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コラム「研究員のココロ」

地域ビジネスのココロ~プロジェクトを興す

2009年05月18日 柿崎平


はじめに

 地域の資源を最大限に活用し、他とは異なる商品やメッセージを伝えることで、市場の評価を得ていこうとする動きが全国各地で展開されている。事業者が単独で取り組む例もあるが、大半は、地域の同一業界内の複数企業による共同事業であったり、異業種間の連携(農商工連携など)であったりする。複数の事業主体が連携し合うことによるシナジー効果を狙うわけだが、一方で、そのマネジメントが非常に難しいものになることは意外に注目されていない。
 それほど接点の無かった農業と商工業が一緒にやれば自らよいものが生まれてくるはずだとする素朴なプロジェクト観があったのではないか。しかし実際は、「地域」という複雑な要素が絡み合う環境で、新たな事業を興していくことは、それほど容易なことではない。以下では、地域ビジネスの活性化を目指したプロジェクトを興そうとする際に、留意しなければならないポイントを考えてみたい。

事業計画をつくる

 プロジェクトを興す上で先ずもって必要となるのは事業計画である。それが無ければ、事業に必要な資源(人、もの、金)を確保できず、どれほど高邁な想いがあったとしても、現実的には身動きがとれない。新規性の高い事業を進めようとすればするほど、関係者の説得のために事業計画書の役割が重要になる。新規性が高ければ、「やってみなければわからない」要素が多くなるだろうが、そうだとしても、それを他の人や組織に伝えて、理解や納得を得ていく必要がある。政府の補助事業に申請する場合でも当然ながら事業計画書の提出を求められ、その内容が採否を左右することになる。

政府の補助事業を利用する際の陥穽

 現在、地域ビジネスを応援しようとする制度があることは広く知られている通りだ。経済産業省、農林水産業の補助事業をはじめ、各都道府県でもさまざまなメニューが用意されている。その意味では、地域でビジネスを立ち上げようとするには、非常に恵まれた環境にあるといえなくもない。実際に数多くの事業が補助金を得て展開されているが、すべてが成功しているわけではなく、期待された成果を残さずに終わっている例も少なくない。そこにはどのような問題があるのだろうか。その際、陥りがちなミスを見ていこう。

(1)現状分析から逃げる

 1つ目は、補助事業の場合は、その資金を活用して「何をやるか、どうやるか」といった手法論が先行してしまう傾向がある、ということだ。補助金を得るためには、「何にお金を使うのか」を正当化しなければならないと思うあまり、「お金の使い方」のみに意識がいってしまう。そもそも当の事業に「なぜ取り組む必要があるのか」、「今取り組まなければ、この先どのような状態になるのか」等々を徹底的に分析し、共有しなければならないはずだ。それを経ずして適切な手法が検討できるはずもない。つまり、地域産業の現状を正面から直視するところからはじめてこそ、説得力のある事業計画が描けるし、それがない事業計画は画餅に終わることは目に見えている。その現状分析が意外に難しい。辛い作業なのだ。だからこそ、それを省略してしまう地域が多い。実は現状分析は、現在の状況、様々な事実をただ単に並べたてるだけではできない。何らかのフレームワークが必要となるし、それを意識的に用いない場合であっても、見る人の「見方」が前提となっている。その意味では、誰が現状を分析するかが重要になる。もちろん地域内の関係者が当事者意識を持って検討することが重要だが、同時により広い視点から当該地域や産業を見ることができる立場の専門家の活用も有効な場合もある。

