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コラム「研究員のココロ」

事業改革の進め方に関する考察・提言

2007年10月05日 名村 晃


■はじめに(事業改革の必要性について)

 20世紀以前と比べた現代社会の最大の特徴は、「環境変化が極めて激しい」ということではないでしょうか。昨日まで繁栄を謳歌していた会社が衰退の一途をたどる、あるいは他社からの買収危機にさらされる。こうしたことが、あらゆる産業・業界で毎日のように起こっていることは周知のとおりです。
 この環境変化が望ましいことかどうかという議論はひとまず置いておくとして、このような時代にあっては、ダ-ウィンの進化論にもあるとおり、環境変化に適応し続ける企業だけが生き残ることができるといえるでしょう。従って、程度の差は別として、企業は変化(進化)し続けなければならない宿命にあると「覚悟」することが、事業改革を成功させるための最初の条件であると筆者は考えています。あえて「覚悟」という言葉を使用したのは、何かを変えるということは、これまでの慣れた環境を捨てて未知の領域に足を踏み出すということであり、相応の心構えがないと、改革の途中で頓挫する可能性が高いと想定されるからです。
 しかし、いくら改革することが必要だとは言っても、闇雲に業務や組織を変更したり、他社と合併して規模を大きくしても、期待した効果が得られる確率はかなり低いでしょうし、却って現状より悪くなる可能性も十分にあります。かといって、失敗を怖れて何も変えないという選択肢も、上述したような環境変化に適応できなくなり、そう遠くない将来に「座して死を待つ」という結果になるのではないかと思われます。このように現代社会は、多くの企業にとって舵取りが非常に難しい経営環境の中で、それでも果敢に改革にチャレンジし、かつ最後までやりきることが求められている時代であると言えます。
 本稿では、この難しい「事業改革の進め方」について、以下に筆者の考えをご提言させて頂きたいと思います。ただ、一口に「事業改革」といってもその領域は幅広く、業種や業態、企業の規模や事業構成(単一事業か複数事業か)などによって、様々なパターンが存在します。これ以降は、「製造業・卸売業における、単一事業の事業改革」を前提とした考察としてお読み頂ければと思います。

■事業改革の進め方に関するポイント

 上述したとおり、事業改革は闇雲に行うと改悪につながる怖れがあるため、正しい手順で進めることが極めて重要であると考えています。以降では筆者が考える事業改革の進め方のポイントについて、述べていきたいと思います。

1.将来ビジョンをクリアにする。

 事業改革を進める際に、まず初めに着手すべきと筆者が考えているのは、当該事業の将来ビジョンをクリアにすることです。「将来」という表現は曖昧ですが、現在の環境変化スピードを考えると、あまり遠い未来に目標を置くと、前提条件自体が変わってしまう可能性が高いため、長くても3年程度の中長期スパンで捉えた方がよいでしょう。それぐらい先の将来に、「当該事業が業界内でどのようなポジションにあり、どのような付加価値(商品・サービス)を顧客に提供できていることが望ましいか(ビジョン)」をイメージしてみてください。ちなみに、将来のあるべき姿とそれを実現するための実行計画をまとめたものが、「中期経営計画」ということになりますが、この段階ではそのような形式にこだわらず、まずは経営者または事業責任者の方の思いをクリアにする(できれば、箇条書きでも紙に書き出す)ことで十分ではないかと思います。
 この「将来ビジョンをクリアにする」というステップですが、次にくる「現状分析」のステップよりも先に行った方がよいと筆者は考えています。なぜなら、現状分析を行った後で将来ビジョンを考えると、思考が実現可能なところで小さくまとまる可能性が高いからです。いったん制約条件を取り外し、「ワクワクしながら夢を描く」というスタンスで検討されることをお勧めします。

