コラム「研究員のココロ」
キャリア・コンサルタント資格とビジネス・リーダーの役割
2008年12月08日 大野 勝利
キャリア・コンサルタント資格とは
12月21日、「キャリア・コンサルタント」の資格試験が実施される。137職種ある国が認定する技能検定資格として新たに加えられた国家資格である。
キャリア・コンサルタントは、労働者が職業選択や職業訓練受講等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう支援する役割を持つ。2002年に厚生労働省が、官民合同でキャリア・コンサルタント5万人の養成を標榜したことから、その存在が広く認知されるようになった。
これまでは、厚生労働省の認可を受けた団体がキャリア・コンサルタント養成講座と認定試験を主催してきたが、このたび特定非営利法人キャリア・コンサルティング協議会を技能検定実施団体として国が認定する専門の国家資格となったのである。
キャリア・コンサルタントの役割に、「職業能力形成システム(通称「ジョブ・カード制度」)」参加者に対して実施されるキャリア・コンサルティング業務がある。ジョブ・カード制度とは、個人の職業経験や職業訓練経験などのキャリアを詳細にまとめ、それらをキャリア・コンサルタントが確認、認定した「ジョブ・カード」を発行し、就職・転職に活用する制度で、一定の要件を満たせば企業側も実習や訓練に関わる助成金が受けられる。
キャリア・コンサルタントの能力要件
キャリア・コンサルタントになるためには、表1に示した能力要件を習得しなければならない。
能力要件にみられるように、キャリア・コンサルタントには、労働者に自らの職務経験を振り返らせ、将来の職務適性に関する相談対応ができる能力、現状の担当職務に限定しない広い視野、そして、職業生活、職業能力に関する目標設定・能力開発の実行支援ができる能力が求められている。
リーダーの部下に対する人材育成役割
ある企業において「管理職の役割はきわめて多様だが、もし、最後の一つにまで絞るとすれば、何を残すか」について議論したことがある。時間をかけたその議論の結論は、“人材育成”であった。
この結論がすべての企業やあらゆる経営環境にあてはまるかどうかについては異論もあろうが、企業の管理・監督職、あるいはいわゆる“リーダー”には、部下の能力を高める責務が課せられていることは疑いない。
ここでいう人材育成には、次の2つの内容が含まれている。
1.現在の職務において高く貢献できる知識・技術を身につけさせる。
2.中・長期的に貢献できる人材となるよう、本人の適性や職業意識等を総合的に判断してキャリア形成を支援する。
1.は、日々の業務遂行に際して、または目標管理制度に見られるような業務管理の仕組みを通して、広く実施されている。また、この意味の人材育成の責任者が直属の上司としてのリーダーであることについてもほぼ問題ない。部下の職務を管理・統制しているのは上司であり、また、多くの場合、その職務は上司本人が過去に担当していた職務であったりするからである。
一方、2.の中・長期的なキャリア支援が充分にできている企業は多くない。これは、そもそも、中・長期的なキャリア開発を支援できる能力をリーダー自身がもっていないことが主な原因と考える。
筆者自身も、前職である医薬品メーカーの人事マネージャーの頃、部下のキャリアについて相談にのる機会はほとんどなかった。たとえ部下から相談されたとしても、その頃の自分には、相談に応じられるだけの充分な能力は持っていなかったと思う。
ビジネス・キャリアの発展的継続は、何も一足飛びに外部人材に頼る必要はない。我々企業に属する者は、自分の仕事、経歴を詳細に判ってくれている上司、リーダーをもっている。そのリーダーが部下のキャリアについて指導できる能力があれば、第一段階でキャリアの相談を行うのは、リーダーであるべきではないかと考える。
リーダーに対するキャリア・コンサルタント能力研修
キャリア・コンサルタントの資格取得のために必要とされる能力要件は、リーダーが部下からのキャリア形成についての相談に応じるための基本的な知識・技術としてとらえることができる。そこで、最終的に国家資格を取得するか否かは別にして、キャリア・コンサルタントになるための学習がリーダーとしての人材育成力の向上につながるものか確認するため、実際にこの養成講座を受講してみることにした。
厚生労働省認可団体が主催するキャリア・コンサルタントの養成講座は、表1の能力要件にそって実施されている。その研修は、企業の外からビジネス・キャリアの発展、継続を支援できる人材を養成するためのものであり、その前提において目的に合致し、充実した内容になっていた。
しかしながら、この研修はあくまで企業外の者がキャリア相談をおこなうためのものであるため、企業内に存在する職務内容や、キャリアを積むための組織からのメッセージ・必要条件を具体的に示して語り合う時間が充分でないという問題も確認できた。リーダーが部下のキャリアをコンサルティングするための研修としてとらえた場合、付加すべき内容、また、削ってもよいと考えられる内容があった。
以上のような課題認識を強く持つに至り、現在、“ビジネス・リーダー”を対象とした「キャリア・コンサルティング能力向上研修(仮称)」を企画しているところである。現在企画中の研修と、厚生労働省認可団体が主催するキャリア・コンサルタント養成講座との違いは表2に示すとおりである。
ビジネス・リーダーとしての重要な役割である人材育成をおこなうための能力アップに活用していただけるよう、カリキュラム内容を熟考し、来春までにはホームページ等で紹介させていただく予定である。
注記:
今回スタートした国家資格は、キャリア・コンサルティングの技能が一定レベル以上にあることを国が認定するものであり、弁護士や公認会計士などの業務独占の権利が認定されるものではない。