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第6回 オーナー企業におけるリスクマネジメント:組織活性化に向けての取り組み事例 【大井 大輔】(2008/11/11)

2008年11月11日 大井大輔


1.オーナー企業が抱える課題

 オーナー企業の会議では、担当部長が淡々と資料を読み上げ、それに対して、オーナー(社長)だけがコメントをするといったシーンに出くわすことが多い。例えば、部長の話の中で、他部門との連携の必要性を説いても、指摘された部門長がそれに対して特に話すわけではなく、そのままやり過ごされるのである。
 このようなことが生じる背景には、オーナー自身がすべて決めてしまうので、部門間で話し合うことは徒労に終わってしまう、また、自部門さえきっちりと業務を遂行していれば評価されるといった風土が根付いている。一方、オーナーにおいても自分ですべてを意思決定しないと気が済まないといった性格が見られる。
 創業時のように、オーナーの目が行き届くコンパクトな組織であれば、オーナーがすべてのリスクを把握し、適切な判断ができるであろう。しかし、企業規模が大きくなり、従業員が100名以上になってくると、オーナーによる統制にも限界がある。このような状況において、企業が抱えるリスクを統制していくには、部長(管理職)にもオーナー意識を持ってもらうしかないのである。

2.オーナー意識の醸成に向けて

 ここでのオーナー意識とは、文字通り、自身がオーナーのような意識で振る舞うことである。具体的には、主体的になり、全体最適の視点で、時には部門間等の調整も厭わず、部門の収益達成を絶対とするのではなく企業のビジョンに基づき行動し、それを阻害するリスクを認識できることである。このようなオーナー意識を醸成していくには、
(1) オーナーが部長(管理職)に責任と権限を委譲すること
(2) 全体最適のための判断基準(例えば、経営ビジョン)を整備すること
(3) 部長(管理職)の貢献度を見えるようにすること
(4) 部門間がコミュニケーションできる場づくり
などの取り組みが必要となってくる。

3.オーナー企業A社の取組事例

 A社は年商約100億円、従業員数約150名であり、複数事業を展開している企業である。組織の活性化に取り組む以前は、企業収益は事業別に管理されておらず、決算で締めてからでないと把握できないという状態であった。また経営会議は、オーナー企業の典型であるともいえ、各事業部門が参加しているにもかかわらず、会議の大部分はオーナーの講話であり、なんとも言えない閉塞感があった。そこでまずは事業部門長らにオーナー意識を持ってもらうべく、自部門の採算性と部門長の頑張り(貢献度)を見えるようにした。業績以外にも部門の状況を示す指標を整理し、経営会議の場も定量的な事実に基づく議論ができる場に変革したのである。また、その会議では、部門長からは自部門の報告に加え、自部門で解決できない課題も報告してもらうようにした。一方、オーナーにおいても部門長に主体的に議論してもらうべく、コメントを差し控えていただくようにしたのである。その結果、始めこそ、各部門長のやりとりはぎこちなかったが、3ヶ月も経てば、活発な議論が始まり、部門合同の提案や部門間での人材交流が始まったのである。このように部門間の活動が活発になれば、お互いの利害調整が必要になってくるが、これまでに整備した事実に基づいた資料の活用し、公平な判断ができるように第三者の立場の部門が判断する仕組みを導入することによって対応した。
 このように一度正のスパイラルが回りだすと、部門長にオーナー意識が醸成されるようになった。今ではオーナーが意識していなかったようなリスクまでも認識できるようになり、強い組織となったのである。
 これは、あくまでオーナー企業の組織を活性化した一例ではあるが、人材がいないとお悩みのオーナーは、一度、社内の組織活性に取り組まれてはどうか。組織を活性化する仕組みを導入しない限り、外部からいくら優秀な人材を採用してもオーナー意識を持った人材は育成できないのである。
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