コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

環境ビジネスのフロンティア<第3回>
~環境価値創成ビジネスの新展開~

2007年10月29日 吉田 賢一


6.環境価値創成型ビジネスの個別的展開

 それでは、環境価値創成型ビジネスがいかなる形で展開しつつあるのか、さらに個別的にみていこう。

(1)環境投資(SRI)、ファンディング、環境融資

 当初は環境に配慮したパフォーマンスのよい企業に投資を行う社会的責任投資が大半であったが、昨今では環境取組を独自のスキームで評価し融資を行う多様な環境融資のプログラムが商品化されている。環境配慮行動という環境負荷そのものではなく、環境負荷に対応する企業行動を価値化して市場の俎上に乗せたという点で、まさに環境価値創成型ビジネスのプロトタイプともいえるジャンルである。三井住友銀行が進める「クリーンファンド」は投資家から信託された資金をNECリースに低利で貸し付けるといったスキームなどがその代表例であり、日本政策投資銀行などを中心に環境配慮型の中小企業に対しても積極的に資金供給を行う動きもある。

(2)排出権取引・CDM、カーボンフリー商品

 排出権取引やCDMについては、すでに環境省や経済産業省により市場メカニズムの構築に向けた実験実証がスタートしており、地球規模の温暖化効果ガス削減に向けた京都議定書の政策枠組みを実行するための極めて有効なビジネス形態であるともいえる。さらに、国内の地方経済や個人消費の観点からすれば、大型の排出権をいかにリテール化し、より流通しやすくすると同時に、排出権にかかる価値をいかに資産化して評価するための尺度を整えるかが重要となる。一方で政府主導により市場を整備することは、日本経団連の自主行動計画など産業界全体の自主的取組活動にマイナスの干渉をなす恐れがあることから、慎重な制度設計が求められよう。

(3)外から内の環境へ-食の安全・安心

 これまでは地球環境といったまさに人間にとっての「外」の環境であったが、日常生活上、環境ホルモンに代表される「外」から入る多様な物質等によって人間の「内」なる環境、すなわち食にかかわる健康問題も不可分のテーマとなっている。この食の安全・安心については、ISO22000のほか、野菜ソムリエ・サプリメントアドバイザーなど民間ライセンス、各地域独自の有機野菜等の認定基準に見られるように、消費者の求めるより環境面で質の高い食物の提供がビジネス化している。例えば、三井物産とモスフードサービスの有機野菜物のICタグ化などに見られるように、単に生産と販売だけでなく間をつなぐ流通部門にも新たなビジネス展開が進んでいる。さらに自然食をメインに据えたレストランなど外食部門においても同様の展開が見られる。

(4)環境配慮型生活支援サービス

 2006年夏には酸素入り水ボトルの販売増が社会現象となったが、これはいわゆるLOHAS(ロハス:Lifestyles Of Health And Sustainability)の視点からも注目される動きである。我が国では「ソトコト」を中心にマーケティング概念として定着しているが、より広く人間の内外の環境に対する「環境配慮型生活」を送ることを最大の価値としてとらえる新しいビジネスの視点であるともいえる。国民意識の多様化や高齢化による社会構造の変化に合わせて、新たな環境ビジネスも登場してきている。屋上緑化、雨水利用、環境教育、環境調和施設・環境共生住宅・建物の長寿命化などはその典型例であるが、今後、大気・水質・土壌等の汚染改善など各種の安心や安全を保証するための簡易計測や診断、また、それらを統合したシステムなども有望な分野になっていくと想定される。

(5)環境ICT(Information and Communication Technology)

