像できるだろう。しかし、このコストは、「予防コスト」として見てもらいたい。冬になるとインフルエンザに対するワクチンを接種されると思うが、そのようなものだ。ワクチンを接種することで、インフルエンザにかかりにくくなる。また、仮にインフルエンザにかかっても、一度耐性ができているので、症状が比較的軽度で済むなどのメリットがある。同様に戦略オプションを検討し、市場環境がどのような状況になると新しい戦略を実行するのかといったことを予め検討していくことで、市場をモニタリングする癖やリスクに備える企業体質に変わっていくことだろう。このような愚直な取り組みによって、経営基盤が強化され、継続的に成長し続けることができる企業へと進化できるのである。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