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コラム「研究員のココロ」

デマンド型乗合タクシーの効率的な運行に向けて

2008年04月28日 渡辺康英


 デマンド型乗合タクシーとは、ドア・ツー・ドアの送迎を行うタクシーに準じた利便性と、乗合・低料金というバスに準じた特徴を兼ね備えた移動サービスである。これまで自治体が導入してきたデマンド型乗合タクシーは、運行経費の赤字部分を自治体が補填する方式であった。自治体が置かれた厳しい財政状況を考えると、自治体補填型の方式では、将来支えきれなくなる事態も危惧される。交通不便地域の交通弱者に対する移動サービスとして、民活によるデマンド型乗合タクシー運行の可能性はないのだろうか。
 本稿では、「1 デマンド型乗合タクシーの導入動向」、当社が支援した「2 神栖市版デマンド型乗合タクシーの概要」、「3 デマンド型乗合タクシーの効率的な運行に向けたポイント」を紹介するとともに、自治体には依存しない「4 民活型のデマンド型乗合タクシーの提案」を行った。

1 デマンド型乗合タクシーの導入動向

 交通弱者の移動手段を確保するため、交通不便地域に対してデマンド型乗合タクシーを導入する自治体が増えつつある。赤字を抱え、路線バスの廃止が進む中で、これまでは中山間地域などを抱える自治体がデマンド型乗合タクシーを導入していたが、最近では市街地においてもデマンド型乗合タクシーを導入する自治体が現れている。
 平成20年1月から運行開始するデマンド型乗合タクシーは、下記のとおりである。中山間地域だけではなく、市街地の交通不便地域解消に向けた導入がうかがえる。

■平成20年から運行開始するデマンド型乗合タクシー

運行開始時期自治体名自治体名
平成20年7月から運行予定茨城県古河市総和、三和地区に対して運行を計画
平成20年6月から運行予定富山県小矢部市事前予約制、定時定路線での運行を計画
平成20年4月1日から運行秋田県秋田市路線バス廃止に伴い運行
平成20年4月1日から運行秋田県仙北市路線バス廃止に伴い運行
平成20年4月1日から運行茨城県桜川市福祉巡回バスを廃止し、その代わりに運行
平成20年4月1日から運行茨城県利根町町内と竜ヶ崎駅、龍ヶ崎済生会病院まで運行
平成20年4月1日から運行静岡県富士宮市市内3地区と中心部を結ぶ3コースを設定
平成20年4月1日から試験運行秋田県美郷町市内3地区と庁舎を結ぶ3コースを設定
平成20年4月1日から試験運行山形県遊佐町町営バスを廃止し、その代わりに運行
平成20年1月7日から試験運行愛媛県四国中央市土居、川之江地区の一部で試験運行

(出典:新聞記事検索、インターネット検索より作成)



2 神栖市版デマンド型乗合タクシーの概要

 当社が運行計画の策定や試験運行を手伝った茨城県神栖市のデマンド型乗合タクシーでは、「自動車を運転しない高齢者等の交通弱者に対して、日常生活の維持に向けて、買物、通院、公共施設・金融機関への立寄りを支援すること」を運行目的としている。全市域に均等な移動サービスを提供するため、市域147k㎡全域に対してデマンド型乗合タクシーを導入することとし、平成19年10月から試験運行を開始している。ただし、効率的な運行実現と、路線バス・タクシー事業者への経営圧迫を回避するため、医療機関、公共施設、商業施設、金融機関等に行き先を限定するとともに、市内を4エリアに区分して、各エリア内の移動に制限したデマンド型乗合タクシーとしている。
 平成20年3月10日現在、延利用者は5,289人であり、徐々に利用者が増加している。利用者の約9割が60歳以上、約7割が女性であり、通院中の市民などから好評を得ている。

■事業概要(「平成20年度施策別新規事業及び重要政策図解」(神栖市)等より作成)

項 目概 要
1.デマンドタクシーとは日常生活での移動を補助するシステムとして、電話予約により、自宅から目的地(医療機関、主な公共施設、金融機関、商業施設等)まで、乗合により送迎。利用対象は全市民(事前に会員登録が必要)。
2.運行日月曜日~金曜日(祝日、年末年始を除く)
3.時刻表午前:8時便、9時便、10時便、11時便
午後:正午便、1時便、2時便、3時便、4時便
4.予約受付運行日の午前7時30分から午後4時30分まで利用する便の1時間前までに予約(8時便は、前営業日までに予約)。
5.利用料金大人300円 小人150円(小学生以下、ただし3歳未満無料)
チケット制(6枚綴り回数券を販売)
6.エリア区分市域を4エリアに区分し、住所地エリアを利用できる範囲として限定。
7.配車数北エリア:セダン型3台 中北エリア:セダン型2台
中南エリア:セダン型2台 南エリア:セダン型2台
8.予約センター神栖商工会館3階に予約センターを設置。会員登録、予約受付、各エリアのタクシー会社へ配車等の業務を実施。


