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ダイエーの失敗に学ぶ

2008年04月04日 安東守央


 「『お客さまは最高の教師』と決めている。分からないことは何でも聞き、お客様の不平不満を解消していくのがモットーだ。」中内功氏は著書『流通革命は終わらない』(日本経済新聞社、2000年)の中でこう述べています。

 その中内功氏が創業したダイエーはついに産業再生機構に支援を要請して、10月22日に就任した蓮見新社長の元、再建への道を模索しています。ダイエーを転落させた“戦犯”の1つに、次世代を担う新業態として大きく期待されながら、多額の赤字を計上して閉鎖に追い込まれた「ハイパーマート」と「コウズ」の事業が挙げられています。

 これらの事業は欧米で成功していた業態をダイエーが日本に輸入しようとしたものです。
「ハイパーマート」は食品スーパーとディスカウントストアを複合した大型店。「コウズ」は倉庫のような店舗でケース単位の商品を販売する所謂ホールセールクラブで、「年会費を払った会員に対して、衣食住フルラインの商品を『卸売りに近い価格』で提供する業態(1995/10/05日経流通新聞)」です。いずれも欧米、特に世界一の小売業であるウォルマートに倣い、徹底して店舗運営にかかるコストを節減し低価格を実現しようとしました。具体的には、内装にお金をかけない、接客サービスの合理化、取扱商品数の絞り込み、商品を段ボール箱に入れたまま積み重ねて陳列するなど作業の合理化を行いました。
 
 このような業態はアメリカにおいては、ウォルマートの「スーパーセンター」や「サムズクラブ」等を筆頭に、消費者に受け入れられ年々売上高を伸ばしています。それにも関わらず、日本においてダイエーが失敗した理由の1つは日本の取引形態や高い地価や家賃がネックとなり欧米程の低価格を実現できなかった事だと言われています。

 もう1つの理由は業態が日本の消費者のニーズにあわなかった事にあると言われています。今年の9月にウォルマートの「スーパーセンター」を見て参りました。そのスケールに驚きましたし、ローコストを生み出す為の仕組みには学ぶ所がたくさんありました。しかし、効率性を最優先させた味気の無い売り場、客がちらかしたままの商品が散見される棚、的を射ない従業員の対応等、一人の購買者としての購買意欲をそそられるものではありませんでした。日本の消費者も「ハイパーマート」や「コウズ」に対して同様の感想を持ったと言われています。

  アメリカにおいてもウォルマートは低所得者層を中心に人気がありますが、ミドルクラスには ターゲットという単なる安さだけで消費者を引きつけるのではなく、陳列・品揃え等でファッション性を重視し「“バリュー(価値訴求)”による潜在的購買意欲の顕在化を目的としたディスカウントストア(『アメリカ小売業のすべて』、角田正博著、ぱる出版、2001年)」がより人気があるとも言われています。日本にはアメリカでウォルマートを利用するような層は少なく、日本の消費者ニーズとのズレがあったことは否めません。

  「ハイパーマート」、「コウズ」失敗の背景には海外で成功した業態を盲目的に日本に輸入してしまい、(1)日本の商環境の中で同程度の価値をお客様に提供できるか、(2)ダイエー自身のお客様のニーズや特性にマッチしているかという2点を「最高の教師」であるお客様の視点で検証できなかった事があったのではないでしょうか。ダイエーが今後再生できるかどうかは冒頭の中内氏のモットーに戻り、「『最高の教師』であるお客様に分からないことは何でも聞き、お客様の不平不満を解消していく」事ができるかどうかにかかっています。
 
  しかし、このような失敗はダイエーだけに見られる事ではありません。欧米企業で成功したパッケージソフトをそのまま日本企業に導入しようとして失敗したシステムベンダー、本国で成功した品揃えをそのまま日本に持ち込んで失敗し撤退に追い込まれた流通外資企業など枚挙に暇がありません。日本が欧米に比べて遅れている業界において、先進地域を真似るのは悪い事ではありませんが、お客様の視点でその効果を検証する事を忘れてはいけません。
 
  翻って我々経営コンサルティング業界を見ましても、欧米で持て囃されている先進の経営コンセプトを日本企業に盲目的に導入し、コンセプトが実行されないままになっているケースを見かけます。我々の提供しているコンサルティングサービスが真にお客様の課題解決につながる実効あるものかどうか、顧客視点で検証しながら日々の業務に励もうと思います。
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