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コラム「研究員のココロ」

モチベーション・マネジメント再考

2008年11月10日 芦田弘


社員の意欲、日本は最下位

 日本における社員の意欲(モチベーション)は、23カ国中最下位であるという英調査会社のショッキングな調査結果が最近報道された。
 バブル崩壊後、各企業は、経営環境が構造変化する中で、これらを乗り切るために様々な経営努力を重ねてきた。しかし、社員の「一体感と熱意」が低下してきたと感じている企業が増えている。そして、景気停滞の波が再度押し寄せる今、社員のモチベーションが低下した経営組織では、新しい成長どころか現状維持さえも危ぶまれる。
 そこで、モチベーション低下の背景を探る一方で、モチベーション・マネジメントについても考えてみた。

モチベーション低下の背景

(1)インターナルブランドの低下

 安定成長をある程度期待できた時代とは異なり、社員が自社ブランドに高い誇りを持ちにくくなったことが背景にある。例えば、トップマネジメントが、複雑化・高度化・スピード化する経営環境に対して的確な経営戦略を打ち出せず迷走するケースや、コンプライアンスを無視した不祥事が多発している。こうした事態が繰り返される企業では、経営者や経営幹部と社員の信頼関係が崩壊し、モチベーションも低下する。

(2)成果主義の弊害

 成果主義の人事制度については、賛否両論がある。曖昧だった個人目標を明確にし必達を宣言させ結果で評価する制度の考え方は正しい。しかし、運用のあり方によっては、社員が挑戦的目標設定を避けたり、チームプレイに支障をきたすなどの問題が表面化している。極端な批判としては、勝ち組の優秀な社員だけが儲かる制度であるとのコメントも見かける。このように全社員の納得感を得にくい評価制度であれば、高い評価を与えられていない社員層のモチベーションは低下する。


(3)エモーショナル・キャピタルを軽視

 経営資源の分類概念はいろいろあるが、ビジネスキャピタル(有形資産)、インテレクチャルキャピタル(知的資産)、エモーショナルキャピタル(情的資産)という分類が注目される。どれもが同等に重要であるにもかかわらず、各企業が見失い忘れてきたのは、エモーショナルキャピタル(情的資産)ではないだろうか。この資産に対する重要性の認識不足や関心の薄さがモチベーション低下の要因になっている。

(4)M&A(合併・買収)の後遺症

 国内市場が飽和・縮小する中で、オーバーカンパニーと言われる企業数の過剰状態が調整を迫られ、事業再編を伴うM&A(合併・買収)が増加している。価値観、思考パターン、行動習慣等が異なる2つの組織がひとつになる場合、組織としてのベクトル合わせが課題になるが、一歩誤るとモチベーションの低下を引き起こす。特に、モチベーションの水準に格差がある企業同士の合併や吸収合併の場合は、モチベーションを維持・向上させるのが難しい。

モチベーションの変動要因

 モチベーションを変化させる要因を知ることは、モチベーション・マネジメントを考える上で参考になる。その研究の歴史(欧米発)は古く、心理学および経営学の分野で様々な学説が発表されているので、目にされた方も多いと思う。
 基本的なキーワードは「期待と価値」と「外発的/内発的動機づけ」であると考える。人間は自分にもできそうだ(期待)と思えた上で、その結果、得られる価値が魅力的であればモチベーションは向上する。例えば、極めて魅力的な価値が提示されても、とても自分にはできそうもないと思ったらモチベーションは上がらない。すなわち、期待と価値のバランスの上にモチベーションは存在している。そして、得られる価値は、外発的動機づけ要因(金銭・地位等)と内発的動機づけ要因(やり甲斐のある仕事・周囲からの賞賛等)に分けられる。これもバランスが求められ、外発的動機づけのみに頼ると危険であり、モチベーション向上には、むしろ内発的動機づけが重要であるとされている。ちなみに、内発的動機づけ要因は、有能感と自己決定であると主張する学者もいる。

(図1)モチベーションの変動要因



モチベーション・マネジメントのあり方

 モチベーション・マネジメントとは、社員のやる気を常に見守り、やる気の維持・向上につながる管理活動を行なうことである。モチベーション向上を図るために、人事制度、福利厚生施策、職場環境等を改善することは重要である。しかし、このような全社的対策ばかりに目が向き、個人別対策が疎かになるのであれば問題である。モチベーションの変動要因には、そもそも個人差がある。同じひとりの人間でさえ、時と場合によって、欲求や動機の重要性が変化する。
 したがって、モチベーション・マネジメントでは、管理職と部下の個対個のコミュニケーションが重要な意味を持つ。自分の部下を一人の人間として捉え、きちんと向き合ってモチベーションを向上させるような対話を行っている管理職が、果たしてどの位いるだろうか。

モチベーション・マネジメントの実践方法

 モチベーション向上を図るための管理職と部下の個対個のコミュニケーションには4段階の構造があると考える。それは、日常の発生頻度順とも関係するが、a.声をかける、b.ほめる、c.意見を聞く、情報を共有する、d.一緒に考える、ヒントを与える、の4段階である。
 例えば、朝の挨拶でも休憩中の雑談でも構わないが、日々の「声かけ」が起点になる。部下が、自分は関心を持たれていると感じられることがモチベーションの土台になるからである。
 部下を「ほめる」ことも、意識すれば、それほど難しいことではないはずである。これは、内発的動機づけ要因である有能感を与えることにつながるので、モチベーション向上のための重要手段になる。
 「意見を聞く、情報を共有する」を実践すると、部下が、チームの一員として認められているという存在感や一体感を感じる。したがって、有能感に加えて親和欲求(人とつながることへの欲求)を満たすことにもつながり、モチベーション向上を促進する。
 「一緒に考える、ヒントを与える」は、管理職としては一番頭を使う対話になる。狙いは、部下に、自分にもできそうだという期待を持たせることである。そうなれば、部下は内発的動機づけ要因である自己決定も併せて手に入れることができる。

(図2)管理職と部下のコミュニケーションのポイント



 そして、このモチベーション向上を図るための管理職と部下の個対個のコミュニケーションを定着化させるためには準備が必要になる。
 ひとつは、管理職研修である。モチベーションについての各種理論等を学び、グループ・ディスカッション等を通じて、モチベーションの変動要因や向上策について共通認識を図ることが重要である。各管理職が勝手な解釈で、形だけまねても真のモチベーション向上には結びつかない。
 その他の仕掛けとしては、例えば、社員のモチベーションを定点観測するツールおよび運営体制の構築や、モチベーション向上への取り組み姿勢とその成果を管理職評価の項目に加えることなどがあげられる。
 永遠の経営課題である、モチベーション向上のヒントにしていただければ幸いである。
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