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コラム「研究員のココロ」

営業管理職の役割と課題

2007年12月17日 芦田弘


営業管理職の現状

 一般的には、営業課長、営業所長等の営業管理職には、営業員として優秀と評価され営業成績が良かった人物が抜擢されてなる場合が多い。個人プレイが得意であった営業員が、今度は集団プレイを束ねる側に立つことになる。スポーツ界でも、名選手が必ずしも名監督になれないのと同様に、営業員と営業管理職とでは求められる資質・スキル・手法等が異なる。
 にもかかわらず営業管理職向けの専門的研修を実施している企業は意外に少ない。さらに、「代打オレ」式のプレイング・マネジャー制度も多く見かける。最近の企業には人的・時間的余裕がないためであろうが、これでは、なかなか本物の営業管理職は育たない。
 こうした中で、経営者は、うちの営業管理職は管理職の仕事をしていないと一方的に不満を示し、結果責任だけを押しつけられた名ばかりの営業管理職は、上司と部下の間に挟まれ、どうしたらよいか戸惑い、ストレスを感じている現状がある。


営業管理職の役割

 営業管理職の役割は、管理(マネジメント)の定義に従えば自ずと明らかになる。人によって色々な解釈があると思うが、私は、管理(マネジメント)とは【1】計画どおりにやらせること【2】人が人を動かすこと、と定義している。【1】はPLAN(計画)・DO(実行)・CHECK(評価)・ACTION(改善)のマネジメント・サイクルをまわすことであり、【2】は部下を動かすことを意味する。すなわち、営業管理職の役割は「部下の営業員を動かして営業計画を達成すること」であると考えている。
 そして、この役割を果たしていない営業管理職の典型例として、次のようなケースによく出会う。

  • PLAN(計画)が、事前の分析が不十分なまま、成り行き任せあるいは機械的に作られている

  • CHECK(評価)・ACTION(改善)が放置されている

  • 管理職(マネジャー)なのに、部下に任せず自分が動いてしまう 等

役割を果たす上での3つの課題

 営業管理職の役割は「部下の営業員を動かして営業計画を達成することである」と聞くと簡単に思えるかもしれないが、例を挙げたように、この当たり前のことが、当たり前にできないのが営業の世界である。これに関して、営業の業務特性等を踏まえることにより見えてきた3つの課題(下図参照)について提言したい。

3つの課題



(1)見える化は、どこまで実現しているか

 「見える化」とは、現場の状況や問題点などを、ふだんから目に見えるようにしておくことを言う。事務や生産と異なり、営業の特性は、外勤なので仕事ぶりが直接見えない点にある。したがって、放っておくと売上という結果しか見えない状態に陥りやすい。得意先別売上実績だけを手掛かりに、PLAN(計画)を策定し、以降のDO(実行)・CHECK(評価)・ACTION(改善)のマネジメント・サイクルをまわすのでは、営業管理職も部下に対して「もっとがんばれ」程度の精神論しか言えない。
 売上以外の定量的項目では、得意先別の購買力(バイイングパワー)と営業資源(活動量と販促費)配分実績の「見える化」が重要だが、これらがきちんと把握されているケースは稀である。
 例えば、多品種アイテムを問屋経由で得意先に販売しているメーカーの場合、販促費の実績は問屋からの毎月の請求で確定する。しかし、得意先別・アイテム別・販促種類別の分類・集計には大変な手間を要するため手がつかず、販促費支出の大枠はわかるが、より具体的な実態は全く見えないまま放置されているケースもある。
 マネジメント・サイクルの中で意外に見落としがちなのは、そもそもの出発点であるPLAN(計画)の重要性である。より有効なPLAN(計画)を策定するためにも、こうしたどんぶり勘定を廃した「見える化」の促進が求められる。
 いずれにせよ、定性的内容も含めた、問題の見える化、プロセスの見える化、結果の見える化なしに、営業管理職が本来の役割を果たすのは至難の業と言える。


(2)コミュニケーション・スキルを磨いているか

 営業管理職の役割のひとつは、部下(人)を動かすことであり、その重要手段は個対個のコミュニケーション(対話)であると考える。
 営業会議を定期開催しているからとか、日報に目を通しているから部下とのコミュニケーションに問題はないとかの思い込みから、個対個の対話を軽視していないだろうか。あるいは、対話の重要性は認識していても、時間がない、外勤が主体なので会う機会が少ない、何を話してよいかわからない等の理由で、先送りしていないだろうか。
 ひとつのヒントとして「コーチング」の手法が参考になる。本手法の最大の特徴は、自分で考えさせ、自発的に行動することを促す点にある。指示命令されてやるのと自分で気づいてやるのでは意欲に差が出るとか、「やる」という立場を明確にさせる等のメリットがあると言われており、計画達成を強く求められる営業職に適した手法である。この場合、営業管理職は部下に対して「なぜだと思う?」「どうしたらよいと思う?」等の考えるきっかけになる質問を繰り返すことがポイントになる。自分で考えさせることが、部下自身の育成にもつながり、一石二鳥の効果が期待できる。
 ただし、本手法も万能ではなく、例えば新人等の経験の浅い営業員に対しては、指示命令スタイルの方が有効である。したがって、営業管理職は、相手のレベルや状況に応じたコミュニケーション・スキルへの関心をより強く持って、それらを習得する努力が求められる。


(3)理念を語っているか

 部下の営業員を動かして営業計画を達成するための前提として重要なのは、「気持ちのベクトル合わせ」である。すなわち、理念(価値観や信念等)の共有化である。当たり前のことが、当たり前にできる会社と、できない会社の違いは、この点が関係している。理念が曖昧なまま、PLAN(計画)・DO(実行)・CHECK(評価)・ACTION(改善)のマネジメント・サイクルをまわすのは、土台(基礎工事)抜きで家の建築を行っているようなものであり、何かの拍子に、大崩れする危険性がつきまとう。
 営業管理職が意識して欲しい理念として「目標達成志向」「業務改革志向」「顧客志向」の3つが挙げられる。目標達成志向は、営業活動の原動力として、営業員に一番求められる資質であり、どちらかと言えば短期業績に関係する。業務改革志向は、見える化をより進化させる上でのキーワードであり、顧客志向は、顧客が認める価値を提供し続けるという自らの存在理由そのもので、どちらかと言えば中長期業績に関係する。
 これらの理念を、自分の言葉で部下にどう語るかは、営業管理職の腕の見せ所である。
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