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コラム「研究員のココロ」

CER価格に関する考察

2009年03月02日 三木優


 最近、EUA・CER価格が下落している。この原稿を執筆している2月12日におけるbluenext EUAスポット価格は7.96ユーロ、bluenext CERスポット価格は7.60ユーロとなり、どちらもEU-ETSの第2フェーズにおける最安値を更新した。2008年7~8月頃の第2フェーズ最高値からの下落率はEUA:72.3%、CER:63.2%となっており、わずか半年で大きく値を下げることになった(注1)
 EUA・CER価格が急落した背景には、世界的な景気後退により、EUにおける産業活動が停滞し、エネルギー消費量=CO2排出量が減少したことが挙げられる。EU-ETSでは、過去のCO2排出量実績に基づいてEUAが配分されているため、CO2排出量が減少すると施設によっては配分量よりCO2排出量が少なくなり、その結果、EUAが余ることになる。余ったEUAは、将来のEUAの不足に備えて保有しておくという選択肢もある。しかし、景気後退により中期的な経済見通しが不透明であり、当面はEUAが不要と考えられることや、赤字に転落した企業ではEUAを売却すれば少しでも赤字を穴埋め出来ることから、多くの企業がEUAを売却したために価格が下がったと考えられている。また、EUAの配分不足を補うCERについては、これまでEUA価格の85~95%で推移してきており、価格連動性が高いため、EUA価格につられて価格が下落している。



 EU-ETS市場では、発行済みのCER(以下、sCER)や先物のCERが取引されており、これらの価格は、世界的なCER取引の参考価格になっている。これに対し、直接CDMプロジェクトへ参加し、プロジェクト実施に伴って発行されるCERを購入する、プライマリーCER(以下、pCER)の価格は8.5~12ユーロ程度とsCER価格よりも割安であったため、電力会社などの大量にCERを必要とするバイヤーはpCERを購入してきた。しかし、sCER価格がpCER価格と同水準まで低下してきたことから、発行量が確定せず、価格的な魅力が低下したpCERの購入を見送るバイヤーが増加している。この状態が長く続けば、CDMプロジェクトへの資金の出し手がいなくなり、CDMプロジェクトの開発が停滞することが懸念される。CDMプロジェクトの開発が停滞すると、中長期的にはCERが大幅に不足する可能性があり、CER価格が乱高下することが懸念される。今回は、CER価格に大きな影響を与えているEUAのコモディティとしての特徴を分析し、それをふまえて今後のCER価格について考察した。


1.EUAのコモディティとしての特徴

 EUAは各国政府からEU-ETS対象施設へ配分される。配分されたEUAは、相対あるいは市場取引を通じて売買可能であり、施設を保有する各社は、費用を最適化しつつEU-ETSにおける義務を遵守するために、自社のCO2排出状況に応じてEUAを売買している。このようにEUAは需要と供給に応じて売買されていることから、石油や金属などのコモディティと同様に取り扱われている。EUAのコモディティとしての特徴は以下の通りである。



 他のコモディティと比較するとEUAには、他には無い大きな特徴がある。それは以下の2点である。

  • EUAはEU-ETSのルールに従って「生産(配分)」されるため、基本的には需給や価格に応じて生産(配分)量が調整されない。

  • EUAの売り手と買い手は、EU-ETS対象施設の企業と銀行やヘッジファンドなどである。EUAの過不足に関する情報を持つEU-ETS対象施設の企業が売り手・買い手を兼ねることから、市場参加者の間で需給情報が共有されやすい。

これらの特徴により、EUA価格はその過不足により、以下のような挙動を示すと考えられる。



 今回の景気後退を受けたEUA価格の挙動は、冒頭で説明した中期的な不透明感や赤字だけでなく、CO2排出量が減少しているにも関わらず、各企業の手元にはそれを上回るEUAがあり、さらに2009年以降のEUAの配分量が調整されないという、コモディティに特有の需給と価格による調整が働かないことが根本的な原因と考えられる。そのため、EUAを保有する企業は中期的には不足する可能性を理解しつつも、当面は余剰のEUAを売却することになる。2008年のCO2排出量が確定した2009年1月から、価格の下落が加速したこともこの表れと考えられる。