3 デマンド型乗合タクシーの効率的な運行に向けたポイント

 これまで自治体が導入してきたデマンド型乗合タクシーは、交通弱者の幅広い移動ニーズに対応した運行計画を立てており、その運行経費を利用料金でまかなうことは困難になっている。また、地理的条件や人口密度等によって、効率化が難しい交通不便地域も存在している。赤字部分を自治体が補填するとしても、可能な限り効率的で経費節減につながる運行システムを構築するべきであり、下記事項を念頭において運行計画や運営方法を検討することが必要である。

■デマンド型乗合タクシーの効率的な運行に向けた留意点

領 域留 意 点
1.運行計画に関する留意点◆利用者、利用目的の限定
通院や買物時の移動に困っている高齢者等が主たる利用者となるよう、デマンド型乗合タクシーの利用には、一定の条件を設けることが必要である。さらに、利用目的もしくは行き先についても、通院、買物、金融機関、公共施設への移動などに限定することが必要ではないか。利用に際して一定の条件を設けることにより、限られた対象者への移動サービス提供となり、配車台数を抑制することができる。
◆移動距離を限定する運行エリアの設定
デマンド型乗合タクシーの導入目的、移動ニーズ、市域の広さに応じて、運行エリアの区分を検討すべきである。限られた車両台数、乗車人数の中で効率的な移動サービスを提供するためには、運行エリアを一定範囲に限定することが望ましい。また、デマンド型乗合タクシーの導入によって、行政エリア全域に対してドア・ツー・ドアの移動が低料金で可能になってしまうと、地元タクシー業界の経営を圧迫することになる。民業圧迫を避け、一般タクシーと棲み分けを行うためにも、運行エリアには制限を加えるべきである。
◆運行頻度の調整や隔日運行の検討
デマンド型乗合タクシーは、毎日頻度高く運行されることが利用者にとって望ましい。しかし、最近の導入事例の多くは乗車1回につき300円程度の利用料金を設定しているが、料金収入で運行経費をまかなうことは困難な状況である。利便性向上に伴い運行経費もアップするため、運行頻度を落とすことや隔日運行等により、1台の車両で複数の運行エリアをカバーする運行計画も視野に入れるべきである。
◆段階的な運行計画の拡充
交通不便地域の現状、高齢化の動向、病院や公共施設の立地状況など、運行エリアの特性に応じてデマンド型乗合タクシーの利用者数は左右される。また、利用者に対する事前登録制度や事前予約制度など、路線バスなどの利用とは異なる仕組みのため、運行当初は利用が少なく、徐々に利便性が認められて利用者が増加していく傾向にある。デマンド型乗合タクシーの需要は予測しにくいため、当初は限定した運行エリアや限られた車両台数で試験運行を実施し、利用動向を確認しながら事業内容を拡充していくことが必要である。
2.運営方法に関する留意点◆簡素な配車管理システムの導入
事前予約方式であれば、走行中の車両に対して予約センターから直接指示を出すことはほとんどない。既存のタクシー車両をデマンド型乗合タクシーとして活用するのであれは、直前の予約キャンセルには車載のタクシー無線を使用することができる。このため、GPS機能などの高価な装備は省き、簡易な配車管理システムを構築しコストダウンを図るべきである。先行しているデマンド型乗合タクシーの配車管理システムよりも、コストダウンに努めているタクシー会社の配車システムを参考にすべきである。
◆少人数の予約受付体制
高齢者からの電話予約を受け付け、要望を確実に受け止めて配車するため、予約センターにはオペレーターが必要になる。少数のオペレーターで対応できるよう、利用者からの様々な問い合わせを想定したマニュアルを作成し、事前研修を行うことが必要である。こうした予約受付においても、少人数で予約を受け付けているタクシー会社を参考にすることが必要である。
◆セダン型車両の活用
デマンド型乗合タクシーの車両は、交通不便地域の特性に応じて、乗車人数の大きいワゴン車か、一般タクシーと同様のセダン車両が選択される。セダン車両は、乗車人数が限られワゴン車に比べて効率が劣るように思われがちであるが、実際には運行を担うタクシー会社の既存車両を使用することとなり、昼間の遊休車両の活用にもつながるため、比較的低料金での運行が可能になる。
3.地域との連携◆利用料金以外の収入確保
デマンド型乗合タクシーへの広告や、企業や商店からの協賛金などによって、利用料金以外の収入確保を試みることも必要である。通院や買物利用が多いことから、医療機関や商業施設に対して協力を働きかけるべきである。積極的に地域の応援を求めて、利用料金以外の収入を確保することが必要である。
◆地域住民との協働の取り組み
平成19年11月1日から運行を開始した宮城県登米市のデマンド型市民タクシーは、米川地区住民の有志で組織する米川地区乗合タクシー運行協議会が、これまで登米市が実施してきた試行事業を継承してデマンド型乗合タクシーを運行している。利用料金1回300円とは別に、利用者は利用登録料として年間3,000円を負担し、登米市は運行経費の4分の1を助成する仕組みとしている。地域住民自らが地域の足を確保する姿勢や市民との協働による問題解決を促すことも求められている。


