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温室効果ガス削減における中期目標の議論を考える

2009年05月13日 三木優


 日本経団連は、日本の温室効果ガス削減の中期目標について、1990年比4%増が妥当であるとの意見書をまとめた。中期目標検討委員会が示した、6つの選択肢の中で、最も削減量が少ない選択肢を選んでおり、「高い排出削減目標」=「経済活動の制約」と考える産業界の懸念を反映したものとなっている。

 一方、中期目標に関する意見交換会や「地球温暖化問題に関する懇談会」では、環境NGOなどが、先進国としての責務や国際交渉での立場の強化を理由に、6つの選択肢の中で、最も削減量が多い1990年比25%減を推している。

 中期目標は、最終的には6月中に麻生総理大臣がこれらの議論を勘案して、最終判断をされることになっている。しかし、産業界と環境NGOの意見が6つの選択肢の両極端に割れているため、どのような目標になるのか、着地点が見えない状況となっている。

 中期目標検討委員会から、6つの選択肢が示された以降の流れを整理すると上記のようになっているが、私はこれまでの議論・主張に強い違和感を持っている。それは、日本がどのような中期目標を掲げるにしても、それは「大気中の温室効果ガス濃度を一定に保ち、気候変動を防止する」と言う究極的な目標に対する中間地点の目標として、どのように位置づけられ、どのように達成するのか、と言う視点が欠けている事である。

 つまり、乱暴な言い方であるが、4%増でも25%減でも、どちらでも良く、最終的に2050年に60~80%減となっている社会が実現できていれば、概ね問題は無い。そこに至るパス(経路)を描く上で、4%増でも妥当性があるのか、あるいは25%減でなければ無理であるのか、そのことを論じなければ意味がない。

 4%増の中期目標を掲げた場合、2020年以降は2050年に向かって、かなりの削減が必要となる。そのため、2020年以降に花開く低炭素技術の開発に依存する割合が非常に高くなり、不確実性が増す事になる。したがって、4%増を選択するのであれば、技術開発の不確実性を低減する施策が必要であり、具体的には技術開発プログラムの強化や短いレンジでのマイルストーンの設定、技術開発が進まない場合のコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の提示などがセットで示されなければならない。

 25%減の中期目標を掲げた場合、2020年までにかなりの削減が進んでいるため、2050年に向かって、それまでの削減ペースを緩める事が可能になり、一見すると不確実性が低くなるように見える。しかし、温室効果ガスの削減目標は高ければ高いほど、その実現には多くの資金が投入されており、中間地点の目標を達成するために社会が疲弊し、結果としてそれ以上の取組が出来ない可能性がある。したがって25%減を選択するのであれば、企業・家庭への負担をいくつかの前提を置いて詳細に検討し、より負担の少ない方法にて達成可能であることを示すべきである。具体的には、原子力発電などの現状で利用可能であるが、法的・民意的に利用が進まない低炭素技術の利用推進方策、削減のために必要な資金と技術開発に必要な資金の総量の推計、必要となる規制の種類と範囲などをセットで示して、実行可能であるか、2020年以降も削減努力を継続できるか検証しなければならない。

 単に「高い目標は大変」、「低い目標は国際社会から笑われる」と言う表面的な議論はそろそろ卒業し、自分たちの主張が「大気中の温室効果ガス濃度を一定に保ち、気候変動を防止する」と言う究極目標に、整合していることをきちんと説明すべき時期ではないだろうか。
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