2. CER価格の見通し

 EU-ETSは、対象施設からのCO2排出量を一定水準まで削減することが目的であり、EUAの総配分量はフェーズ2では2005年実績から-5.6%となっている。そのため、各対象施設では、2005年よりもCO2排出量を減らさなければならない。しかし、CO2排出量の削減は、費用や設備投資のタイミングなどが障壁となり、簡単には実施できない。各企業の状況に対応するために、EU-ETSのルールでは一定量までのCER/ERUをEUAに変換して利用可能にしており、EUAが不足する電力会社などは積極的に購入してきた。したがって、EU-ETSの市場では、CERは補助的な扱いであり、EUAが不足すれば必要とされるが、EUAが余剰の場合は、真っ先に不要となる。このことはEUAとCERの先物価格に現れており、EUの景気後退が統計的にも確認された2008年10月頃からCERのフォワードカーブはフラットになり、直近ではスポットや2009年3月限より2009年12月限の価格が低いバックワーデーションになっている。



 このようにEU-ETS市場におけるCER価格の見通しは、EUA需給と価格次第であることから、EUA需給と価格の見通しについて検討する。
 EUA需給と価格を検討する上で、相関性の高い指標やモニタリング項目を探すことは有用である。これまでの既存研究では、Kanamaru(2007,2009)は、EUA価格には平均回帰性や季節性が認められないとしており、一部のコモディティに認められる様な価格の挙動が無いとしている。また、先物価格やボラティリティスマイルの分析からEUAが資産クラスとしてコモディティに分類されることに疑問を示している。Truck, et.al.(2006)は、EUAにおけるコンビニエンスイールドは、市場参加者の価格の期待感とEUA配分の不確実性が背景にあるとしている。Aggeryd and Stromqvist(2008)は、EUA価格は主要な株価および金利と弱い相関関係にあることと過去の統計から将来の価格を予測するautoregressiveな動きよりも規則性のないランダムウォークな動きが認められるとしている。これらの分析は、EUA価格は一般的なコモディティの様な挙動を示さず、株価に近い挙動を示すことを示唆している。
 EUAの需給、そして価格を決定づけているものは、政策・ルールが固定されている前提で単純化してしまえば、景気と考えられる。景気が悪くなるとEUAは供給過剰になり、供給過剰になると価格は下落し、低迷する(需給と価格の調整が働かない)。景気が回復すればこの逆である。株価も景気やその見通しにより上下することから、株価をEUA価格のモニタリング項目とすることに一定の合理性はある。EUにおける代表的な株式指数であるFTSE100のチャートとEUAのチャートを比較すると概ね近似(FTSE100が先行して動き、EUAが後追いする動き)している。



 したがって、EUA価格はEUの景気が回復するまでは上昇する可能性は小さく、そのモニタリングには、EUA価格のフォワードカーブだけでなく、景気の状態を最も示している株価指数のチャートが活用できると考えられる。CER価格については、EUの景気がある程度回復する、あるいは回復する見通しが出てきて、それが株価に反映され始めるタイミングまでは低迷し続けると考えられる。
 当面はEUにおけるCER価格が低迷することから、CDMプロジェクトの組成は一定期間、停滞すると考えられる。このことは、次期枠組みにおいて先進国が踏み込んだ削減目標を約束した場合に、中長期的なCER不足を引き起こす可能性がある。次期枠組みでは、現状のような電力・鉄鋼だけがCERを購入すれば良い状況では無くなるとすると、CO2排出量の多い企業にとっては、リスクヘッジの観点から、CER価格の低迷している今こそが、CDMプロジェクトの開発を進める絶好の機会とも考えられる。


注1 bluenext EUAスポット・bluenext CERスポット:
EUAとCERのスポットは、主にフランスのbluenext市場にて取引されている。先物は主にECX市場にて取引されている。

参考文献
Kanamura T. 2007,2009. A Classification Study of Carbon Assets into Commodities. Social Science Research Network Working Paper Series

Truck S., et.al.. 2006. Convenience Yields for CO2 Emission Allowance Futures Contracts. SFB 649 Discussion Paper 2006-076

Johan D. Aggeryd and Fredrik C. Strömqvist 2008. An Empirical Examination of the EUA Emission Rights Market. University essay from Handelshögskolan i Stockholm/Institutionen för finansiell ekonomi
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