4 民活型のデマンド型乗合タクシーの提案

 交通不便地域に対する移動サービスの提供は、超高齢社会を迎えた自治体にとって避けられない課題である。しかし、自治体による赤字補填を伴う仕組みでは、導入に二の足を踏む自治体も少なからずあるはずである。交通不便地域の条件によっては、自治体にとって負担のかからないデマンド型乗合タクシーの仕組みが創り出せるのではないだろうか。解決すべき多くの課題を抱えるが、地域のタクシー会社が主役となる民活型のデマンド型乗合タクシーとして、下記の移動サービスを提案したい。

◆民活型のデマンド型乗合タクシーの概要

 私が実現したいと考えている民活型のデマンド型乗合タクシーの基本的な仕組みは、タクシーの「相乗り」の活用である。交通不便地域の交通弱者に事前登録と事前予約を求め、通常のタクシーの稼働率が低下する日中などの時間に限って、乗車地点が近い3~4名の交通弱者を次々と同乗させて、同乗者が割り勘で支払いできる「相乗り」をタクシー会社が中心となって運行するものである。交通弱者にとっては料金的なメリットが生まれ、タクシー会社にとっては稼働率アップにつながることになる。
 交通不便地域の交通弱者のあらゆる移動ニーズに応えようとすると、デマンド型乗合タクシーの仕組みは複雑になり、その管理運営には大きな経費や負荷がかかってしまう。しかし、交通弱者の日常生活圏での買物や通院などを支援する移動サービスに特化すれば、時間帯、運行範囲などを限定することができる。タクシーの「相乗り」を活用したデマンド型乗合タクシーならば、今までタクシー利用を控えていた交通弱者の需要掘り起こしにもつながり、稼働率をアップさせたいタクシー会社の進出を促すことができるのではないだろうか。
 高齢者等の交通弱者がコミュニティバスなどを利用する場合、最寄りの駅、スーパー、病院などが主な行き先となる。地理的条件にもよるが、日常的な生活支援に特化するならば、数キロ前後の移動をサポートする乗合タクシーにしてもよいのではないだろうか。東京地区のタクシー料金では、3kmまで1070円、4kmまで1340円であり、3~4名が相乗りすれば、1名あたり負担額は既存のデマンド型乗合タクシーの料金300円前後とほとんどと変わらなくなる。(ただし、迎車料金は無料と想定。)
 こうしたタクシーの「相乗り」による民活型のデマンド型乗合タクシーを実現するためには、制度面、運用面、意識面などに関して課題があるが、下表のとおり対応できるのではないだろうか。

■民活型のデマンド型乗合タクシーの実現に向けた主な課題と対応策(案)

実現に向けた主な課題実現に向けた対応策(案)
1.制度面
  • 通常のタクシーが許可なく不特定多数の乗客を乗車させる「乗合行為」は違法である
  • 運行を担うタクシー会社が乗合許可を得る
2.運用面
  • 交通不便地域の交通弱者の移動ニーズに応じて、円滑な配車と送迎の仕組みを築くことが必要になる
  • 高齢者等が利用しやすい予約方法、予約時間、同乗人数等のルールを整えることが必要になる
  • 乗降地点が異なる同乗者に対し、簡便な割り勘払いを可能にすることが必要になる
  • 帰路の移動ニーズに対して効率的な移動サービスを用意することが必要になる
  • タクシー会社が交通弱者から直接事前予約を受け付けることで対応する。タクシー会社の担当エリアを限定することで、送迎円滑化を図る
  • タクシー稼働率の低い時間帯に限り、電話による予約と運行を受け付ける。最低3名以上のグループ予約などをルール化する

  • 事前予約に基づいた料金計算や運行エリアに応じた料金設定などで対応を図る
  • 帰路も直接事前予約を受け付けることで対応。グループ予約ができない場合は、通常タクシーの割引料金適用と無線配車で対応する
2.意識面
  • 交通弱者が、時間帯や運行範囲を限定したタクシーの相乗りに慣れていない
  • モデル地区での試行、メリットPR、利用者・事業者のルール確立等で相乗りを浸透させる


 タクシーの「相乗り」を活用した民活型のデマンド型乗合タクシーを実現するためには、交通不便地域の交通弱者とタクシー会社に理解と協力を求め、地域の特性に応じた仕組みをつくることが必要になる。交通弱者の移動ニーズを効率よく集約する仕組みを築くことが、実現に向けた最も難しい課題となるだろう。しかし、事前登録の段階で、居住地や利用希望日時などの共通性から登録者をグループ化し、グループ代表者がグループ内の移動ニーズを取りまとめて事前予約するルールを確立してしまえば、タクシー会社は現状の電話受付体制で対応することができるはずである。受付や配車に関して特別な情報システムや装備などを導入する必要もないため、タクシー会社にとって取り組みやすい事業になるのではないだろうか。
 地域が協力し合い「相乗り」の仕組みを築くことができれば、利便性が高く自治体の財政負担のない民活型のデマンド型乗合タクシーが実現する可能性がある。自治体が地域特性に応じた新たな移動サービスの仕組みを考案し、タクシー会社の売上アップにもつながる道筋を示せば、民活型のデマンド型乗合タクシーを実行に移すタクシー会社が現れるのではないだろうか。
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