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第8回 リストラ・リスクと企業の雇用責任 【太田 康嗣】(2008/12/08)

2008年12月08日 


1.リストラ・リスクとは

 サブプライム問題に端を発した世界的経済危機が深刻さを増している。今後、わが国でも大規模なリストラが避けられない状況である。
そんな中、ハーバード・ビジネス・レビューの日本版2008年10月号に「リストラはかえって高くつく」という記事が掲載された。
 リストラを敢行すると、リストラを免れた社員の意欲が低下するだけでなく、計画以上の自主退社者が発生することにより、かえって効率・業績が悪化する。そして、この傾向はキャリア開発制度が整った企業ほど強い、という調査結果を紹介したものである。同調査では、例えば、社員の1%を対象としたリストラですら、自主退社率は、30%以上も上昇することも報告されているという。
 リストラによって、短期的な人件費圧縮はできるものの、士気の低下や「暗黙知」の喪失等、中長期的な企業経営にとって大きなリスクが存在していることは、かねてより指摘されてきたが、それが予想以上に大きいということが証明された格好である。

2.リストラ・リスクの緩和策

 記事は、「社員が愛着を感じる制度」、具体的には、「苦情や直訴の手続き、問題を内密に解決する方法といった雇用主が公正かつ公平であると社員に感じさせる施策、フレックス・タイム制度などを導入あるいは強化することにより、リストラ後に、大勢の社員が去っていくことはなくなるだろう」と述べている。
 確かに、「会社に対する愛着」は、自主退社の防波堤として有効だろう。
 しかし、苦情や直訴の手続きやフレックス・タイム制度よりも重要かつ有効な施策があるように思う。
 それは、「雇用」そのものに対する経営者の考え方であり、雇用制度そのものである。つまり、「わが社は、ぎりぎりまでリストラはしない」という経営者がいて、安易に人件費を変動費扱いしないコスト管理システムが機能し、状況に応じてワークシェアリングやジョブシェアリングといった雇用確保施策が講じられることこそ、苦情や直訴の手続きやフレックス・タイム制度よりも格段に強力なリストラ・リスク緩和策だと思うのである。

3.再び「舞浜会議」を

 2007年5月19日付朝日新聞朝刊によると、それまで「雇用重視」を掲げてきた日本企業が「株主重視」に大きく転換したのは、1994年2月25日に千葉県舞浜で行われた経済同友会の研究会での議論だったという。「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない。」という宮内オリックス社長の主張に対し、今井新日本製鉄社長が「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちでやってきたんじゃない。」と鋭く批判するなど、トップ企業の経営者達が白熱した議論を展開したが、この会議を機に、日本企業の雇用重視政策は、急速にしぼんでいくことになったという。
 この議論の論評をすることは、本論の趣旨でなく、また、筆者の能力に余るが、当時と現在とでは、社会経済環境のパラダイムシフトという意味でよく似た状況にあるばかりでなく、企業の社会的存在意味、つまり、社会的責任は、当時と比べて格段に大きくなっているといえる。
 日本経済調査会の長坂理事長は、「雇用には、フレキシビリィティとセキュリティの両方が必要だが、日本ではフレキシビリィティばかりが進み、セキュリティは不十分。」(2008年5月12日朝日新聞朝刊)と言われているが、目先のリストラを敢行する前に、リストラ・リスクの本質的緩和策としても、雇用に対する企業のスタンスを改めて議論すべき時期ではないだろうか。
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