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コラム「研究員のココロ」

大学におけるガバナンス

2008年08月25日 中原隆一


 近年大学改革の流れの中で、大学においてもガバナンスやアカウンタビリティ等の企業の経営概念が適用されてきている。大学進学率が上昇し、多くの人々が大学への関心を深め、大学と社会との関わり合いが拡大していることが背景にある。
 ここではコーポレート・ガバナンスの概念を大学に適用することに関しての注意点を検討してみたい。なおコーポレート・ガバナンスについては様々な考え方がなされているが、「最終的には企業が誰のものか」、「どのように企業の活動をコントロールしていくか」に収斂する。本稿においても「大学は誰のものか」、「どのように大学の活動をコントロールするか」の視点を踏まえて、ガバナンスの仕組みを検討してみたい。

大学の組織体としての特異性

 筆者は各大学の経営改革や業務改革等をお手伝いする機会があるが、コーポレート・ガバナンスという視点からみると、大学が組織体として特異な存在であることをしばしば感ずることがある。どのような点が特異か、以下3点について述べる。
 第一は教職員の意識である。わが国の企業では企業と従業員を運命共同体としてとらえる傾向がある。終身雇用制が崩れ弱まりつつあるが、企業は従業員とともにあるという意識は依然根強く残っている。わが国企業のガバナンスにはこの共同体意識が少なからず影響している。共同体意識の下、日常的な運営はトップ主導よりもミドルやボトム主導で行われていることが多く、従業員が企業活動をコントロールしている。また経営者と従業員の共同体意識は「企業は株主のものである」というガバナンス概念への抵抗感を生じさせている。
 この共同体意識は一部の例外を除き大学では希薄である。例えば常勤教員は、大学に雇用されているという意識よりも、専攻する研究分野のプロとして、大学に所属しているという認識が強い。また常勤職員は、大学の事業である教育や研究への参画度合いや大学経営への参画機会が少ないため、企業の従業員に比べ共同体意識や帰属意識が希薄になっている。
 大学のガバナンスを考える上では、構成員である教員と職員の帰属意識、共同体意識が企業と比べ、希薄であることを十分認識しておく必要がある。
 第二は教授会の存在である。大学は法的な組織体制としては、学校法人、国立大学法人、公立大学法人等多様な組織形態があるが、いずれの組織形態でも実質的に大学運営の中核は教授会が担っている。
 法的には大学のガバナンスは私立大学では理事会や評議会、国立大学では役員会や経営協議会が大学の意思決定機関として設置されている。ところが殆どの大学では教授会という会議体が実際上は意思決定に大きな影響力を持っている。教授会は教育と研究つまり教学分野についての検討機関であるが、教学分野の検討内容は殆どの場合経営問題につながるため、結果的に教授会の意思決定が大学経営に大きく影響する。法的な意思決定構造とは別の事実上の意思決定構造が並存している。
 第三には学生という他の組織体では見られない存在である。学生は大学において教育を受ける立場であり、一部補助的スタッフとして活用されることはあっても、大学の運営にはほとんど関与していない。一方でこの学生という存在は、大学を教育サービス機関と見れば大学の収益を支える主要な顧客という側面を持っている。
 誰でもいつでも大学に進学するユニバーサル時代の大学では、学生の存在価値は高まり、学生も大学との利害関係を強く意識すると想定され、大学のガバナンスを確立するうえで、学生の位置づけを見直することは不可欠である。

大学におけるガバナンス概念整理

 このように大学は企業とは異なる仕組みや構成員で運営される特異な組織体であるため、大学のガバナンスの概念を考えていく上では、いくつかの注意点が存在する。
 第一に前述したように大学の構成員が企業に比べて共同体意識等が希薄であることから、企業のように共同体意識を活用して企業活動をコントロールすることが行いにくい。例えば企業のように経営目標を設定し、目標へ向けて組織一体となって取り組む場合、大学では共同体意識による協力体制はあまり期待できない。また不正行為を防止する面でも、共同体としての相互牽制する機能などは期待しにくい。
 そのため大学の活動をコントロールしガバナンスを確立していくには、目標やモラールを教職員間で共有し、意図的にコミュニケーションを図ることや、インセンティブやペナルティを組み込んだ制度を積極的に活用することが有効と考えられる。
 第二に教授会をガバナンスにおいてどのように位置づけるかが課題となる。「どのように大学の活動をコントロールするか」というガバナンスの論点からみて、現状の教授会は法的な意思決定機関とは別の意思決定機関として大学のガバナンスを実際上主導している。教授会は教員をメンバーとしているため、開催頻度や回数を増やすことは難しく、判断決裁事項の処理する量に一定の制約があり、意思決定が遅くなりやすい。
 これまでは、判断決裁事項が多くても教授会が時間をかけて全ての意思決定を行えばよかった。しかしながらユニバーサル化で環境変化も激しくなるにつれ、意思決定の遅れは、大学運営能力全体の低下を招きかねず、今後は企業に近いスピードが求められる。
 以上のように考えると教授会に大きく依存している大学のガバナンス構造を見直し、複数の機関に適切に責任分担させ、それらの機関が相互に連携する体制に変えていくことが必要である。具体的には法的な意思決定機関としての理事会等の組織的な強化と、事務局等の機能や役割を拡大強化し職員の大学業務での責任範囲を拡げていくことなどが必要である。教授会自体も直属のスタッフ機能を強化することが必要である。このように学内で複数の組織が権限分担と相互牽制を行いながら意思決定を行うような仕組みを検討し、大学のガバナンス体制として再構築することが望まれる。
 第三には学生を大学のガバナンスへどのように参画させるかが今後の課題である。
 この問題は「大学は誰のものか」というガバナンスの論点とも関係している。企業のガバナンスにおいては、大きくは「企業は株主のもの」と「企業は株主を含めた従業員等利害関係者(=ステークホルダー)のもの」という意見に分かれている。大学においては株主という存在がなく、近い存在として私立大学の創設者、寄付・寄贈者、国立大学では国民(納税者)等が擬似的所有者として想定され、それ以外の利害関係者として教職員や学生、地域住民、企業、卒業生等が想定される。
 大学の社会的責任が増大していることを考えると上記の擬似的所有者のためだけの存在とは言えなくなってきている。擬似的所有者と前述の利害関係者も合わせたより広い概念での関係者をガバナンスの対象として取り込むことが求められてきている。つまり「大学は利害関係者すべてのもの」という考え方をとることになる。
 その観点から学生は間違いなく重要なステークホルダーであり、明確にガバナンスの中に位置づけその意向を大学活動に反映させる必要がある。具体的な仕組みとしては、学生に対して、経営に関する意思決定の説明責任を果たすことや、意思決定において学生の意向を反映させるプロセスを組み込むことなどが望まれる。
 以上、大学のガバナンスについて論じてきたが、大学組織の特異性からガバナンスの確立は企業よりも難しい。単純に企業のガバナンス手法を導入するのではなく、大学と企業の相違も踏まえ実効的なガバナンスが検討されなければならない。
 また企業におけるコーポレート・ガバナンスは、特定の手法や内容に収斂するのではなく、各企業のおかれている状況で異なるというのが一般的な考え方である。各大学は、自学のおかれている状況や教職員の風土、ステークホルダー等の実態を十分見極め、ガバナンスの手法と内容を検討することが望まれる。
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