2.的確な現状分析が、成功への第一歩

 次に現在の経営状況を把握するために「現状分析」を行います。この「現状分析」は、プロジェクトテ-マにもよりますが、通常のコンサルティングの中でも必ず実施するフェーズです。様々な角度からの定性的・定量的分析を行うことで現状抱えている問題点を抽出するという少し地味な作業ですが、このフェーズにおける取組みの巧拙が事業改革の成否を決すると言っても過言ではないと思います。
 筆者が前職で在籍していたあるメ-カ-における業務改革の経験や、現職でこれまでにコンサルティングで関わった会社を思い返しても、(1)流行の横文字コンセプト(SCM、CRM、SFAなど)に飛びつく、(2)ベンチマークという名目で、業績が好調な他社のやり方をそのまま自社に導入する、などのケースが散見され、改革構想を練るにあたり、的確な現状分析が行われているケースが意外と少ないのではないか、と感じています。
 その会社の事業は、他社と比べて一つとして同じものはなく、前提条件も違うわけですから、教科書的なコンセプトや他社の成功事例をそのまま適用しても、当然のことながら上手くいくはずがありません。それ故、現状分析により全体像を把握することは、事業改革を成功させる際の必須条件であると言えます。
 現状分析の重要性に関して、以下に、ある卸売業者のコンサルティング事例をご紹介します。当初は物流テーマ(倉庫の配置、輸送ルート見直し)に関するコンサルティングの依頼だったのですが、在庫量が近年急激に増加しているという情報が気になりました。そこで、先方から商品アイテム別の在庫データを入手し、分析したところ、全商品アイテムの実に1/3近くが、滞留化(在庫月数2年以上)していることが判明しました。そのため、物流テーマよりも、滞留在庫が発生している要因を分析し、そちらに対して手を打つ必要があると提案したところ、先方も納得され、そちらの課題に優先的に取組むことに方針が変更されました。
 このように現状分析がきちんと行われていれば、間違った経営課題を設定し、その解決のために、貴重な経営資源(人・金・時間)を投入して無駄にしてしまうリスクを軽減することができます。
 逆にこれは大企業によくあるケースだと思いますが、現状調査や分析にいたずらに時間と工数を費やすというのも考えものです。膨大な分析や調査作業の結果、情報はいろいろ手に入れたものの結局何をどう改革していくべきなのか全体像が却って見えづらくなり、せっかくの情報もほとんど活用されず、紙(レポート)だけが残ったという結果になりかねません。特に環境変化の激しい時代には、分析結果の情報はすぐに陳腐化してしまうので、数ヶ月も経てば前提条件が変わっていて使えなくなる可能性があります。それを防ぐには、可能な限り調査や分析の対象を絞りつつ、必要な項目を網羅した分析を実施し、短時間で分析結果をまとめることが事業改革を成功させるためのポイントと言えます。

3.分析結果の統合化・構造化 ⇒ 課題の解決策に関する仮説構築

 次のステップとして、現状分析結果から解決すべき(経営)課題の抽出を行うわけですが、その際に各分析結果から「何が言えるか」のメッセージを抽出し、さらに複数のメッセージを束ねて、そこから新たなメッセージを引き出すという、いわゆる分析結果の統合化・構造化のプロセスが大変重要であると筆者は考えています。
 この作業は非常に労力がかかり、かつ正解というものが明確でないため、試行錯誤する点も多いと思いますが、このプロセスを通じて当該事業が抱える問題の全体像を構造化し、解決すべき経営課題を正確に設定することができると筆者は考えています。さらに、この作業に社員が参加することで、普段は自部門の業務に集中し、狭くなりがちな社員の視野を事業全体の課題解決へと広げることができ、社員の育成につながるという副次的効果も期待できます。
 設定した経営課題を社内でよく議論し、揉むこともまた重要です。問題の構造化が適切にできていれば、それをベ-スとして効率のよい議論が展開できるはずですし、議論を重ねることで、経営課題の解決策に関する社員の納得感が高まれば、実行段階における社員のモチベーション・実行力の向上にもつながります。
 ちなみに前述した卸売業のコンサルティング事例では、我々コンサルタントが中心になって分析結果からメッセージを抽出し、さらにメッセージの統合化を行いました。
 その結果、(1)滞留在庫の発生は一部の商品カテゴリーまたはアイテムに偏っているわけではなく、かなり多岐に渡る商品カテゴリー・アイテムに分散されていること、(2)滞留在庫を商品属性毎に見ると、その多くはカタログから外れた商品(旧商品)およびカタログに載せる前の商品(新規買付け品)で大量に発生していることがわかり、新商品買付け⇒定番商品⇒旧商品への切替えという、いわゆる商品ライフサイクル管理が適切にされていないのでは、という仮説を導き出しました。
 我々の仮説をもとにディスカッションを行った結果、(1)営業担当者が現地で買付けた新商品の在庫管理が担当者任せになっており、会社としての管理が行き届いていないこと、(2)新商品買付け時の予算ルールが明確に決められていないこと、(3)カタログ落ち商品の終売管理が適切にされていないことがわかり、商品ライフサイクル全体を管理するための業務ルール設定が不可欠であるとの課題認識を社員の方々と共有することができました。これは、机上のデータ分析結果からの仮説と、実務の情報をリンクさせることで、問題発生のメカニズムを上手く解き明かせた事例と言えます。
 このように、きちんと問題の構造化が行えていれば、よくありがちな「そもそもの目的は?」などと立ち戻るような議論を防ぐことができ、かつ実務に則した具体的な討議が行えるため、解決策の意見・アイデアも出やすくなるものと思います。改革の初期段階で、メンバー内で納得感の高い経営課題&解決策に関する仮説を設定できるかどうかによって、その後の活動においてプラスループを廻せるか、マイナスループに陥るかの差が生まれ、期間を経るごとにその差が開いていくのではないかと筆者は感じています。

