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「経営判断の原則」で取締役の監視・監督機能の実効性を高めよう

2008年10月21日 小坂真


日本企業の取締役は社内昇格した人材が多くを占め、さらに業務執行役員として事業部門のヘッドを兼務しているケースが多いことは皆さんもご承知の通りです。
専門的かつ迅速な意思決定が要求されている今日の企業経営の現場において、代表取締役社長はもとより、営業部門担当取締役、管理部門担当取締役など、各取締役は自己の担当分野の業務執行において、専門性と経験に裏付けられた能力にもとづいてその責任を十分に果たされていると、コンサルティングの現場でも実感します。

一方、「取締役」として、「代表取締役を含む、他の取締役の職務の執行の監視」をせよとなると、「所管外」の分野の取締役の業務執行を監視・監督できるだけの理解を自分が有しているか自信がない」、「越権行為となるので、もの申すのもはばかられる」といった本音も見え隠れします。不確実性の高い経営上の意思決定について「妥当か妥当でないか」を他人が監視し判断することなどそもそも不可能という声もききます。

明らかな違法行為や、利益相反行為等ついては論外ですが、「取締役の善管注意義務」といった抽象的な責任となると「取締役としての自分」が具体的にどのように果たせばよいのかと言われても、自己の所掌業務に最善を尽くす以外のことは、正直いうとよくわかりません。

株主代表訴訟等の現場では、取締役の善管注意義務違反が問われる場面で、「経営判断の原則」を適用するのが、判例の傾向であるといわれています。
これは、取締役の経営判断の当否について、結果責任を問うのではなく、「その前提となった事実について不注意な誤りがなかったかどうか」「その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理でなかったか」との観点から判断するとするものです。

「経営判断の原則」は、業務執行取締役が、自らの業務執行における善管注意義務違反を問われるケースにおいて適用されるものとされていますが、この原則は、取締役の監視機能の実効性を高めるためにも重要な示唆となると考えます。

すなわち、取締役は、お互いに、各業務執行取締役の意思決定について、その意思決定の前提となる事実認識に誤りがないか、意思決定プロセスの合理性が確保されているかについて相互にチェックすることで、自らの責任が適切に遂行されていることを相互に確認し補うことが極めて重要ではないでしょうか?  


「監視・監督」という言葉に「上から目線」や「敵対心」を感じるのではなく、相互に適切なけん制機能を確保することで、取締役が相互に負っている責任の重圧を軽減し、存分に力を発揮し、企業ひいては株主の利益につながる。そのような前向きな形で取締役の監視・監督機能をとらえることも、その実効性を高める上で重要ではないかと考えます。


※ なお、本原稿は筆者の個人的な見解に基づくものであり、また、法令の適用・解釈等についての助言を意図するものではありません。
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