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コラム「研究員のココロ」

自治体経営改革への提言:オールラウンド型からコアミッション型経営への転換
~総合計画のあり方を問う~

2009年03月09日 


窮地に追い込まれた自治体経営

 年11月、総務省は地方自治体財政健全化法(以下、健全化法と称す)に基づく自治体の財政状態の調査結果を公表したが、43の市町村が健全化への対応が求められる早期健全化基準を超え、そのうち3団体は破綻状態であった。健全化法は、2008年度決算から本格的に適用され、破綻状態を示す財政再生基準を超えると、国による監視下に置かれ、自治体の自由裁量余地が少なくなるだけでなく、増税や利用料金値上げによる住民負担増、行政サービスの低下など、住民生活に多大な影響を与えることになる。基準以下であっても実質赤字の破綻予備軍といえる自治体も多数あると言われ、急激な経済情勢悪化の影響に伴う税収減で予断を許さない状況にある。

総合計画の体系と事業構造の問題

 この数年、自治体では、コストや人員削減に努めてきたものの、結果的に深刻な財政危機に瀕しているのはなぜか。筆者は、事業評価等の改革手法の問題というよりも、総合計画の体系に基づく事業構造そのものに主な原因があると考えている。
 自治体では、通常10年に1度総合計画が策定される。時には「自治体の憲法」と表現されることもある行政活動の方向性を定める最上位計画である。計画がカバーする分野は、防災、福祉、教育、環境、産業、建設、文化など多岐にわたり、これまで、これら全ての分野に満遍なく施策・事業を展開するといったオールラウンド型の計画が策定されてきた経緯がある。そのため、中規模クラスの自治体であれば、計画に基づく施策数は50~100本、事業数は600~800件、多いところでは1,000件を超えるところもある。
 このような総合計画の位置づけにより、これに基づき実施する施策や事業は所与のものとして扱われる。計画では事業を実施することの必要性や妥当性に矛盾のないような論理展開がされている。改革手法の一つとして導入された行政評価では、基本的に総合計画の施策体系に基づき検証を行うので、評価は継続を前提としたコスト改善や実施手法の見直しなどの内容に止まり、事業の存廃など踏み込んだ評価には至らないケースが圧倒的に多くなっている。
 事業評価については、実施することで全庁的な事業の棚卸、コスト把握、業務改善、事業の再構築などに活用できているので問題はないが、総合計画との関係で大幅な見直しが行われにくいという構造的な問題が評価制度の効果を半減させている。さらに、評価の対象となる事業数が多すぎることもあり、これに要する事務コストも無視できない。たとえ評価を行わなくても、事業を実施するだけでかかるコストは、事業費、維持・管理費(大半は人件費)などを含め莫大な額にのぼり、こうした状況を継続しているからいつまでも財政状況が改善されない。
 そもそも、既存事業の実施の是非を問うまでもなく、これまで通り継続していく財源と体制を維持することが困難になってきた今、もっと施策・事業の数を絞り込み、資源を集中していかないと経営自体が成り立たなくなる。こうしたことを踏まえて、評価、検証、内部統制などの業務管理プロセスは経営上必要であるが、やみくもに行うのではなく、いったん事業構造を再構築することで、その対象となる事業や業務数を減らすことが先決である。

人員配置構造の問題

 改革の足枷になっているもう1つの問題は、組織(部・課)の数、ポスト、職員数が削減しにくい構造になっていることだ。どの自治体でもこれまで人員削減努力はしてきており、自治体の現場からは「これ以上の削減は不可能」という声をよく耳にする。しかし、既存の業務を継続していくことを前提にしているので、これ以上の削減が無理であるという結論になってしまう。住民ニーズや地域課題よりも、どちらかといえば行政側の論理で事業の必要性が決められ、その受け皿となる組織・ポスト・人員を確保しようとするので、通常の事業評価では人員削減や組織の改廃には結びつきにくいという現状がある。
 しかし、もし自治体が現行の施策体系にとらわれず、真に行うべき業務を徹底的に絞り込み、実施していくために必要な組織と人員を適正に配置すれば、人員配置のあり方の概念は大きく変わるであろう。筆者が過去に定員適正化の支援を実施したある自治体での調査結果を参考にすると、民営化、外部委託化・非正規職員化により3割強の人員削減余地のあることが判明した。事業を構成する業務レベルで実施主体と業務内容の関係を分析した結果である。別途実施されていた事業評価結果のデータが入手できなかったため、分析には反映していないので、これを加味すると、もっと削減余地が増えると見込んでいる。



