クローズアップテーマ
ヴィジュアルに垣間見る企業理念(バーニーズニューヨーク)
2007年11月14日 宮田雅之
先ごろ、ユニクロによる買収劇で話題となったバーニーズ ニューヨーク。ファッションに敏感な顧客に支持され、アメリカで21店舗を展開しているスペシャリティストアです。今回、親会社のジョーンズ・アパレルがバーニーズの売却に踏み切ったのは、バーニーズ以外の主力ブランドの不振が深刻なため、成長軌道に乗ったバーニーズを高値で売り、てこ入れを図る狙いがある、と報道されています。
バーニーズ ニューヨークは、日本では、新宿、横浜そして銀座の3店舗を展開しています。日本で「バーニーズ」ブランドを展開しているバーニーズ・ジャパンは、米バーニーズとは資本関係はありませんが、マンハッタンの旗艦店を知る人たちを納得させる店作りをしています。筆者も銀座店を訪問する度に、他には無い「バーニーズ」ならではの空気感に魅了されています。
筆者が感じるバーニーズの最大の魅力は、ヴィジュアルのディレクションの力です。日本の多くの百貨店やファッションビルとは一線を画す、デザインの統一感がバーニーズらしさを強く印象付けています。売場のみならず、ショーウィンドーから化粧室に至るまでバーニーズの名に相応しい、上質なプレゼンテーションが施されています。私事で恐縮ですが、筆者にとって東京で最もお気に入りの化粧室は、バーニーズ銀座店の地下1階にあります。
バーニーズのホームページに、企業理念が紹介されています。“Select, don't settle.”「選べよ、固執するな。」バーニーズは、この一言に理念が集約されている、と言い切っています。「安閑と落ち着くことなく、常に新しいものを探し、選びつづけること」を意味しているそうですが、この精神は、販売スタッフやバイヤーだけに向けられたものではなく、ヴィジュアルの担当者にもしっかり浸透していることが伺えます。
企業理念の重要性を否定する経営者はいないと思いますが、その重要性が従業員に明確に伝わっているのか、疑問に感じる企業は多々あります。人の印象が「見た目」の第一印象に大きく影響を受けるように、企業の「見た目」も企業の印象を決める大きな要素です。特に、B to Cのビジネスを展開している企業にとっては、消費者との接点である店舗において、企業の目指す方向性をヴィジュアルで示すことは重要な視点と考えます。
欧米の高級小売企業等で当り前の存在である「クリエイティブ・ディレクター」は、まだまだ日本では十分に認識されていないように感じます。1994年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任し、ブランド再構築の立役者となったトム・フォードのような才気あふれる人物が、企業戦略と密接に関わりながら活躍できる場が、日本企業にどれだけあるでしょうか。ヴィジュアル担当のトップを役員に引き上げ、企業の顔として積極的に情報発信する姿勢が、これからの企業運営の中で強く求められているように感じます。
今回の米バーニーズの買収劇は、ドバイ政府の投資会社が買収することで決着しました。1923年の創業以来、幾多の荒波を越えてきたバーニーズですから、今後もヴィジュアルを楽しませてくれるスペシャリティストアであり続けて欲しいと、一消費者として祈っている次第です。

モダンな中に上質感のある男性化粧室
※当レポートは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
※当レポートに掲載されている写真は、資料用に研究員個人が撮影したものです。