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第7回 食品品質問題とCSR 【太田 康嗣】(2008/11/20)

2008年11月20日 


1.食品メーカの品質問題事件

 最近、大手食品メーカで大規模な品質問題が発生した。工場で使用している地下水から基準値を超える毒物が検出され、大量の商品の自主回収を余儀なくされているというものである。
 基準値を超えているが、人体には影響が及ばないレベルであり、回収品からは毒物は検出されていない。しかし、毒物検出後、発表までに一月以上かかったことが同社の「信頼性」に極めて大きなダメージを与えている。工場の一時閉鎖に伴う従業員の配置転換も必要となっており、一時解雇等に発展する可能性もあるとも報道されている。

2.品質管理に対する取り組みは?

 この企業の品質管理の取組みが気になったので、同社のHPを拝見してみた。そして驚いた。品質管理についての情報が掲載されていないのである(念のためにHP内を検索してみたが、少なくとも「品質管理」というキーワードではヒットしなかった)。にもかかわらず「コンプライアンス」「環境保全活動」「社会貢献活動」のページがあり、「最新情報」には「CSR委員会開催のご報告」という記事もアップされている。
 何か変ではないだろうか?「品質管理」は、少なくとも製造業にとっては、基本中の基本であり、真っ先にアピールすべき、いや、アピールしなければならない事項であるはずである。もちろん、コンプライアンスや環境保全も、品質管理とともに「企業市民」としての当然の責任であり、それらをアピールすることは必要である。しかし、品質管理をおろそかにしては企業そのものが成立しないのであり、そうなればコンプライアンスや環境保全を語る余地自体が無くなるのである。

3.品質管理のアピールを通じて自社のシステムを見直す必要

 おそらく、同社は、品質管理を「当然のこと」として敢えてHPでアピールすることをしなかったのであろう。しかし、少なくとも経営戦略としてのCSRとしては、その選択は、結果として不適切だったかもしれない。
 つまり、経営戦略としてのCSRは、企業を取り巻く「ステークホルダー」(利害関係者)に対する「社会的責任」を果たすことを通じて企業の「持続的発展」を目指すものであり、品質管理は、顧客というステークホルダーへの社会的責任を発揮する大前提である。したがって、企業は、自社の品質管理がいかに優れているかを顧客にアピールしようとするが、この過程においては、当然にアピールポイントの確認作業が行われるため、それが品質管理システムの見直し、レベルアップを促すのである。(現実には、きちんと見直しせずに良いところだけをアピールしている企業もあるようであるが、経営戦略としてのCSRからは「論外」である)。
 あくまで憶測の域を出ないが、品質管理をアピールしなかった、つまり、アピールするための見直しによって情報伝達も含めた品質管理システムの再構築が十分になされなかったことが、今回の事件の原因の一つにはなっていないだろうか?(ちなみに、同社の同業2社のHPには、1社は品質管理のアピールがあり、1社には無かった。そして2社ともに品質管理問題の情報が記載されていたが、前者が保存温度の誤記載であったのに対し、後者では、大規模な化学薬品混入事件が発生していた。)

 こうした事件の報道は消費者の関心の高い業界に集中しているが、業界によらず、これを契機に、自社のCSRレポートやHPを経営戦略としての視点から再点検されてはいかがであろうか。不幸にも問題が発生してしまった企業のHPや事件への対応状況を、消費者視点も入れて、チェックしてみることは自社での改善の手がかりとなる。
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