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コーポレートガバナンスを組織風土オリエンテッドで考えよう!

2008年10月10日 水間 啓介


1.はじめに

 日本のコーポレートガバナンスは岐路に立たされている。バブル崩壊を機に弱体化した日本型コーポレートガバナンスを、アングロサクソン型コーポレートガバナンスを参考に、枠組み(制度)での強化を図ろうとしている。枠組み(制度)と実質(風土)が一体となってこそコーポレートガバナンスは機能すると考えるのだが、どうも枠組み(制度)についての議論が先行しているような気がしてならない。
 そもそもコーポレートガバナンスとは何であろうか?それは通常“企業統治”と訳されるが、その意味するところは必ずしも明らかではない。“企業経営に対する規律づけ”と意味づける方がしっくりいくと考える。コーポレートガバナンスには、“外からのもの”すなわち企業外部からの規律づけと、“内からのもの”すなわち企業内部からの規律づけとの2つがある。コーポレートガバナンスというと、とかく“外からのもの”の方が主に論じられるが、“内からのもの”の議論が置き去りにされてはならないと考える。

2.日本におけるコーポレートガバナンスの変質

 いわゆる日本型経営をコーポレートガバナンスの観点で捉えると、メインバンクによる債権債務者関係を軸とし、株式の持ち合いによる安定株主関係を特徴とする外的ガバナンス、メインバンクからの役員派遣や企業内労働組合、そして終身雇用や年功的人事制度など長期雇用に基づく安定した労使関係を特徴とする内的ガバナンスであったとされる。
 バブル崩壊による不良債権問題の発生を端緒としたメインバンク制の弱まりや、時価会計としての国際会計基準に合わせた諸制度の改定を端緒とした株式持ち合いの解消、そしてまた、年功序列から成果主義人事への移行と、年功序列・終身雇用の雇用慣行の後退、グローバル化や国内競争の進展に伴う正規・非正規社員間の格差問題の発生(ワーキングプアの問題)など、企業を取り巻く内的・外的環境が大きく変わってきている。それに伴い、日本のコーポレートガバナンスは、外的・内的ガバナンスともに、この環境変化に応じた変質が求められてきている。(小佐野広『コーポレートガバナンスと人的資本』)

3.アングロサクソン型コーポレートガバナンス改革はうまくいくのか?

 アングロサクソン型コーポレートガバナンスとして“外からのもの”は、敵対的買収の脅威、機関投資家による株主行動、格付機関による格付けを通じた規律づけが主なものとされる。“内からのもの”としては、社外取締役による経営監視、経営者に対するストックオプションなどがある。
 2003年商法改正で、アングロサクソン型コーポレートガバナンスを参考に、初めて委員会等設置会社を選択できる制度を導入し、社外取締役を主とした取締役会による経営監視の機能を強化しようと改革が進められた。委員会等設置会社の制度を導入していない企業でも、社外取締役を置く企業が徐々に増えているが、その賛否が分かれているようである。社外取締役に何を期待するのかを明らかにしないまま、形の上で導入しても機能しないであろう。経営のプロフェショナルとしての取締役の人材マーケットが存在し、社外取締役に株主の利益代表としての使命で経営監視に当たらせるのがアングロサクソン型コーポレートガバナンスである。一方日本では、出世競争のゴールとして取締役の地位・肩書を獲得するという感覚が強く、必ずしも経営のプロフェショナルとの見方がされてこなかった。そして社外の人材を社外取締役として迎え入れても、株主の利益代表との使命はまだ根付いていない段階なので、経営監視に必用な内部情報をどれほど獲得できるか覚束なく、経営監視の機能を発揮させることは難しいと思われる。畢竟、社外取締役に求められるのは、経営についてのアドバイスに限られそうであるが、経営のプロ人材が限られる中で、会社のことをあまり知らない社外取締役が的確なアドバイスをどれほどできるかも未知数である。日本の優良企業の中には、何も社外取締役に経営のアドバイスを頼まなくても、会社のことは自分たちの方が十分わかっているとして、社外取締役を置いていない企業も存在する。

4.組織風土を起点としたコーポレートガバナンス

 コーポレートガバナンスを、枠組み(制度)を先行して考えるのではなく、組織風土を起点にして考えることが望まれる。会社は何のために存在するのか?(存在目的)、何をしなければならないのか?(使命)、何に価値を置いて行動をするのか?(価値観、行動規範)が従業員一人ひとりにまで理解され、浸透し、日々の仕事の中に生かされていることが起点になるだろう。日本の優良企業と呼ばれる企業では、会社経営を規律づける組織DNAが健全なる組織風土を生み出していると感じる。“共生”を掲げるキャノン、現状不満足企業との自覚が根付いている花王など、企業理念が企業経営を規律づけている企業もある。東芝のように、古くはグループ企業である東芝機械のココム違反を契機にコンプライアンス意識を社内に徹底して企業経営を規律づけている企業もある。CSRやコンプライアンスなど取り組みは各社各様であっても、コーポレートガバナンスの実質面で顕著な結果をもたらしている。
 内的に企業経営を規律づけるものとして、経営の透明性を高める枠組み(制度)の構築とその運用により実質的に経営の透明性を上げるような風土になっていることが望まれる。たとえば、顧客やサプライヤーや従業員など様々なステークホルダーからの情報が適時・的確に明確な形で必要とする人の元へ届くようなコミュニケーションチャネルを構築すること、社内の不正や苦情などのネガティブ情報がいち早く伝わるような情報システムが作られていること。それとともに、不正や苦情が社内でもみ消されることのないような風土を生み出していること。昨今「内部通報制度」を構築する企業が増えつつあるが、制度を構築する以上に従業員が我が身の危険を気にすることなくネガティブ情報を通報できる風土を作るかが肝要であろう。「内部通報制度」を内的ガバナンスの要として機能するようにできるかが問われる。

5.おわりに

 日本のコーポレートガバナンスの変質が迫られる中で、コーポレートガバナンスのあり方を考える際の2つのポイントを改めて整理しておきたい。

1)とかく制度によるガバナンスが唱えられるが、枠組み(制度)だけでなく、実質(風土)と一体で、コーポレートガバナンスのあり方を考える必要がある。

2)とかく外的ガバナンスが唱えられるが、外的ガバナンスとともに内的ガバナンスの視点を置き去りにしてはならない。
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