コアミッション型経営への転換

 このように、現行の総合計画のあり方そのものが高コスト構造をつくり、事業の見直しや人員適性化を難しくしている一因になっていることを認識し、全ての行政分野をカバーしたオールラウンド型の考え方を転換する必要がある。
 そこで、新たな施策体系と事業構造を構築する「コアミッション型」経営に転換していくことを提案したい。「コアミッション」とは、「コア=中核」となる「ミッション=使命」であるから、これまでの全方位的な施策体系の考え方とは根本的に異なる。ここでは、コアミッションをカテゴリーⅠに定義する。カテゴリーⅡ・Ⅲはサブミッションとして、自治体の財政力や住民ニーズに応じて実施する分野と位置づける。

【カテゴリーⅠ】
1)どのような状況(不測の事態)に陥っても自治体が対応しなければならない事業・業務
自然災害、社会的事故、テロ、等の不測の事態が発生した場合でも、自治体が必ず実施しないといけない事業・業務(人命救助、ライフラインの維持・復旧等)。
2)自治体でなければできない事業・業務(法制度による実施義務)
国が定めた法律や制度に則り自治体が実施しなければならない事業、専門性やノウハウが自治体に蓄積されており、民間等では対応できない事業・業務(税務関係、許認可業務等)。
3)最低限の住民生活を保障する事業・業務
様々な理由から通常の生活を送ることが困難な社会的弱者の生活を保障・支援するための事業・業務(生活保護、障害者支援等)。

【カテゴリーⅡ】
1)地域課題として行政による対応が必要だが、住民や利用者の人命・財産をすぐに脅かす状況ではなく緊急性が低い事業・業務(カテゴリーⅠに該当しない公共施設等の整備、景観維持等)
2)行政運営上、従来から実施されているが、なくても特に業務執行に支障を来たさない事業・業務(総務・庶務系業務等)

【カテゴリーⅢ】
上記のカテゴリーⅠ、Ⅱ以外で、従来から慣例的に継続されてきたような事業・業務

 コアミッションの中身は、当然各自治体の地域特性や財政状況などを踏また経営課題に対応するものであることは言うまでもないが、「あれもこれも」という従来の考え方を捨て、優先順位付けされたミッションをベースに自治体は地域や住民のために真に何に注力すべきかを考え、対象を絞り込む必要がある。事業構造の再構築により、それを戦略的に実行する体制づくりが可能となり、組織体制や人員配置の最適化にもつながる。

コアミッション型経営移行に向けた課題

 コアミッション型経営への移行は、従来の事業構造を変えることになり、容易なことではないが、今後の自治体組織の存続と地域経営の維持のためには不可欠な改革である。そのため、住民、議会、首長、職員などステイクホルダーの発想転換が必要なことは言うまでもないが、それと共に、計画策定プロセスをまず刷新していかなければいけない。統計データの羅列になっている基礎調査、「あれもこれも」につながる住民意識調査、住民参加の実績づくりになっている市民会議、形式的に行われる審議会などの策定プロセスを見直さない限り、結局、従来と同じような全方位型の分厚い計画書になってしまう。こうした取り組みは、できれば総合計画の見直しや次期総合計画の策定時期の機会を捉えて実施することが望ましい。
 ミッションの絞り込みは、組織の縮小、人員削減に直結するというイメージを抱かれるかもしれないが、必ずしもそれを目的としているわけではない。従来よりも、真に必要な分野や事業に経営資源を集中することが狙いであり、結果としてそういう分野への人員配置が増えることもある。そのため、今後重視していくミッションを遂行していく上で専門性やスキルの高い人材が必要になってくるので、オールラウンド型からプロフェッショナル型を志向した人材育成と確保に努める必要がある。
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