クローズアップテーマ
失われつつある日本型コーポレートガバナンス
2008年10月10日 竹内祐二
はじめに
1990年以前のわが国のコーポレート・ガバナンスは、欧米諸国とりわけアングロサクソン型のそれと比べてユニークなスタイルだと評されてきた。1990年代後半から、世界的な規模でコーポレート・ガバナンス強化の必要性が叫ばれ、わが国においても各種法制度の改革と相まってコーポレート・ガバナンス改革が行われてきた。
現在、わが国のコーポレート・ガバナンスを概観すると、アングロサクソン型に近づくスタイル(洋風ガバナンス)と、制度面は整えても実態は変わらないスタイル(和洋折衷ガバナンス)の2つのスタイルに分けられるようである。
日本企業のコーポレート・ガバナンス
いわゆる1955年体制のもとで、日本企業のコーポレート・ガバナンスは、経営者と株主との関係よりもむしろ、企業と従業員、金融機関、顧客、取引先との長期的信頼関係をベースに構築され、企業経営の第一義的な目的はそれらのステークホルダーを満足させる最大公約数である「永続的な成長」とされてきた。この点は、株主価値の最大化を最優先に構築されているアングロサクソン型のコーポレート・ガバナンスと異なる特性であった。そのほかの特性として、メインバンク制、株式持合い、終身雇用というわが国独自の経営システムを背景として、金融機関、取引先、従業員による経営への暗黙の規律づけが行われてきたことも指摘できる。
日本経済が高いパフォーマンスを維持している間は、日本独自のコーポレート・ガバナンスはユニークな仕組みとして世界から評価された。しかし、バブル経済崩壊を機にその評価は一転し、日本のコーポレート・ガバナンスは機能していないとの批判が高まり、わが国のコーポレート・ガバナンスは変革を迫られることとなった。
洋風のガバナンス・スタイル
洋風のガバナンス・スタイルとは、株主価値向上を最優先し、アングロサクソン型のコーポレートガバナンスを志向するスタイルである。経営トップに権力が集中しないように、経営トップへのチェック体制を確立していることが特徴であり、グローバル化した大企業に多く見られる。
このスタイルのガバナンスが機能するためには、ステークホルダーに対して意思決定の規範・ルールを公開し、その透明性を高めることが重要である。
和洋折衷のガバナンス・スタイル
和洋折衷のガバナンス・スタイルとは、経営と執行との分離、経営監視機能の強化などの制度は整備されているものの、経営トップがほとんどの意思決定に実質的に関与するスタイルである。
経営トップの判断基準は必ずしも株主の論理ではなく、経営トップ自身の価値観である。そのため、企業活動がステークホルダーとりわけ株主には分かりづらいこともある。オーナー企業や長期政権を敷いている企業に多く見られるスタイルである。
このスタイルが機能するためには、何よりも経営トップの高い倫理観が求められる。
おわりに
コーポレート・ガバナンスの問題は、最終的には“企業は誰のものか”という議論に行き着く。この命題に正解はなく、それぞれの企業が答えを見出していくものである。したがって、このスタイルのガバナンスが正しくて、あのスタイルは間違っているとは言えない。
企業が経営の健全性を保つためには多様なガバナンスがあってよいのであるが、日本企業全体が“右に倣え”とばかりに洋風化していくことには警鐘を鳴らしておきたい。