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コラム「研究員のココロ」

自治体経営改革への提言2 : リスクに強い自治体経営システムの構築
~自治体の危機管理対応に業務継続計画(BCP)は必須~

2009年03月23日 


リスクにさらされている自治体

 1995年の阪神・淡路大地震以降も、各地で大規模な地震が頻発し、今後も首都直下地震、東南海地震などの発生が懸念されている。また、台風やゲリラ豪雨による洪水も毎年のように発生するなど、自然災害による人的・経済的被害は絶えない。さらに、最近では新型インフルエンザによるパンデミックが注目されているように、住民の生命・財産や日常生活に対する脅威(リスク)が多様化・拡大してきている。
 自治体(注1)は、住民に対して様々な行政サービスを提供しているため、自らも様々なリスクの影響を受けやすい。自治体が関係するリスクには、以下に示すような自然災害、社会的事故、テロなどの外的要因によるものと、財政破綻、行政内部の情報システムダウン、個人情報の漏洩、不祥事などの内的要因によるものがある。しかし、これらのリスク要因により、自治体がその業務機能を停止または中断してしまうと、地域や住民に対して多大な影響を与えてしまう。



脆弱な自治体の危機管理機能

 このような不測の事態が発生した場合、行政サービスを住民に最も近いところで提供している自治体は、応急・復旧業務や通常業務の継続のため緊急の対応を迫られる。ところが、自治体の危機管理における現状をみると次のような問題点があると考えられる。

1)現行の防災計画の弱点

 自治体では、災害対策基本法に基づき「地域防災計画」が策定されている。地域防災計画は、予防・応急対策・復旧・復興に係る一連の業務を総合的に示す計画であるが、問題点が2つある。
 1つは、計画の実施主体として想定されている自治体自身は被災していないという前提になっていることだ。現実的には役所の庁舎が倒壊する事態も起こり得るし、応急対策などに携わる予定の職員が被災するケースも十分考えられ、実際の災害発生状況の中では計画の実現性がどの程度担保されているかは明確ではない。
 2つ目は、計画の内容が予防・応急・復旧業務を対象としているが、通常の行政サービスが対象とはなっていない点である。通常業務の中には、住民の日常生活に不可欠なサービスも含まれているので、災害等によりこれらの業務が途絶してしまうと、住民の生活に著しい影響を及ぼす恐れがある。

2)危機管理体制の問題

 危機管理の対象となる業務は、従来の自然災害に影響を受けるものから、多種多様なものへと変わってきているため、計画策定や組織体制の検討、訓練などを行う際には庁内横断的に取り組むことが必要になっている。しかしながら、現行の組織体制では、縦割り的な組織の壁に阻まれ、本来あるべき危機管理機能が発揮されにくくなっている。そのため、危機管理を担当する部署は、首長直轄の組織あるいは独立した組織として設置され、緊急時のみならず、平常時でも危機管理関係の業務を効率的・効果的に実施できるような体制が求められる。

3)具体的な行動計画の欠如

 ひとたび災害等が起こると、現場は混乱するため、防災計画などがあったとしてもその通りにはなかなか対応できないと言われている。実際、被災したある自治体では、初動期に、参集した職員をその時点で必要と思われる部署に配置していったため、事前に計画された班体制・業務分担どおりには運営されなかったようだ。つまり、ある程度の体制、業務分担などを示した計画が策定されていても、より具体的な被災時の状況を想定した業務分担や組織体制の詳細計画がなく、またそのシミュレーションや訓練が行われていないと、災害発生時にはほとんど機能しない計画となってしまう。

