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企業評価におけるESG側面の重要性と課題

2009年06月09日 小崎亜依子



2006年5月、国連環境計画・金融イニシアティブは「責任投資原則(PRI)」を発表しました。これは、金融機関にESG(環境・社会・ガバナンス)側面を考慮に入れた運用責任投資を行うことを要請するもので、責任投資分野の進展に大きく貢献しました。2008年5月にはPRIの署名機関は362で総運用資産は9.7兆ドルにまで拡大しています。

PRIの背景には、企業のESG側面が運用パフォーマンスに影響を与えるようになってきており、受託者責任を全うするために運用機関は投資の意思決定にESG側面を考慮すべきだ、という考えがあります。ではなぜESG側面は運用パフォーマンスに、つまり企業の価値の評価にとって重要になってきたのでしょうか?

それは、企業の将来価値の予測において財務情報以外の非財務情報の重要性がますます高まっているからです。業種によって差はあるにせよ、全体としてモノやサービスを売ることがますます困難になっていることを考えれば、企業で働く労働者の質、顧客との関係、ブランドなどの非財務情報の重要性が増していることは当然です。アクセンチュア社の試算(*)によれば、企業の市場価値を「会計上の簿価」とそれ以外の「財務情報では説明できない価値」に分類した場合、説明できない価値の比率が1980年代には2割程度だったのが、2002年には8割程度にまで上昇しています。重要性が高まっている非財務情報はESG側面によってある程度測定することが可能であり、それゆえにESG側面の重要性が増してきているのです。

このように、企業のESG側面の評価分析は企業評価において重要な意味を持っているのにもかかわらず、金融危機以後は外資系金融機関に設置されたESG関連の運用担当部署が相次いで閉鎖されました。これは、企業のESG側面の開示状況が不十分であったために、企業評価にとってはESG側面の情報が真に役立つ段階になかったのが原因の1つであると考えます。

ESG関連の情報開示をより進展させるべく、欧米を中心として様々な団体が動き始めています。例えば、機関投資家が参加しているNPO団体のCDP(Carbon Disclosure Project)は、気候変動戦略から詳細なデータ開示までを要請するアンケートを全世界3000社に対して実施しています。また、CSRの業界団体であるCSRヨーロッパでは、欧州証券アナリスト協会とも連携しながら、企業と投資家間の非財務情報に関するコミュニケーションを促進しようとワーキンググループを立ち上げました。
こういった動きが活発化するにつれ、企業のESG側面の情報開示は進展していくでしょう。運用機関にとっては、こういった変化に敏感に対応できたところが勝者となるのかもしれません。

* Accenture. 2004. “A New Paradigm for Managing Shareholder Value”

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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