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外国人観光客へのビジネスチャンス
2008年02月18日 宮地恵美子
最近、特に銀座あるいは表参道などを訪れると、外国人観光客の多さに驚くようになりました。
ここ数年、銀座に中国・韓国系を中心に訪日客が増えたな、と感じてはいましたが、今年はおそらくヨーロッパからの訪問も増えたのでしょう、日本人以外とすれ違うことの多いこと。実際、国際観光振興機構(JNTO)の2007年9月までの訪日客数を見ると、それも納得します。2005年、2006年と訪日客数が2年連続で前年対比で9%の増加であったのが、2007年は9月までの前年比で14%の増加に。韓国・台湾を筆頭にしたアジア諸国からの訪日客数が7割以上を占めていますが、北米からの訪日客はほとんど前年と変わらないことを考えると、欧州からの訪日客の増加も注目です。
近年アジアからの訪日客が増加した背景には、ビザの緩和措置が影響しているのは間違いないのでしょう。アジア諸国の経済発展により金銭的に余裕のある人が増えたことで、訪日観光客の目的は観光からショッピングへウェートが移ってきているのではないかと思います。
欧州からの訪日客数の増加はユーロ高が関係しているでしょうが、寿司を中心とした和食人気やアニメへの関心などに関連して日本への関心が高まっているのではないでしょうか。
いずれにしても、訪日客が増えることは観光産業及びそれに関連した業界に幅広く恩恵を与えるわけですが、観光立国を謳いながら、また東京は世界有数の大都市でありながら、特に訪日観光客へのアピールは寂しいものがあるように感じます。
海外を訪問する際には、まずは言葉の問題、そして右も左もわからない土地での移動手段の確保といったところが大きな問題になります。日本、あるいは東京は未だにその点では発展途上です。
例えば、最近は以前ほど日本人には観光地として話題になっていませんが、香港は見習うべきところが多いと感じます。返還後、中国本土を中心とした滞在客を取り込み、以前に増してバイタリティあふれる都市に変貌しています。
個人的に過去2年ほど毎年香港を訪問していますが、そこでまず驚くことは、なんといっても都心部と空港とのアクセスの良さです。新しくなった広く便利な空港から降り立ち入国審査を済ませば、ほんの数分でチケットを買い電車に乗り込むことが出来ます。空港は都心部からは多少離れているものの、電車も10分以内の間隔で絶えず出ているので、発車時間など気にする必要も無いし、車内も広く清潔で快適。観光客向けの3日間有効の乗車券セットを買えば、値段も日本人から見れば安い。このセットはタクシーを除くほぼ全ての交通機関を利用できて、レートにもよりますが3日間で約4500円ほど。これを使ってあちこち行くぞ!という気になります。
東京はどうかというと、香港のような全域的に使用可能なプランはおそらく無いと思います。東京メトロでは空港と地下鉄等の乗車券がセットになったものを販売していたりしますが、ホームページも日本語のみですし、海外からの訪日客が利用しやすいとはあまりいえないように感じられます。スイカやパスモは短期間の滞在者にはあまりメリットは感じられないシステムですし、スイカはホームページが日本語のみです。パスモは英・中・韓の言語に対応したホームページがあり情報量は十分、今後は旅行者向けのサービスを期待したいところです。
海外での問題のもう一つの言葉について言えば、今でも香港ではとりあえず英語はほぼどこでも通じる、ということは心強いこと。ちょっとした小売店、あるいはスーパー、飲食店なら英語で問題ありません。街中の店で普通のおじさんおばさんの販売員に尋ねても、大体そこそこの会話は成立します。
英語で会話することは日本人からみると「外国」においては当然と考えるのではないでしょうか。しかし東京はどうだろうと思うと、同様の店舗での英語通じる率はかなり低いと思います。銀座などの都心一等地にある百貨店や飲食店であっても、英語で尋ねられただけで、誰かを呼びに行く、という風景を目にします。
また、東京の飲食店で英語のメニューがあるところはあまりありません。ハワイなど日本人観光客の多いところで、日本語メニューが出され嬉しいような、興ざめのような?感じになる事がありますが、観光客への配慮がされていることは間違いないこと。旅に出れば、多くの人がせっかくだからと、財布の紐が緩みやすくなるのは万国共通では無いでしょうか。
その土地の美味しいものを堪能することは、旅の楽しみの一つです。日本の味をより多くの訪日客に親しんでもらうために、そしてもちろん客単価を上げるためにも、メニューや訪日客との会話の工夫を図って欲しいものです。
ショッピングも旅の楽しみのうちの一つ。日本人同様、アジアの訪日客は、日本のファッションや家電など、買物を楽しみにしてくることも多いと聞きます。特にアジアの女性にとっては、日本のファッションや化粧品は魅力的なようです。ところが、現在日本の主要百貨店で、日本語以外の言語で情報を発信していたのは伊勢丹と大丸の2社と、ちょっと寂しい状況です。海外からの買い物客であれは、どんな商品を取り扱っているのか、営業時間など事前に知って、限られた滞在時間を有効に使いたいと思うことでしょう。英語が母国語ではないパリや香港の百貨店の有名デパートも、英語のしっかりしたホームページを持っています。日本人が欧米で買物三昧するのと同様に、アジアを中心とした訪日客の日本での買物ニーズにもっと踏み込むべきではないかと思います。百貨店離れが進んでいる日本ですが、短時間で総合的な買物ができるという百貨店の利点は滞在時間の限られている観光客にとって、大きな魅力であるはずでしょうから。
もちろん、百貨店だけでなく、「日本でしか買えない優れた商品」は訪日客にとって魅力的なはず。訪日客に優しいお店は、少子高齢化の進む日本の観光産業だけでなく、小売業・飲食業の中で成長していく可能性を持っています。
※当レポートは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。