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コラム「研究員のココロ」

情報システム部門よ、イノベーターたれ!!
~ITのコモディティ化を乗り越えるために~

2008年06月09日 村田能教


1.コモディティ化(低価格化・普及品化)するIT資源

 今日、IT(情報技術)(注1)は重要な経営資源の一つであり、IT活用の巧拙が会社の業績を左右すると考える経営者も多いことだろう。その一方で、ITに多額の投資をしたが、必ずしも競合他社との差別化や持続的な競争優位につながっていないケースが散見されるのも事実である。また、ITを活用して、競合他社との差別化や持続的な競争優位を確立することに対し、限界や懐疑的な見方として、これまでいくつかの問題提起もなされている。
 例えば、Nicolas G.Carrは「IT Doesn’t Matter(もはやITに戦略的価値はない)」の中で、ITはコモディティ化(低価格化・普及品化)しており、誰でもたやすく入手できるモノとなった結果、企業に持続的競争優位をもたらす戦略的資源ではないと主張している。また、加護野忠雄は「競争優位のシステム」の中で、「情報ネットワークそのものは競争優位の源泉ではなくなりつつある」「企業間の競争優位の差は、情報システムではつかなくなっている」との認識のもと、「ITでは差別化できない」と主張している。
 たしかに、ITそのもののコモディティ化(低価格化・普及品化)は進んでおり、模倣可能性が高まっている。つまり、ITが「インフラ技術」として整備される以前は、ITを導入するだけで、差別化をもたらす先行優位性があったが、現在ではITが「インフラ技術」化し、ITを導入するだけではその優位性が持続できる期間が短くなってきているのである。

2.IT資源は競争優位の源泉ではなくなったのか?

 Carrの主張は、コモディティ化に伴いITの価値が縮小しているとし、ITの非戦略性を主張する内容のため、米国でかなり議論を呼んだ。現に、IT活用が功を奏し、競合他社に比べて優れたサービスや商品の提供を成し遂げ、好業績を達成している企業事例も多く取り上げられている。それでは、ITを活用して競争優位を築いている企業とそうでない企業の違いは何なのであろうか?
 第一に、模倣困難なIT資源とは何かを熟知していることであろう。IT資源は、ハードウェア、パッケージソフトウェア、手組みのソフトウェア(カスタマイズされたパッケージソフトウェアを含む)、データ、アーキテクチャー(注2)などに分類できる。この中で、ハードウェアやパッケージソフトウェアは、資金さえあれば模倣が可能である。一方、手組みのソフトウェア、データ、アーキテクチャーは各社のノウハウなど時間の経過とともに蓄積される特性があり、模倣が困難だと言える。
 第二に、模倣困難なIT資産をベースにビジネスシステム(注3)をデザインしていることであろう。つまり、IT資産の中で、特に「データ」と「アーキテクチャー」を事業活動の重要な要素として組み込み、プロセス間の連携の質とスピードを高めることができれば、IT資産が企業の持続的競争優位の確立に貢献していると考えられるのではないだろうか。

3.今求められる情報システム部門の役割

 IT投資に失敗した多くの企業は、「ビジネスのあるべき姿を考え、次に必要なシステムを企画し、そのうえで使用するITを選択する」といったアプローチを取っており、積み上げてきたITノウハウの活用によるビジョンの構築といったアプローチは採用していないように見受けられる。この場合の情報システム部門の役割は、【ビジネスのあるべき姿】と【使用するITの選択】をつなぐ、「インタープリター」としての機能と言うことになる。かつてITを導入するだけで、競合他社と比べて競争優位が確立できた時代は、情報システム部門の役割としてはこれで十分だった。しかしながら、ITのコモディティ化(低価格化・普及品化)が進む時代では、このアプローチでは、急速に陳腐化していくIT投資しかできない。
 現在、情報システム部門の役割は大きく変わろうとしている。模倣困難なIT資産をベースにビジネスシステムをデザインするには、これまでの情報化・システム化のアプローチではなく、「【ビジネスのあるべき姿】【必要なシステム】【使用するIT】を三位一体で捉える」 新しいアプローチが必要だからである。これを推進していく役割、つまり変革を推進する「イノベーター」としての機能が、今求められている情報システム部門の最も重要な役割である。さらに、経営陣としても、自社の情報部門の「イノベーター化」が差別化戦略の大きな柱になることを理解すべきである。


注1.
IT(情報技術):ここでは、コンピュータなどのハードウェアやソフトウェアなどを指し、ITを組合せて構築された情報システムとは区別している。

注2.
アーキテクチャー:ここでは、ハードウェア、OS、ネットワーク、アプリケーションソフトなどの基本設計や設計思想を指す。

注3.
ビジネスシステム:ここでは、生み出すべき価値についての明確な思想をもった事業の仕組みを指す。


<参考文献>
・Nicholas G.Carr(2003)「IT Doesn’t Matter」Harvard Business Review. 5月号(2004年「もはやITに戦略的価値はない」Diamond Harvard Business Review 3月号)
・加護野忠雄(1999)「競争優位のシステム」PHP研究所
・根来龍之、吉川徹(2007)「模倣困難なIT活用は存在するか?ウォルマートの事例分析を通じた検討」早稲田大学IT戦略研究所 ワーキングペーパー
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