(2)中期シナリオの不在

 二つ目の陥穽は、単年度の補助事業の場合に多いが、目先の議論に終始し、中長期の事業展望シナリオをほとんど議論せずに進む傾向がある点だ。これも前述の補助事業の性質に「過剰適応」してしまった結果であろうが、とにかく1年間のTo-Doリストをこなすことに終始してしまう傾向があるようだ。活動結果を報告書に記録し、しかるべき役所等に提出して「やれやれ、お疲れ様・・・」となってしまう。現場は役所が用意したメニューをこなすことが目的となってしまっている。正に本末転倒だ。そうならないためには、補助制度を1つのリソースとしてとらえていく視点が不可欠になる。それが出来るためには、地域側に中長期の事業展開シナリオがなければならない。中長期シナリオの中で「補助事業の1年間」をマネジメントするスタンスが求められている。と言っても、中長期シナリオを固定化する必要もないし、してはならない。具体的なアクション、例えば補助事業の活動を通じて、地域ビジネスの新たな可能性が拓けてくる場合もある。実際に行動することではじめて見えてくることは多いし、もっと言えば、自らが動くことで周りの環境が変わっていく場合もあるのだ。それに気付けるかどうかが重要なわけだが、そのためには、事前の「仮説としての中期シナリオ」を持っておくことが有利に働く場合が多いのである(注1)

プロジェクト・ガバナンスを明確化する

 補助事業でも自主事業でも構わないが、地域で何らかのプロジェクトを開始する際、既存の人間関係や権力配置を配慮するあまり、プロジェクト推進の意思決定ルール等を曖昧にしてしまうことが多い。あるいは、特定の個人が過度な実質的権限を持ってしまう場合も見られる。
 プロジェクトの重要な意思決定事項を予め明示し、その「決め方」を決めておくことが大切である。特に事業全体の進捗状況等を常に把握し、必要な修正行動を促すことができる仕掛けづくりが必要だ。このような役割をカリスマ型リーダーに求めてしまいがちであるが、必ずしもそのような人物がよいわけでもない。むしろ、地域に密着しつつ(熱くなりつつ)、なおかつ地域外のことにも通じている(=冷めた視点を持つ)商工会議所や商工会等、地域の経営支援機関が組織として担う方がよい場合もあるだろう。
 また、地域ビジネスに精通している外部のコンサルタントやデザイナー等を活用することも一つの方法である。その際は、その役割を明確にしておくことが大前提になる。地元側の認識と、コンサルタント側の認識にギャップがあったためにプロジェクトが進まなかった例も少なくない。地元側はコンサルタントに過大な期待を抱き、一方でコンサルタント側は間接的な関与に留まろうとし、結果的に両者の間に不信感が生じてしまう。外部のコンサルタントやデザイナーを起用する場合は、間違っても「先生」などと無闇にまつり上げることなく、地元側から自分たちの考えを積極的にぶつけていくこと(押し付けることとは違う)、その上で専門家のアドバイス等を求めていく必要があることを認識しなければならない。専門家を上手く活用するノウハウも地元側には必要なのである。

事業者の「本気」を引き出す

 地域から新たな事業を興していくには、地域が一丸となって取り組まなければ成功しない、とよく言われる。しかし、現実的にはそれがなかなか出来ないのだ。
 そこには、地域で行うプロジェクト固有の難しさがある。地域から新たな事業を創造していくことを目指したプロジェクトを興そうする場合、当該地域内で相対的に順調な経営状況にある事業者は、現状の「秩序」を崩すことを恐れ、当の新たな取り組みに対して、ある種の警戒感を抱いてしまう場合があるようだ。下手な取り組みを進めて、結局は自社の立場を弱めてしまうことにならないか、共同事業という名の下で、自社固有の技術を他社(=競争相手)に教えてしまうことにならないだろうか、という意識が働いてしまうのである。1つの組織の存亡に責任を持つ経営者であれば当然の意識であり、それを非難することはだれにもできない。しかし、その「合理的思考法」だけでは、地域産業全体が地盤沈下し、最終的には当該の事業者のビジネスも立ち行かなくなってしまうことも同時に理解してもらう必要がある。地域に埋め込まれたビジネス、とりわけ地域の伝統的産業であれば、「地域が沈んでも特定の事業者が生き残る」というシナリオはあり得ないことを関係者が共有していくことが求められる。つまり個別事業者の論理と地域の論理の接点を、過去に捕らわれずにいかに見出せていけるかが、ポイントになるのである。

(注1)
一方で、事前のシナリオに縛られてしまう可能性も否定できない。事前のシナリオを重視するあまりに、それに合致しない情報等から目をそらしてしまう傾向だ。
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