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コラム「研究員のココロ」

「地方発」排出量取引の時代へ<第1回>

2008年08月04日 吉田 賢一


G8北海道洞爺湖サミットを振り返って

 G8北海道洞爺湖サミットでは「2050年までに世界全体の温暖化ガス排出量を少なくとも50%削減するとの目標を、世界全体の目標として採用することを求める」として、温暖化ガス削減の長期目標を国際社会の問題として位置づけることが合意された。その成果についての評価には、今しばらくの時間が必要であろう。しかしながら、6月9日に発表されたいわゆる「福田ビジョン」では、日本は2050年までの長期目標として、現状からCO2の60から80%の削減を掲げている。ヘゲモニーを追求する国際政治上の駆け引きはひとまずおくとして、日本の国家としての取り組み姿勢をこれまで以上に真剣に強化していかなくてはならないことは、多くの人々が同意するところであろう。
 すでに世界の識者が指摘しているとおり、技術的課題の突破には、それを担う人材育成や資金と、相当の時間的コストを要することになる。また、人口増加率、経済成長率などのファンダメンタルズといった前提条件の組み合わせや設定の仕方によっては、排出のシナリオの数が変動するため、世界の人々に対して、複雑な気候変動問題のメカニズムについての共通理解を得るためには、こうした不確定要素を「確定」しなくてはならない。そして環境という公共財に生じる課題は、国のガバメントリーチ(中央政府の直接的統制範囲)には収まらないため、多様なアクター(地方自治体、産業、そして個々の市民)の関与が必要となってくるのである。

これまでの地方自治体における環境への取り組み

 そこで地方分権の潮流を背景に、我が国のCO2排出削減の目標達成の成否において、地方自治体の取り組み姿勢がこれまで以上に大きく影響することは間違いないだろう。
 CO2削減に向けての公共的な諸活動の総体として、私たちは「政策」という手段を有している。この政策には大きく概念設計と実施設計のレベルがある。前者については、これまでも、地方自治体においては環境基本条例や環境基本計画を基軸に、新エネルギービジョンや省エネルギービジョンなどを策定し、環境にかかる政策枠組みとしてそれなりに整えられてきた。京都議定書の締結以降は、地球温暖化対策推進法をはじめとした基本法が改正され、地方自治体においても温暖化対策地域推進計画の策定などが進められている。
 しかしながら、最近ではこうした概念設計レベルだけでなく、実施レベルにおいても実に多くのユニークな施策が各地方自治体で展開されている。そのカテゴリーは「協働型」、「普及啓発型」、「インセンティブ付与型」、そして「市場指向型」の4つに区分することができる。
 今回は「協働型」と「普及啓発型」について、そして、次回以降では「インセンティブ付与型」と「市場指向型」について説明することとする。

協働型の政策群

 多くの環境基本条例や環境基本計画に埋め込まれている行動の原理として、市民・企業・行政の3者の「協働」が挙げられる。こうした理念をパートナーシップ協定といった形で整備しているケースが多々見られるが、その多くが抽象で具体性が乏しい側面があることは否めない。そうした中で、以下のような取り組みが注目される。

事業名自治体名概要
とよたエコライフ倶楽部愛知県豊田市買い物袋持参運動など環境にやさしい行動全般に活動を広げ、市民及び事業者が自主的に企画し行動できる組織へと転換を図る。買い物袋持参やクリーンアップ活動への自主的参加など、指定された活動に参加すると、市共通シール(エコシール)が付与される。これを20枚集めて台紙にはると、加盟店で100円の金券として利用可能。
地球温暖化対策推進協議会の設置・運営宮城県仙台市市民・事業者・行政のパートナーシップによる推進組織として、委員が主体的な取り組みを実践しながら、普及啓発活動を行うなど、地球温暖化対策のリーダーとして活動。
市民環境提案型事業北海道札幌市地球温暖化対策に関する事業の企画提案を募集し、優秀な提案を事業化。
市民力による環境ISO 支援事業静岡県掛川市環境配慮行動を実施する、または実施する予定のある事業所へ、市が専門知識を持ったボランティアを紹介し、より少ない負担での環境配慮の取り組みを支援。
地域連携による省エネ電球促進事業山口県宇部市宇部市地球温暖化対策ネットワークが主体となり、地元電器商組合およびFM 局と連携し、省エネ電球を購入すると、50%割引で購入できる。
企業の森和歌山県業パートナーが労働、または資金を提供することで森林整備を行い、県がそれによるCO2吸収の証書を発行する。大規模排出事業者には条例による計画書提出が義務付けられているが、その排出削減に森林整備による証書が利用可能。
協働の森高知県アーティストとのコラボレーションを図り、CD 制作等のカーボンオフセットに、高知県の森林整備によるCO2吸収証書を利用。
※有限会社イーズ, イーズ調査レポート No.1「地方自治体の温暖化対策目標と政策に関する調査」(2008 年3月21日)及び各自治体ホームページを参考に筆者作成。以下同様。

普及啓発型の政策群

 協働といっても、参加する市民や企業の環境に対する意識や理解度が高まらなければ、具体的な成果を得ることはできない。なぜ温暖化防止に取り組むのか、それはどのような手段を用いるか、そして市民や企業は具体的に何をするべきなのか。以下の取り組みでは、関係者間において、環境にかかる認識について、ある一定のレベル以上に整えることを目的として、このカテゴリーの政策が束になっているのだといえる。

事業名自治体名概要
地球温暖化防止アドバイザー派遣制度千葉県千葉市市内の市民活動団体や町内自治会等が実施する学習会、研修会などに指導員または講師として地球温暖化防止アドバイザーを派遣。
「交通・環境学習」の実施大阪府和泉市教科学習と関連付けることにより、専門家でない学校の先生にでも取り組みやすく、さらに学外講師の説明による出前講座を実施することにより、児童も新鮮味を持って取り組めるという効果がある。
きのくにエコスクール事業和歌山県県立学校の生徒たちが自ら「環境目標」を定め、それを徹底することで、学校生活を「環境」の観点で見つめ直し、自ら考え行動することも学んでいく。光熱水費の削減で高い成果を上げた学校を表彰する制度を設ける。
大江戸打ち水大作戦東京都(後援)NPO(主催)日時を決めて残り湯などの二次利用水を使って各地域の参加者がいっせいに打ち水をし、気温の2℃減少を目指す。


(次回に続く)

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