自治体版業務継続計画(BCP)の必要性

 自治体のリスクへの対応力は、人的・経済的被害の大きさや発生後の復旧期間などを左右すると考えられる。それゆえ、仮に自治体自らが被害を受けたとしても、住民の生命や財産を守ることが自治体の責務である限り、少なくとも住民の生活に不可欠なサービスは、どのような状況にあっても継続しなければならない。そのような観点から、多くの企業では策定の動きが広がっている事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)のコンセプトを自治体にも取り入れるべきである。BCPは、「大地震」や「パンデミック」のような様々な不測の事態が発生しても、その組織や顧客・利用者にとって優先すべき重要な業務を中断させず、あるいは中断したとしても可能な限り短期間で業務を再開・継続することができるよう、事業(業務)を継続するために必要な要員の確保、バックアップシステムやオフィスの確保などを具体的に行動計画として示したものである。
 BCPの策定については、わが国では企業に比べ公共分野ではほとんど進んでいないのが実態である。一方、大規模な天災やテロ(9.11)を経験している米国では、国土安全保障省の一部であるFEMA(連邦緊急事態管理庁)により策定されたBCPガイドラインをベースに、州レベルでは市町村向けに計画策定用の具体的なマニュアルなどが用意され、実践レベルまで展開されている。わが国の自治体でも早急に取り組む必要がある。

自治体への業務継続計画適用の要件

 これまで自治体の危機管理対応力を高めていくため、BCP策定が不可欠であることを述べてきたが、最後に、自治体がBCPを策定する際の要件を提示したい。

その1)BCPについての全庁的な共通認識の醸成

 自治体には既に地域防災計画があるので、BCPとの違いや、BCP策定の意義については、まず、庁内で事前に十分な理解と合意を得ておく必要がある。策定作業では、全庁的な協力が必要となるので、関係部署への負荷を軽減するため、一からBCPを策定するということではなく、既存の地域防災計画にBCPの視点を取り入れた内容に改良していくという考え方が最も受け入れられやすいと思われる。

その2)十分な業務分析・影響度分析の実施

 BCP策定においては、緊急時において実施・継続する業務のプロセスや体制を明確にすることが必要であるため、次のような事項についての検討が必要である。

  1. 自治体及び関係機関で実施されている業務・保有する施設の棚卸を行う。業務棚卸は、全ての業務を対象とはせず、通常業務のうち、被災状況においても住民に対して実施しなければならない業務を優先業務として絞り込んで行うことが肝要である。また、業務棚卸や優先業務の絞り込みについては、外部の専門家のノウハウや既存の行政評価制度の仕組み・データを活用して行うことも効率的な進め方である。

  2. 優先業務については、緊急事態発生時に投入できる資源にも限りがあるので、その業務を中断・停止した場合の影響度を分析し、影響度合いや業務中断の可能性の高さより、さらにランク付けを行うことが必要である。

  3. また、緊急事態発生時に優先業務を継続する上で障害となることが何であるかについても、詳細に詰めておく必要がある。例えば、代替施設へのアクセスの問題、代替施設や設備機器の利用の可否、情報(システム)の利用の可否、人員の再配置の可否、等

その3)マネジメントシステムとしての機能構築

 BCPは、あくまでも危機管理対応のための行動計画であるので、作っただけでは何の効果も発揮されない。BCPの実効性を高めるためには、計画とセットで「教育・訓練→検証・評価→是正」というマネジメントサイクルの仕組みが必要であり、それを構築するためには、自治体トップの強い意志とリーダーシップ、職員の危機管理に対する理解と実行力が不可欠である。

その4)地域や企業との官民連携の仕組みづくり

 いくら綿密な計画が策定されたとしても、行政機関だけで対応できる範囲には限界がある。救助活動、物資の供給、代替施設の確保など、企業や地元自治会などとの連携は不可欠であるため、事前に役割分担などについての協定を締結し、シミュレーションなども行っておく必要がある。特に、企業城下町や原子力発電所のある地域のように、一部の企業との関わりが密接な地域では、そうした企業を巻き込んだ地域全体のリスクマネジメントとして捉える考え方も必要である。

その5)社会システムとしての環境整備

 自然災害や大規模な事故などが発生した場合、単独の自治体だけでは対応できない。広域的な自治体間の連携は言うまでもないが、国や都道府県による支援も不可欠だ。発生時だけではなく、BCP策定の段階から米国に見られるような具体的な策定マニュアルの提示や策定支援を行うなど、危機管理対応に消極的な市町村へのバックアップが必要である。また、BCPに取り組む企業に対する融資金利の優遇制度があるように、自治体向けの多様なリスクファイナンスのスキームを提供することで、自治体がリスクマネジメントに取り組みやすい環境整備を拡充していくことも必要である。

(注1)ここでは主に市区町村を指す。
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