3.経営課題の優先順位判断~効果見積り・リスク要因洗い出し

 ここまでのステップを順調にクリアすれば、当該事業における納得性の高い経営課題&解決策に関する仮説が設定できているはずですが、通常それらは一つではなく、複数存在するはずです。従って、どの課題から着手すべきか、課題の優先順位をつける必要があります。その際は、原則として1で検討した「将来ビジョン」と照らし合わせ、「将来ビジョン」の実現に、関連性の高い課題から取り組んでいった方がよいと筆者は考えています。
 また検討した解決策を実行する前に、個々の解決策によりどの経営課題が解決されるのか、可能であれば課題が解決された場合の金額面での期待効果はどれぐらいかを見積っておいたほうがよいでしょう。これにより、実行段階での混乱(目的を見失うなど)や施策の優先順序についての判断ミスを防ぎ、着実で円滑な実行につなげることができるはずです。さらに、このタイミングで実行段階でのリスク要因も可能な範囲で洗い出しておけば、実行中に当初の想定状況と変わった場合にも、迅速に軌道修正を行うことができると考えます。

4.実行計画作成~実行結果のモニタリング

 3の検討結果をもとに、実施スケジュールや担当部門(者)などを決めて、実行計画に落とし込みましょう。計画に従って実行しつつ、定期的にモニタリングを行うことで、期限どおり実行されたか、想定どおりの効果が得られたかなどを確認し、想定と異なる場合はその原因の追求および次善の対応策を打つことが必要です。

 以上、駆け足で筆者が考える「事業改革の要諦」を確認してきました。特に目新しい考え方というわけではないと思いますが、「言うは易く、行うは難し」です。いかに各ステップを確実にやりきることができるかが最も重要であると、筆者は考えています。
 よくコンサルティング先の企業で、「戦略を立てても現場に支持されず、実行まで到らない」という声を耳にします。せっかく時間をかけて戦略を検討しても、実行されなければ意味がありません。そのような事態に陥る要因は、上述のプロセスのどこかに問題がある、あるいは、最後までやりきっていないことにあると思います。一度、そのような観点から自社の取組み内容について見直しされることをお勧めします。

5.システムは、新業務を成立させるためのツールと心得る。

 最後にシステム構築についても、若干触れておきたいと思います。既に言い古されたことではありますが、システムは業務を遂行するためのインフラであり、ツールです。老朽化更新や内部統制などの法律対応など新システム導入そのものが不可欠な場合を除くと、原則として「システム導入ありき」というアプロ-チはありえないと筆者は考えています。
 システム開発も一つの投資であり、設備投資と同様に投資対効果が要求されるはずです。従って、(1)上述のステップを踏むことで、改革の目的&経営課題を明確にし、その解決策を検討する。⇒(2)解決策を具現化するための新たな業務に落とし込む。⇒(3)新たな業務を実現するために、必要なシステム機能を抽出する。(要件定義)というステップを踏んだ後、さらにどのようなツールでそれを実現するのか(簡易ツールの活用/既存システムの改良/新システム導入など)を検討するという順序で検討を進めることが重要で、一部の業務オペレーションの効率化から検討を進めるべきではないと考えています。
 ちなみに先ほどの卸売業者の事例では、商品アイテム毎にライフサイクル属性(新商品/定番商品/旧商品等)を設定しました。そして、ライフサイクル属性毎に定期的に販売状況のデータをシステムより出力し、営業会議でチェックすることで、ライフサイクル属性の切換え判断(例:このアイテムは、来月から新商品⇒定番商品扱いとする等)、および販促策の立案(特に旧商品の終売管理)、在庫管理の徹底を図ることとしました。
 新たな仕組みを導入するにあたり、初期段階でマスターデータの整理など、若干の業務負荷はかかりましたが、既存システムを活用することで、システム開発費用は非常に低く抑えることができました。
 上述のような手順を踏めば、システム開発の必要性に関する納得性が高まり、システムに対する投資対効果も自ずと高まるのではないかと、筆者は考えています。

以上

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