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コラム「研究員のココロ」

教育・ヘルスケアサービスによる地域活性化の考え方<第3回>
~公立学校ブランディング~

2007年10月15日 志水武史


1.「公立学校ブランディング」の具体的手法

 これまで教育・ヘルスケアによる地域活性化の考え方、そしてその具体的手法について述べてきた。最終回となる今回は、教育サービスによる地域活性化の中核とも言うべき「公立学校ブランディング」の具体的手法、すなわち、公立学校への民間主体の関与方法について述べることにする。学校法人など民間主体による既存の公立学校への関与の方法としては、具体的に以下の3つの方法が考えられる<注1>

 第一の方法は、「公立学校管理運営の民間主体への包括委託」である。これは授業やクラブ・部活動を含む公立学校の管理運営業務全般を包括的に民間主体に委託し、民間の教育サービスに関するノウハウを公立学校に導入するという方法である。公的施設運営の指定管理者制度にみられる手法を公立学校に適用する考え方である。
 例えば、イギリスやアメリカでは、公立学校の運営を民間主体に包括的に委託するPFI・PPPの手法が採られている。イギリスのトラスト・スクール(Trust School)制度<注2>は、公立学校における教育の質向上<注3>を図るため導入された仕組みであり、運営費用を公費負担、運営を民間委託という「公設民営」方式で運営される。トラスト・スクールでは、独自に学校スタッフを雇い、学校資産を管理運用できるほか、児童生徒の入学に関する基準を設けることもできる。また、教育内容に ついても、私立校と同様、一定の裁量が与えられる仕組みとなっている。
 こうした公立学校管理運営の民間主体への包括委託について、現状、わが国においては、一部自治体や教育関連団体・企業などが構造改革特別区域制度(以下、特区)の申請を行っているものの、文部科学省において中央教育審議会(中教審)で審議中 であるという理由から申請を認めていないため、現時点で包括的委託を実施している自治体・公立学校はない。
 今後、公立学校管理運営の包括的委託に関する特区申請が認められるようになれば、民間主体の関与による公立学校のブランディングの実現が容易になるものと思われる。

 第二の方法は、「民間主体の学校運営協議会への参画」である。これは地域運営学校(コミュニティ・スクール)等における学校運営協議会 に学校法人等の民間主体が関与する方法である。この方法であれば、現行法の下でも民間主体による公立学校運営への関与は可能である。
 しかし、現状、学校運営協議会の学校運営における権限は限定的 であり、民間主体以外の地域の多くの関係者も参画する体制であるため、実質的に民間主体の主導下で学校を運営することや、ノウハウを導入することは困難であると考えられる。また、学校運営協議会に参画する方法では、民間主体のノウハウ・サービス提供への対価を支払うことも困難であるため、民間主体にとっては、学校運営に関して地域との連携を強化する以外には、関与のメリットを見出しにくいという問題がある。このほか、民間主体のノウハウ等を導入できるのは学校運営協議会が設置されている当該公立学校一校に限られるため、地域全体の公立学校の底上げができないという問題もある。

 第三の方法は、「公立学校の高付加価値化を目指す任意団体の設置」である。これは、地域の公立学校の高付加価値化を共通の目標として、自治体、教育委員会、公立学校関係者、学校法人、学校教育関連団体、コンサルティング会社、保護者などの多様な主体から構成される地域プラットフォーム(共通基盤)を地域内に設置する方法である。
 この地域プラットフォームのポイントをまとめると以下の1~5のとおりである。
  1. 地域プラットフォームは公立学校に対して、「経営改善」、「学力向上」、「教員資質向上」、「児童生徒支援」など、課題別のプログラムを検討・提供

  2. 公立学校ブランディング事業の経費負担・予算措置は自治体が行う(「がんばる地方応援プログラム」等の国の補助金、民間企業等の拠出も検討)。

  3. 地方自治体が参加することにより、特定の1校だけでなく、地域全体の公立校を対象とした取り組みが可能。

  4. 学校運営に関しては実質的な権限を持たないが、公立校のカリキュラムやクラブ・部活動に対して、私立学校のプログラムを導入する(プログラム導入に係る費用は自治体が負担)。

  5. 学校法人や学習塾等の民間企業としては、当該プラットフォームへの参画を通じて、事業収益と当該法人等の一層の高付加価値化が可能。また、中長期的に地域内への転入人口が増えれば、児童生徒数も増加し、授業料等の収入が増加。

効率学校ブランディングの事業体制イメージ


2. まとめ

 公立学校ブランディング・プラットフォームを設置し、かかるプラットフォームを通じて各種プログラムを提供する仕組みは、前述の学校運営協議会を通じて公立学校に関与する方法よりも柔軟性が高く、民間主体には参画に向けたモチベーションを付与することができる。公立学校の包括運営が認められるまでの過渡的な期間、こうした地域プラットフォームを通じて公立学校のブランディングを図ることは現実的な路線であると思われる。
 現在、筆者はある地域において、こうした地域プラットフォームの具体的なあり方と実現方法の検証を試みている。この地域プラットフォームが公立学校のブランディング、ひいては当該地域における移住・交流人口の増加に資するならば、この取り組みは多くの自治体に広がるものと考えている。
 ただ、公立学校ブランディング手法の将来的な姿として想定される公立学校の包括運営委託について、まったく課題がないわけではない。中教審等でも指摘されているように、委託の対象となる活動範囲、委託先(学校法人以外にも民間企業の受託を認めるか)、学校設置者(自治体)と受託者の権限関係、教職員の身分・資格、受託者の倒産・撤退時のセーフティ・ネットの構築等について課題は山積しているといっていい。こうした課題の解決方法についても、地域プラットフォームの中で検討していくことが望まれる。

以上


<注1>
公立学校への民間主体の関与方法としては、「公私協力学校」という仕組みもあるが、これは私立学校の一類型とみなされることから、今回は特に触れていない。
http://findoutmore.dfes.gov.uk/2006/09/trust_schools.html

<注2>
トラスト・スクール同様に民間主体が設置・運営に関与する公立学校(経常費は公財政が負担)である専門学校・アカデミーの成績が他の学校に比べて良好であったことが報告されている。http://www.schoolsnetwork.org.uk/uploads/documents/
ed_outcomes_2005_123471.pdf

<注3>
平成16年3月4日中教審答申「今後の学校の管理運営の在り方について」では、「一部の地方公共団体等においては、公立学校を民間に委託し、その地域において生じている特別なニーズや状況に対応したいという要望があることにかんがみ、今後、構造改革特別区域制度を活用した実証的な研究を行うことが考えられる。」としているが、当面は義務教育外の幼稚園と高等学校を対象とすべきという見解が示されている。
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