プロフェッショナルの洞察
リサーチ・コンサルティングの仕事を通じて見える世界 第3回 100年後の国家存立基盤を見出し準備すること (1)
2007年07月01日 新保豊
いわゆるシンクタンクの中枢の職種ともいえるリサーチ・コンサルティング。さまざまな専門分野を持ったコンサルタントがいるが、業務を遂行する中で、その専門分野に留まらない世界観が広がるという。今回は情報通信分野を専門とする日本総合研究所の理事(主席研究員)の新保豊に、リサーチ・コンサルティングの仕事を通じて見えてくる世界がどのようなものなのかを聞いた。
■個人や組織にとっての大きな目標、「登るべき山」
コンサルタントが、実際に大企業などの経営者・担当者に説明・説得し、ときに事業や会社組織を動かしていくのは非常に難しそうに思いますが、何かポイントはあるのですか?
以前にNHKの番組で、オーケストラ指揮者の大野和士さんが、非常に素晴らしい説明をされていました。それは、まず圧倒的な力を見せることなしに、人はついてこない。次に登るべき山、つまり目標を見せる必要がある。その後は、個人個人を縛るのではなく、解放するということでした。コンサルタントの世界も非常に似ていると思います。やはり、目標となる山のあるべき姿を明確にすることが大切です。ご質問の答としては、概念的ですが、これは核心を突いていると思います。
少し補足しましょう。オーケストラといった組織チームから、企業組織、また広くは国家というレベルまで、「登るべき山」のイメージをもっておくことが大切だと思います。明治維新のときは、科学技術や企業の組織(資本主義的なマネジメント)や国家制度(自由経済主義を推進する法制度)などで、欧米に追いつけ、追い越せと、近代化を目指し、それが大きな成功となりました。このような長期のイメージを描くのが重要ですね。個人またはチームにおいては5年後、企業においては10~20年後、そして国家においては50年ないし100年後をイメージすることが大切でしょう。
具体的に、日本の100年後のイメージ、また山とはどんなものですか?
難しい問いですが、例えば、100年後も日本が自尊心をもった独立国家として存在していることです。それが私たちの大きな山だと、考えています。民族や国家を超越して世界を一つの共同体とし、すべての人間が平等な立場でこれに所属するものと考える、世界政府やコスモポリタニズムなどは、残念ながら幻想に過ぎないでしょう。こうした考えは、パワーポリティクスの世界では「ウィルソニアン・パラダイム」と呼ばれる考え方から来るものです。つまり、経済の相互依存の度合い、国際法の強化、国際組織の充実が高まれば、世界の国々はお互いに仲良くなり争わなくなる、とする考え方です。
人口が急増するなか、地球上では食糧や鉱物などの資源競争が熾烈を極めるようになる、あるいは資源を巡る戦争が勃発しやすくなります。また国内問題として、経済成長が止まれば、さらに失業や貧富の格差が高まります。さらに面倒なこと汚いことを日本人が自ら避けるようになり、周囲の国々からの単純労働者の流入量が増えれば、犯罪も増えることでしょう。
物理的な面(政治・軍事システムといったハードパワー)でもメンタルな(ソフトパワーの)面でも、わが国における自立自助の基盤が一層脆弱となれば、100年どころか、20年後かその前に、今の日米関係とは別に、日本が他国の実質的な影響下に入ってしまう(あるいは政治・経済・文化面で自立性を失う)可能性だってあるでしょう。100年後も日本が国として生き残っていくために、私たちが生き抜いていけるフィールドをしっかり作っていく必要があります。

情報通信産業もその重要なフィールドのひとつです。経済的基盤が重要なことを、強調し過ぎることはありません。この経済基盤と安全保障の基盤、さらには哲学的な基盤の3つが調和された形態となっていることが、わが国における理想だと思います。この3つの基盤は個人、企業レベルにおいても同様だと思います。この調和された、あらゆる階層での基盤構築が先決です。そしてこの基盤構築の過程で、私たちは世界の国々へ良き貢献ができたり、同時に本当のリスペクトを得たりする可能になるのではないでしょうか。
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03 100年後の国家存立基盤を見出し準備すること
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