コラム「研究員のココロ」
環境ビジネスのフロンティア<第2回>
~環境価値創成ビジネスの新展開~
2007年10月22日 吉田 賢一
5.注目すべき環境ビジネスの分野
(1)従来からの視点
そこで、こうした「環境」の捉え方の動態的な変化を踏まえつつ、まずは従来的な視点から今後注目すべき環境ビジネスの分野を概観しておこう。
第一に、エネルギーを中心とした温暖化防止対策が挙げられる。京都議定書の発効により、様々な動きが表面化してきているが、今後、各種の支援施策が拡充されるとともに、新たな規制強化が予想され、ビジネスチャンスは、国内外で大幅に拡大すると考えられる。その中でも、ESCO事業等の省エネ関連や燃料電池、バイオマスの利活用等の新エネ関連は、特に期待される。また、排出権取引やカーボンフリーの金融商品などリテール分野でのCO2削減につながる可能性高く、環境価値創造型のビジネスにも関連する。さらに今後は温暖化取組の基本単位としての地域展開が鍵となる。
第二に、廃棄物の適正処理を主眼とした3Rである。各種リサイクル法や産廃税等による規制強化や、エコタウンはじめとした各種支援施策により、これまで環境ビジネスの主流を占めてきており、全体的には、今後もその傾向は変わらないと考えられる。しかし、個々にみていくと、技術開発や国際分業システムの進展により、新規参入企業がビジネスチャンスを拡大させる可能性はある。また、電子商取引などによるリサイクル財の交換など情報技術の活用による地域内における静脈市場の活性化も期待できる。法令による「規制」(PCBやダイオキシンのような明確な汚染物質として把握できる対象物に対する特別法による従来型の事後的措置)など、法令による「統制」(PRTR制度等化学物質リスクのような想定外の環境影響を最小限に留めるための関係アクターの協働による情報統制システムの構築など)及び法令による「誘導」(資源循環の観点から廃棄物を再生可能資源として活用するための技術的可能性の確保など)がもっとも巧みに組み合わされた領域として展開することが展望される。
第三に、環境配慮型マテリアルである。現状の法政策的スキームとしては、エコマテリアルについては積極的にこれを促進する個別法はなく、むしろ化審法やROHS指令等の規制枠組みに抵触しない限り可能性がある分野ともなっている。一方で、光触媒は水質改善、バイオプラスチックは包装紙削減につながるなど、エコマテリアルはあらゆる環境分野への応用とソリューションを可能とし、今後、研究開発の進展で商用ベースの拡大が期待できる。
(2)新しい視点~環境価値創成型ビジネスの新展開
以上紹介したものはエネルギーやマテリアルといった従来の環境分野の要素を対象とした、いわば従来からの発展型ビジネスである。
これに対し、今後展開する可能性の高い領域として、経済法との相克の問題も孕みつつも、環境を新たに価値化することで生まれるビジネスの可能性について、次にみていくこととする。
改めて「環境価値創成型ビジネス」とは、環境に対し直接働きかける従来型の技術・装置開発のハード系ビジネスではなく、環境関連サービスといったソフト系分野の成長等を勘案すれば、環境を通じて市場で新たな経済価値を交換するところに特徴がある。SRI、カーボンフリーの不動産やESCO、3PL、PPSなどはこのコンテキストでとらえられる。そしてその多くが必ずしも環境を直接的対象として生まれたビジネスモデルではないことも特徴的となっている。
環境価値を市場で取引するもっとも具体的な例はSRIであり、それは市場において経済活動を展開し、環境にもっとも負荷を与える企業に着目し、そのステークホルダーがいる地域をベースに、企業の経済的側面のみならず、環境や社会性をも評価し、統合的な観点から企業の社会的責任を問う動きが活発になってきたことに現れている。社会的責任を果たせる企業にのみ投資を行い、その企業の成長が環境配慮を促進し市場を持続的に発展させるのであり、また、その結果、投資家がリターンを確実に得ることにより、再び環境配慮型の投資を可能とするといった構図である。
これらを形づくる法政策的スキームとしては、直接的な規定は僅少であり、特定事業者の環境情報開示を義務付けた環境配慮促進法がそのパイオニアとなっている。
また、国際的なフレームである排出権取引については、平成18年4月に施行された改正温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)で温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務づけられることとなっており、将来的な取引のスキームに向けた体制づくりが進められている。
この分野では、これまで人間の生命に直結していた保全すべき環境の経済的価値であるリサイクルシステムと、同じ経済的な利得の観点から主張される知的財産権とぶつかる事案が顕在化しており(「インクカートリッジ事件」(知財高裁:平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件)、知的財産法、意匠法や商標法等との関係が生じる可能性が高くなっており、環境に対する法的な見方も新たな段階に入っている。
さらに、国民の生活意識に配慮した環境取組に特化してみた場合、現状の法的スキームとしては、国民生活にかかる環境はこれまで大きく衛生とエネルギーに分かれてきており、特に後者について二度のオイルショックの経験から、先天的に消費行動等におい省エネスピリットが基底に存在してきた。さらに、最近ではLOHASに見られるように、生活そのもの持続可能性の観点から捉え直し、ライフスタイルや生活雑貨、自身の肉体的健康にまで幅広く消費の目が広がっている。法制度の側面からは、エネルギーについては省エネ法をベースにしたエコプロダクツの市場化に向けたトレンドが見られ、その制度的担保の一つが省エネ機器におけるトップランナー制度である。また、エコラベリング制度など消費行動における環境配慮の側面を促すサプライサイドの動きも整いつつあり、分かりやすさの向上に加え、海外規格との連携、各種規格との整合などが求められている。一方で18年の省エネ法の改正を受け、住宅を対象とした取り組みも始まり、各自治体では条例等で屋上緑化の推進など、環境調和型施設の観点からも制度的促進のスキームが見られる。環境人材については、平成17年に施行された環境保全活動・環境教育推進法において、環境教育を全国的に推進していくために、国や自治体、企業などの役割、環境教育を指導する人の人材登録・認定・育成に関することが定めらており、より積極的な方向性が打ち出されている。
しかしながら、国民生活にかかる環境の範囲は幅広く、それぞれの分野における法的取組の延長線上での規制と規制緩和との組み合わせによるスキーム構築となっており、一体的、効率的な事業化推進を実現するには各主務官庁の連携と協力、融合が必須となるもとはいうまでもない。
図表2 環境価値化にかかる既存法制度
法制度 | 概要 | 対象 |
グリーン 購入法 |
| 誘導-再資源化・再利用(リサイクル資材) |
省エネ法 |
| エコプロダクツ(省エネ家電等)、 環境調和型施設 |
省エネラベリング制度 |
| エコプロダクツ(省エネ家電等) |
エコラベリング制度 |
| エコプロダクツ一般 |
環境保全活動・環境学習推進法 |
| 環境人材 |
出典:既存文献・資料等をもとに、筆者作成.