 これまで環境ITといえば、単純に環境問題をITによって解決を効率化しようとするビジネスのツールとして捉える動きが一般的であった。例えば、ITが持つ不特定多数の利用者をネットワーキングできる特徴を活かし、公共財である環境問題について、その解決に向けての情報交換を活発化しできるだけ数多くの参加者・賛同者を得て、具体的行動を促進させていこうとする参加と協働のモデルなどがそれである。
 最近では、こうした段階から一歩踏み込み、よりビジネスを指向するサービス提供型のビジネスモデルとして、クラスタリングなどの環境情報の市場交換やITを活用し環境配慮型経営を効率的に行うためのアプリケーションソフトと、それらを組み込んだ情報システムの構築及び情報技術を活用したコンサルティング等のサービス提供を行う環境配慮経営の情報化がある。

(6)グリーン・サービサイジング

 現時点ではもっとも環境負荷を間接的に捉え、負荷低減に寄与する取組をできるだけ幅広く価値化し商品化するビジネスモデルである。より高い環境負荷低減効果が期待される「サービス提供型のビジネス」であり、そのビジネスの展開を通じて「製品の生産・流通・消費に要する資源・エネルギーの削減」、「使用済製品の発生抑制」等に資する事業形態である。松下電器産業の従来製品ではなく「あかり」を買うことを主体とした「あかり安心サービス」などが代表例であり、サプライチェインないしは商品ライフサイクルに即して立体的に展開しうる可能性のある分野でもある。

(7)環境教育・人材育成

 これまで環境管理システム構築など環境取組に取り組む専門の人材はいなかったが(これまでは、一般的にはいわゆる環境コンサルタントに委託して対応してきた)、最近では多様な大学が環境関連の工学分野のみでなく環境経営・マネジメントに関しても大学院等で高度職業専門家の育成を図り始めている。また、環境人材の幅はさらに広がりつつあり、「環境Job.net」(株式会社グレース)などに見られるように、直接環境に関わる職種はもちろん、職種にこだわらず「環境配慮、CSRに積極的に取り組む企業・団体で働きたい」、「働くことが環境貢献、社会貢献につながるような仕事をしたい」と考えている人材と「そういった人を活かし、組織を活かしたい!」と考えている企業・団体の出会いのチャンス を提供する「グリーン雇用」の機会が増大している。
 これに伴って企業における環境会計の推進や様々な環境取組を行う環境教育をプログラム化し大学等と提携しビジネス化する動きもある。

図表4 環境人材の分類


環境化学系環境計量士、作業環境測定士、公害防止管理者、機器分析経験者(GC、HPLC、原子吸光分析装置…)など
研究開発系化学、バイオ、物理学、医学、薬学、食品、機器など
環境・CSRマネジメント系ISO審査員、EMS構築、環境報告書、環境会計、環境アセスメント、環境リスク評価など
事務・OA系経理、秘書、受付、総務、人事、営業事務、貿易事務 、オペレーターなど
営業・販売系営業、販売、旅行業務、マーケティングなど
設計技術系設計士、積算見積、施工管理、造園、土木、電気、機械、 CADオペレーターなど
IT系プログラマー、SE、ユーザーサポート、ヘルプデスク、情報通信など
クリエイティブ系編集、制作、デザイナー、コピーライター、DTPオペレーターなど
語学系通訳、翻訳、英会話教師、日本語教師など
イベント系キャンペーンスタッフ、ナレーター、司会、照明、舞台など
医療・福祉・介護系医療事務、薬剤師、

出典:http://www.kankyo-job.net/career/index1_3.html.


