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省エネサービスの普及展開を目指して

2009年01月07日 熊井 大


 三井住友銀行では、2008年3月から、三井住友銀行ニュースレター「気候変動と排出権取引」という排出権関連レポートを毎月発行している。
 
 日本総合研究所では、このレポートに毎月寄稿(~JRI’s EYE~)を行っており、2008年11月~2009年1月(予定)計3回は、私が担当した。

 このレポートに寄稿するにあたり、スペースの関係上書ききれなかった内容や、個人的な見解であるため、三井住友銀行のレポートとして適切ではなかった内容について、2009年1月~2009年3月(予定)計3回にかけて、この欄で補足をしていきたい。

 今回は、参考文献にある第9号において、「排出権付商品の開発テクニック(前編) ~省エネサービスを狙え~」と題して寄稿した内容について補足する。

 まず、私の地球温暖化問題対するスタンスだが、以下の通りである。

・京都議定書は地球温暖化防止に向けた、あくまで一里塚であって、これから50年、100年、人類や世界全体が長期的なスパンで取り組んでいかなければならない問題である。
・しかしながら、京都議定書は一里塚として極めて重要であり、まずはこれを達成しないことには何も始まらない。
・達成するためには、日本の温室効果ガスの排出量は、環境省の2007年度の速報値から考える限り、憂慮すべき状況にある。
・今年(2009年)は、2008年12月29日付けの日本経済新聞第9面の経営者アンケートにもあるとおり景気回復が見込まれない中で、市場経済がダメージを受けない範囲で、「やれることはすべててやる、将来云々はなし(後でやりますはなし、という意味)」という考えのもと、一丸となって取り組む必要がある。

 そのためには、新エネ・省エネの製品・サービスを消費者が積極的に購入することが必要条件となってくるが、人によって意見はいろいろあるものの、日本人はNIMBY(Not In My Back Yard)である方が多いと考えられ、コストオンする新エネ・省エネの製品・サービスは購入しない傾向が強い。同じ価格帯の製品・サービス郡のなかで、新エネ・省エネ性能が高いものを選択する傾向は、家電製品や自動車を中心にはじまっているが、新エネ・省エネ性能の高い製品は、基本的には、プラチナ等の貴金属を使用する等によって部品単価を高めるし、製品の組立て工程で特殊な技術を使用すること等によってコストもかかるため、製品価格は通常のものより割高になってしまう。

 温暖化関係の学会の中で、「計画性のない消費者、衝動買いを行う消費者は、新エネ・省エネ性能の高い製品を購入しない傾向にあり、結果的に環境配慮意識が低い」という研究を行っている研究者がいる。新エネ・省エネ性能の高い製品を買う・買わないという選択行動については、新エネ・省エネ性能の高い製品を買うことによる投資回収(リターン)を消費者がどれだけ考えることができるかにかかっており、要は、新エネ・省エネ性能の高い製品について、家電であれば電気・ガス、自動車であればガソリン代金が浮くはずなので、その浮いた分のコストを足し合わせていけば数年(早ければ1年やそこら)で投資回収できるはずなのに、賢くない消費者はそこまで考えが至らないようである。

 新エネ・省エネの製品については、どこかのメーカーのCMではないが、エコ上手やエコ替えなどで消費者にわかりやすく説明していきながら、環境教育を交えて普及促進を進めるのが常道と考える。省エネのサービスについては、製品とは異なる振る舞いをするので、企業は普及方策を変えるべき、その普及方策の一つとして、排出権付サービスを開発するのも一つの手だと、三井住友銀行のレポートで提案した。

 新エネ・省エネの製品の場合、普及が進んだ際のコスト削減のリターンは消費者にあるが、省エネのサービスの場合は、”コスト削減は、サービスを提供する企業側にリターンがある”ことが良くも悪くも普及しにくい原因となっている。三井住友銀行のレポートでは、ホテルのリネン交換を例にあげたが、ホテル側にとってみれば、「わかっているんだけど、積極的に宿泊客に対して言ったり、宣伝しにくい」そうである。事情としては、”宿泊客からホテルがケチっているんじゃないか”と思われるのが一番きついそうで、”地球温暖化防止のために宿泊客も協力して欲しいと言いたくても、言いにくい雰囲気がある”というのが現実のようである。だからこそ、身銭を切るではないけれども、排出権等を使って、協力してくれた宿泊客に対してカーボンオフセットを行って、褒めたり、表彰したりすることによって、その行動の重要性を宿泊客に理解していただき、続けてもらうことが重要と考える。

 金融業(銀行、保険等)においても、簡易なサービスについて、窓口対応からインターネット対応に切り替えていただくべく、排出権等を使った顧客の誘導策をはじめつつある。ホテル業や金融業に限らず、多くの業界で、排出権を使って、今あるサービスを省エネ化されたサービスに顧客を誘導する方法があると考えられる。そのため、多くの企業でこのような取組みを企画し、開始して欲しいと私は切に願っている。

【参考文献】
・三井住友銀行;「気候変動と排出権取引」ニュースレター第9号,p6,2008年
・環境省;;我が国の温室効果ガス排出量 2007年度(平成19年度)温室効果ガス排出量(速報値),2008年
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