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コラム「研究員のココロ」

「新型うつ」に現れる職場のメンタルヘルスの問題とは何か

2009年02月16日 久保田 智之


1.はじめに

 人事戦略クラスターでは、「職場におけるメンタルヘルス」の課題に取り組んでいる。その一環として、2008年6月に(株)メンタルグロウと共催で「管理職のためのメンタルヘルス対策」と題してセミナーを実施した。この時の感想としては、メンタルヘルスの取り組みは初期的な段階を既に終えており、新しい事態にどう対処していくのかという第二段階に入っているという印象を持った。そこでこのコラムでは、「職場におけるメンタルヘルス」に関する最近の話題を3つ取り上げ、この課題がどのように変化しつつあるかを示していきたい。

2.職場のメンタルヘルスが関心を呼ぶ背景

 職場のメンタルヘルスに対する関心はますます高まっている。しかし、その関心の方向はEAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)の導入、その活用方法や人事労務担当者が果たすべき役割は何か、ということに向けられており、会社全体からすると、ややもすれば他人事の問題として受け止められる傾向がある。もっとも最近では、職場の問題として徐々に受け止められるようになりつつあり、管理職を中心としたメンタルヘルスに関する研修が管理職研修のメニューに加えられるなど、少しずつではあるが会社全体に広がりを見せている。
 では、ここ最近では何がどう変わり、特にメンタルヘルスへの関心が高まってきたのだろうか。それは、組織面で制度疲労が起きていることに原因があると考える。ちょうど、バブル期(1988年~1992年頃)に入社した社員がそろそろ中間管理職に差し掛かっているが、彼らは主任、係長と組織の中の序列が少し上がった段階で不況期に陥った。リストラと役職ポストの簡素化が行われ、組織がフラット化した。常に現場の第一線で有能な社員として先頭に立っていた彼らが突然多くの部下を抱える中間管理職になったことで、疲弊している人が増えている。また同時に、IT化の進展が「仕事の属人化」を生むようになったこともあげられる。個々の業務は個別化し、仕事の進め方は自己完結するようになった。効率化は進んだのかもしれないが、逆に言えば個人間の調整機能の弱体化をもたらしていると言える。協力姿勢をとる行動が少なくなっていった。集団的な組織構成から「(強い)個の自立」を前提とした組織への変化、及び効率性を高めるフラット化、仕事の属人化の進展という人事と組織を巡る環境の変化がメンタルヘルスの問題に関連していると考える(長時間労働ももちろんその一因に含まれるだろう)。こうした変化により社会的不適応として気分障害(うつ病)を引き起こすことが考えられる。気分障害は軽症、中等症、重症の3段階に分かれる。得てして軽症の場合が見過ごされやすく、単に調子が悪いと処理されかねない。そのため、気分障害かどうかの見極め、気づきが職場においては特に重要と考えられるようになり、研修などを通じてこうした理解も進んできたと言える。

3.「新型うつ」の登場

 ところが最近ではこの種の軽症と似ているが、少し異なるものが現れている。それは「新型うつ」と呼ばれている。この症状を簡単に記すと、次のようになる。
「あるときから職場へ行こうとすると強い不安を感じるようになる。しかし、職場を離れていれば不安はない、職場以外の社会生活では、ふつうにふるまうことができる。家事、レジャー、旅行などには元気に参加できる、副業は可能で、本業だけができない。」(注1)
 軽症の気分障害の場合であれば、職場であろうが、家庭であろうがどこにいても不安は感じる。しかし、この「新型うつ」の場合は、職場にいるとき、職場へ向かおうとするときにのみ不安がこみあげてくる、という違いがある。気分障害は、「不安・いらいら」「ゆううつ」「おっくう」の3つの要素の組み合わせで起きると言われている。快方に向かう場合は、不安感の解消、ゆううつ感の解消、おっくう感の解消という順に進む。しかし、おっくう感が長引くケースが多い。このケースの場合と「新型うつ」の症状とは、一見すると似ているために見分けがつきにくく判断がかなり難しい。

4.組織の健康管理を徹底すべき

 「新型うつ」は一見すると単に怠け癖のようにも思われ、それが気分障害の一種であることの見極めが難しいので、これまで想定している対処方法だけではカバーできない可能性がある。そこで、こうした状況に直面した場合には、徒にその原因を探るということではなく、まずはこうした状況が生まれたことによって何が不都合なのか、「仕事の能率が低下した」「遅刻、無断欠勤が多くなった」「職場のルールを守らなくなった」などの実際の不具合、支障を来している点を中心にそれを取り除くためにはどうすればよいのかを検討することが必要である。その次に、症状そのものへの対処を検討することとなる。気分障害の多くは心の疲れに原因があるために、心の休養が必要とされている。一定期間は、職場を離れるなどの措置をとることが必要である。心の疲れは、長時間労働や仕事の属人化が原因と考えられる。こうして見ると、組織を見直す観点として単に仕事効率のアップや適正人員配置ということにとどまらず、職場を構成するメンバーの変化(能力、資質とともにココロも対象となる)、及びメンバー間の構成そのものの変化(組織自体のあり方)を視点の軸に置き、人事組織を捉え直していく必要がある。従来型のタテ型の組織でもなく、また「個」を軸においた組織でもなく、複数の多種多様なメンバーが相互に理解を深めて、信頼を持ち合える人事組織の構築が求められている。復古的と言われながらも福利厚生の中で特に見直されている社内運動会や、社歌の唱和、社内SNSの充実など顧客満足を上げるのと同じくらいのエネルギーを社内宥和に注いでいる企業をよく見かける。職場のメンタルヘルスの問題は組織の健康状態と置き換えてみることもできるのではないだろうか。

(注1)笠原嘉[1996].『軽症うつ病』講談社
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