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インドの省エネ取引市場の行方

2009年02月17日 渡辺珠子



2008年12月13日、インド政府は省エネ取引市場設立計画を発表しました。同年6月30日に発表されたインド国家気候変動行動計画にて、2017年までに達成すべき8つの国家ミッションの一つとして掲げられている、「省エネの促進のための国家ミッション」の下で計画されたものです。

この省エネ取引市場の仕組みは、排出量取引制度における「キャップアンドトレード」方式に類似した仕組みです。対象となるのはエネルギー使用量の多い規模の大きな産業セクターや工場や施設であり、それぞれに対して政府が省エネ目標値を設定し、目標値を達成すると「エネルギー証明書」が発行され、この証明書をインド国内の電力卸売取引市場で売買することによって省エネを「取引」するというものです。省エネ目標値を達成できない事業者は、取引市場で「エネルギー証明書」を購入することで目標を達成することができます。一方、目標が達成できず、また「エネルギー証明書」も購入できなかった事業者には、省エネルギー法に基づき罰則が課せられます。省エネ取引市場設立に向け、政府は2009年末までに目標値を設定する予定であり、実際の目標値達成のための期間は3年間(2012年まで)となる予定です。

インドでは近年の急速な経済成長に電力供給が追いついておらず、全国的に慢性的な電力不足が深刻な問題となっています。ピーク時の電力不足率は近年上昇傾向にあり、2007年のピーク時の電力不足率は15.2%と、前年の13.8%から1.4ポイント上昇している状況です。電力不足解消のためにも、省エネ取引市場の成功は望まれるところです。

しかし、排出権取引制度での「キャップアンドトレード」方式と同様、省エネ目標値の設定方法、各産業セクター等との合意形成等、運用開始までに解決すべき難しい課題が多い他、実際に運用が始まったとして、果たして「エネルギー証明書」に対する取引需要が出てくるのかという懸念もあります。更にインド・エネルギー資源研究所(TERI)の研究員によれば、インドで省エネの取組を浸透させるためには、金銭的インセンティブ(financial benefit)を明確に提示することが非常に重要とのことです。これらの課題を解決し、実際の運用に至るまでの期間を、インド政府は約1年(2009年末まで)としています。短期間でこれらの課題を解決することが非常に困難であることは、容易に予想されますが、見方を変えると、日本が積極的にこの課題に関与することで、日本の省エネ技術をインドに普及させるチャンスにつながるとも言えるのではないでしょうか。具体的には、省エネ取引市場の制度設計や省エネ機器導入における補助金制度等、行政面での取組支援とセットで日本の省エネ技術をモデルプロジェクトとして導入するといった、官民一体となった取組みが考えられます。こういった観点も踏まえ、インドの省エネ市場設立の動向を積極的にウォッチしていきたいと思います。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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