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日米間のグリーンニューディール政策を比較して

2009年06月23日 松井英章


未曾有の経済危機を受けて、国内外でグリーンニューディール政策の議論が活発になっています。発端は、言うまでも無くオバマ政権で、今後10年間で1,500億ドルを投資し、クリーン技術投資で500万人の雇用を創出する旨打ち出しています。再生可能電力の利用を拡大し、2012年に10%、2025年に25%の再生可能電源比率の義務化を表明しています。再生可能エネルギーの大量導入の上で極めて重要になるスマートグリッドの投資助成プログラムも大きな柱であり、高速鉄道網の構築、自動車の燃費基準の毎年4%の向上なども盛り込まれています。一方、4月10日に発表された、日本のグリーンニューディールの軸の一つである環境省の「経済危機対策」を見ると、エコポイント活用や地域環境保全基金への補助などが中心となっており、米国に比べて理念的な色彩は薄いものになっています。

ただし、景気対策という側面にフォーカスした場合、短期的には米国の方式で本当に効果があるのかどうかは分かりません。理由は、グリーンニューディールには、米国の産業構造を新しい姿に転換し、新しい産業を創出していくという重要な機能がある一方で、日本に比べエネルギー的に非効率的と言われる、米国で現在主流の既存の産業規模を小さくしてしまう可能性があります。例えば新幹線を普及させれば自動車の利用を減らし、自動車の燃費を良くすれば石油消費を落とすためです。これはある意味で、この経済危機の中にあってかなりチャレンジングな要素が含まれていると言えそうです。それでも、2050年までにCO2排出量半減以上を目指さなければならない中にあって、また世界第1位のCO2排出国である米国にとって、中長期的に見れば痛みを伴っても踏み出さなければならない大きな一歩です。だからこそ、この決断には歴史的にもインパクトがあるのです。

翻って日本の政策を見れば、家電のエコポイント制度にしても、エコカー減税にしても、大きく産業構造を変革するものでは決してありません。乱暴に言えば、既にある新製品への買い替えを促しているに過ぎません。しかしながら見方を変えれば、日本の場合、既存の新商品がある程度“エコ化”していることを政府が認め、日本の製造業の環境技術水準に対する自信を意味しているとも取れます。これらの減税は購買意欲を誘いますから、短期的には一定の景気浮上への寄与は期待できるでしょう。好意的に見れば、現実的な景気浮揚策の一つと言うことも出来ます。

ただし、コンピュータの進化がOSの進化と共にあるように、遠い将来、低炭素社会の実現に向けてOSたる産業構造を変革させた米国が、バージョンアップを図るように新たな一歩を次々に打ち出せば、個々の製品技術=アプリケーションには強い日本も、古いOSの上にあっては進歩に追随出来なくなる可能性もあります。個別技術の各分野で世界最高のエネルギー効率を自負する日本も、太陽光発電や風力発電など、電力網(=既存の社会システム)に影響を与えうる新エネルギーの導入については、既に最先端国から大きく引き離されています。長期的な視点で社会構造を変革する勇気を日本も持たなければ、ポスト京都、さらにその先の低炭素社会作りに遅れを取る可能性があります。日本にも、既存の個々の環境技術だけに満足せず、低炭素社会構築に向けた次世代の社会システムのOSを作るべく、強いリーダーシップが求められます。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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