7.環境価値創成型ビジネスのさらなる可能性

 創造性の高いビジネス展開を図るには、それを支える教育・研究開発基盤の整備が基本的に重要であることは、地域においても同様である。近年ではこれらの課題に答えていくために、地域において教育および研究を主な機能とする大学の貢献に対してこれまで以上の期待が寄せられており、地域における創造的人材および企業・産業を創出するための社会環境整備、また地域の雇用開発による地域イノベーション手段として、産業・企業が大学等の高度研究教育機関と協力する産官学連携の存在が有効であり必要であると考えられてきた。北嶋守氏の「中小製造業における産学官連携活動の実態分析-コンペティション&コラボレーションの場の形成-」(『機械経済研究』No.32、2000年)の調査によれば、中小製造業が産学官連携活動によって参入したい市場分野に関して、第1位は「環境機器関連分野」(40.0%)で、次いで第2位は「医療・福祉機器関連分野」(35.2%)、第3位は「情報通信機器関連分野」(33.1%)、第4位は「産業機械関連分野」(31.7%)といった順になっている。このように多くの中小製造業が環境機器をターゲットにしていることが分かる。
 しかしながら、これまでの環境ビジネスを構成する主体を見た場合、その適用範囲は、大企業による大規模・広域型と、中小企業に小規模・地域限定型に大別されてきた。今後は、前者は、大企業特有の体力をもって新たな技術革新を伴い、省エネルギーや再生可能エネルギーを指向するバイオマスやエコマテリアル技術へシフトしていくことが考えられる。一方、後者は、地域の行政や環境NGO・NPOとの連携を一段と強め、独自の地域密着型のコミュニティビジネスの展開が考えられる。
 こうした動向の中で、着目すべきが大企業と中小企業の連携・提携の動きであり、具体的には技術連携やサプライチェインの統合などが考えられ、大企業が持つ技術力と資本力、及び知名度ないしはブランドに、中小企業が持つ技術力と地域密着性(地域における人脈・地縁)が結びついて、新しい「中範囲型」の環境ビジネスの可能性が考えられる。これらの動きに、大学のナレッジを活用する産学連携のスキームを加え、それぞれの地域に固有の自然や文化、都市形態などに応じた能力=「地域環境力」が結びつく新しい連携のスタイルが期待される。環境ビジネスにおける新しい連携主体の構築は、リサイクルにとどまらない、エネルギー、健康・安全等を統合した環境価値創造型の新たな地域ビジネスモデルの展開も視野に入れることができるのである。(注1)
 こうした動きが現実的になってくると、「地域」をベースとして「地域における環境と福祉の統合モデル」が具体化してくると筆者は見ている。
 障害者や高齢者のケアを地域における共助の枠組みで捉えること、そしてグローバルな規模の環境汚染を身近な生活・事業のレベルで捉えることを勘案すれば、高齢化対策等社会保障の問題と環境の問題をバランスよく包摂したうえで人間の能力を最大限に引き出し、これらの問題を解消しうる位相こそが、「地域」だといえる。(注2)例えば、大和市、大和市教育委員会及び社会福祉法人県央福祉会の協働により、知的障害者がバイオ・ディーゼル・フューエル(軽油代替燃料=BDF)の精製作業を担い、地域の環境改善に貢献している事例などは、その先駆けとして大いに参考になるものといえよう。
 地球にとって今一大事は温暖化問題であるが、それは民生部門・産業部門を問わず地域での取組こそがもっと基本的なポイントなるといえよう。私たち人間にとって可視化できる範囲で課題解決にあたることがもっとも効率的かつ効果的であり、まさに地域こそがそうした基盤として相応しい舞台であることはいうまでもないことである。新たな環境ビジネスの展開の可能性もそうした地域をベースにした地に足のついた実態経済の現場にこそ存在するのである。
 同時に解決しなくてはらない人類の構造的課題である福祉問題についても、地域で取組むことこそが効果的であり、そうした隣接する課題を、持続的に発展させていける経済の循環の輪に取り込み結びつけて一定のソリューションを示すことこそが、今後の環境ビジネスが持つ新たな特徴的機能でありミッションでもあるといえよう。

以上



(注1)
このあたりの記述は、松田一也, 「環境ビジネスの現状と今後の展望」

(http://www.kitec.or.jp/sangaku/kankyoubisiness%5D.pdf)によるところが多い。
(注2)
このあたりの記述は、広井良典, 「日本の社会保障」岩波書店(1999), 「定常型社会」岩波書店(2001)を参照している。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