コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

クローズアップテーマ

第3回 いかに「違和感」を汲み上げるか 【日置 文香】(2008/10/14)

2008年10月14日 日置 文香


1.「違和感」の行き着く先は

 リスク・マネジメントの基本は、ある特定の場面に遭遇したときに、「何かおかしい」、「このままで良いのか」という「違和感」を感じることができる能力、すなわちリスク感度の高い社員を育てることであった。しかし、リスク感度の高い社員が増えればそれで十分だとは言えない。次に課題となるのは、経営者やマネジメント層がそのような「違和感」をいかにして汲み上げ、経営判断に反映させるかということである。
 例えば、ある料理店で働いている人が、「どうも自分の店では、残り物を再利用して客に出しているようだ。果たしてこのままで良いのだろうか。」と感じたとする。しかし、このように「違和感」を感じたからといって、直ちにリスク・マネジメントにおける統制として機能するわけではない。周囲の人には、「同業者ではよくあることだ。細かいことは気にするな。」と言って一蹴されるかもしれない。あるいは、会社の微妙な権力構造の中で、「違和感」の存在に言及することすらできないかもしれない。
 このように、リスク感度が高い社員が育ったとしても、「違和感」が汲み上げられ、実際の経営に影響を与えるには、まだまだ乗り越えるべき壁が立ちはだかっているといえる。

2.「違和感」を拒絶するマインドセット

 「違和感」が経営判断に反映される際の障害としては、個人的な事情から制度的な弊害や実務上の問題まで様々なものが考えられる。ここでは、「マインドセット」という概念を切り口に、「違和感」を受け入れる側のあり方について考えてみたいと思う。
 ここでいうマインドセットとは、人が何かを認知する際に用いられる基本原則のようなものであり、これまでの経験や教育、先入観など様々な要因によって規定されているものである。マインドセットは、日常生活の中ではあまり意識されることがない。また、マインドセットを客観視しようとしても、そのプロセスもまた自身のマインドセットによって規定されていると考えられるため、マインドセットを離れた思考は非常に困難であるといえる。
 リスク・マネジメントにおいて、「違和感」が汲み上げられない原因の1つとして考えられるのが、このマインドセットの作用である。そもそも、企業とはある特定の目的のために活動する集団であり、その構成員に対しては、経営理念なり目標なりというものを掲げて、各々のベクトルを揃えることが理想的であるとされる。その結果、企業に属する人々は、意識の有無に関わらず、ある種のマインドセットを共有しやすい。一方、「違和感」とは、マインドセットを共有する多勢の中にいる人々よりも、それとは異なるマインドセットを持つ人によって感知されやすいものである。「違和感」を汲み上げるには、その「違和感」を尊重することから始まるが、上述のような状態ではせっかくの「違和感」も多勢の中に埋もれてしまう。しかも、マインドセットの異なるもの同士がお互いを理解し合うのは大変困難な作業であり、時には相手を拒絶するような心理状態に陥ってしまうこともある。
 このように、ある事象を同様に常識として解釈するマインドセットが多くの人に共有されている以上、その企業において感じられる「違和感」とは、非常に繊細な力関係のうえに成り立っているということは認識しておかなければならない。「違和感」は、違和感とは認められずにノイズとして処理されてしまう可能性を常にはらんでいるのである。

3.「違和感」を汲み上げればチャンスに

 以上のように考えていくと、「違和感」とは非常に繊細なものであるといえる。しかし、リスク・マネジメントにおいては、何とかしてこの課題に取り組まなければならない。
 そのためには、完全にとは言わないまでも、やはり自らのマインドセットを熟知する必要があるであろう。さらに、ノイズとも思える人の声を、とりあえずは聞き入れ、その人のマインドセットがどうなっているのかを考えてみることも重要である。時には、本当に単なるノイズに過ぎない場合もあるかもしれないが、マインドセットは疑っても疑いすぎることはないことを心に留めておく必要がある。
 社内の「違和感」を汲み上げることができるようになれば、リスク・マネジメント体制の強化だけに留まらず、経営革新にもつながるヒントを得ることができるかもしれない。「違和感」に耳を傾けるということは、新しいパラダイムの模索でもあるかである。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