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クローズアップテーマ リスクとチャンスのマネジメント

第9回 ディシジョンリスクに注意しよう 【大林 正幸】(2008/01/26)

2009年01月26日 大林正幸


1.ディシジョンリスクの増大  

 昨年のサブプライムローン問題に端を発した金融危機により、予想もできない急激な消費需要の縮小に直面し、世界規模での不況が発生した。このような状況のなかで、強度のストレス下にある経営活動は、意思決定のミスを誘発しやすい環境下にあることを注意すべきである。
 上述の事件に限らず、一般的に、以下に示すような状況に組織や集団が置かれている現在においては、葛藤、ストレス、欲求不満などが発生しやすい状況にあると認識すべきである。

・将来の方向が具体的に知覚できない不安の中に置かれている。
 現在は、90年代の成果主義から構築された組織観の転換期にある。結果の平等は、機会の平等へと転換されたが、成果主義の価値観を中核とした組織マネジメントの問題が指摘される。しかし、新しい組織マネジメントのスタイルが具体的に提示できておらず、移行期につきものの不安感がある。

・失敗と成功の判断や自己評価に自信が持てなくなる。
 意思決定の葛藤に直面しやすい社会に置かれている。良い・悪いや是か非などの二項対立的なわかりやすい構図では、社会の諸現象を理解できにくくなり、判断基準がブレやすく、判然と割り切れない事象が増えている。

・自分とは関係のないことで、致命的な打撃を被るなど、信頼感が融解している。
 食品業界での不祥事の例のように、間違った経営判断で、一生懸命やっている社員が、致命的打撃を受けるなどのように、自分では管理不能な部分に起因している問題に直面している。信頼が揺らぎ、無力感やフラストレーションが日常の意思決定に大きな影響を与える懸念が大きくなっている。

 通常、組織・集団では、上記のような個人の意思決定のミスを予防するために、各人が相互に注意し、協力し合う仕組みを備えている。しかし、この役割分担と信頼関係で機能する組織が崩れる要因が増えている。例えば、多くの企業では、個人の能力や成果を重視しているが、集団や組織の規範よりも、結果責任を個人が負うという点で個人の判断が優先されすぎると、集団の抑止的機能を弱くする。併せて、共同生活の場としての集団の意味は相対的に低くなり、この結果、集団の決定と個人決定の調整など意思決定プロセスの中、不安や葛藤、欲求不満が発生する可能性が増大し、誤った意思決定が生じやすい環境となる。

2.意思決定の「場」のマネジメント

 意思決定の「場」のマネジメントが、こと更に大切になっている時代である。
 個人活動が組織に大きな影響を与えるように、組織活動がパーソナル化していくなかで、個人に起因するヒューマンエラーの発生を抑止する、集団やチーム活動の「場」の機能への期待は大きくなる。今後、ますます組織マネジメントは、このようなパラドックスを抱え込むため、判断ミスを抑止するための集団、即ちチーム・マネジメントの根本から見直しことが必要になる。

 個人と組織を統合し、均衡を回復させる役割を担うものとして「場」(職場のチーム)機能に着目すべきであり、集団の判断ミスの抑止機能の再構築が必要である。オープンなパーソナルネットワークを基盤とした社会への変化により、組織への帰属意識が根本的に問い直され、個人と組織との関係が再構築されなければならない点がある。個人と集団・組織との関係が一心同体的な関係から、個人が強く意識され、集団と個人が別個の存在として認識されるようになるために、以下の点に留意することが必要である。

a. 組織全体の統合においては、多様な解釈が可能なビジョンや理念など、個々の活動を編集する機能としての組織価値基準を見直す。
b. 集団活動の期待する行動規範を具体的な行為能力として示す。
組織の自己言及機能を強化し、自己点検力、自己評価に自信を持たせる。
c. 集団の持つ自律的な抑止的機能(モニタリング機能)を整備する。
中央集権的な強権的統制力の強化ではなく、自己評価と他者評価を組み合わせて自律的な機能モニタリング機能を整備する。
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