コラム「研究員のココロ」
能力開発体系の整備にあたり
2007年09月14日 小林卓也
■はじめに
社員と組織の活性化を目的に、人事制度を改革した会社は多い。制度改革という「形」から入るのはアプローチのひとつであるが、それだけでは期待されている効果は十分に出てこない。なぜならば中身が変わっていないから。中身を変える、すなわち社員を成長させていかなければ、当初の目的も果たし難い。そのためには能力開発への取り組みは欠かせない。では能力開発体系を整備するにあたり、どのように考えていけば良いのだろうか。
■能力開発への関わり方
能力開発体系の整備は人事部門が取り組む重要課題のひとつであるが、人事部門だけが取り組んで完結するものではない。社員の能力開発であるかぎり、主役は社員本人であって会社ではないことは明らである。人事部門は全体の人材育成スキームを組み立てることに責任を負うが、個々のプログラムが能力開発に与える効果の大きさや、その後の能力伸張の大きさについてまでは責任を負える立場にない。人事部門や現場では、必要な知識習得の機会や得た知識を実践させてノウハウに変えていく機会を提供することはできるが、その結果は本人の取り組みによるところが大きい。こうした機会を活かし自分の力としていくためには、本人の仕事に対する責任意識、自分を磨くという高い挑戦意欲、そして自ら学んでいくという啓発意欲が不可欠である。したがって能力開発体系の整備においては、「経営戦略のうえから要請されている社員群を育成する」という点と「意欲ある社員に対して能力開発を支援していく」という点で考えていく必要がある。
<能力開発の関係>
■目的に応じた能力開発
能力開発は、全員に平等に為されるものと該当する特定の社員のみに為されるものとに分かれる。能力開発に対する教育投資の効果を高めたい、と考えるのであれば、「会社が能力開発を必要と認めた社員に対し、必要な教育投資をする」という原則に立つことになる。全員が同じ能力開発の機会を平等に受けるということではない。能力開発の目的を整理し、なにを重視するかを明らかにしておくことも大切になる。以下に能力開発の目的を整理した。どの目的の能力開発も重要ではあるが、当面の取り組みに優先順位を付けていくこともできよう。取り組み優先順位にしたがって、適切なタイミングで能力開発を必要としている社員に対し、効果的な能力開発の機会を提供していくことこそが重要である。
<能力開発の目的>
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■能力開発方法をバランスよく組み合わせる
能力開発の進め方には、OFF-JT(職場外の能力開発)、OJT(職場での能力開発)、自己啓発の3通りがある。
OFF-JTには、人事部門が主体となって実施するものと各部門が主体となって実施するものに分かれる。一般的には集合研修、Eラーニング等の形態で行われることが多い。一度に多くの社員に対し、短時間で同じ能力開発の機会を提供することができる。OFF-JTは気付きや知識付与の場であり、きっかけを与えていく場である。
OJTは職務遂行や上司の指導を通じて為される。言うまでもなく各職場が主体である。業務遂行=能力開発であり、業務経験を通じて知識をノウハウ化していく。OJTは経験を通じて知識やキャリア形成を実体化する場である。多くの場合、OJTで重要な役割を果たしているのは『目標管理制度』である。『目標管理制度』が求めるPDCAのサイクルを通じて、「自分の役割を適切に果たす能力」を深めていく。
自己啓発は自らが主体となって、さまざまな機会を通じて為される。既に習得している能力を深めたり、新しい能力開発であったり、また目的もさまざまである。意欲のある人にとって、自己啓発による能力開発の効果は高い。
上記はいずれも大切な能力開発方法であるが、OJTを重視して能力開発を進める場合が多いようである。ただしOJT重視の裏には、まだ能力開発体系の整備が不十分、という意識もあるようだ。能力開発の目的、内容、対象者等を考慮し、最も効果的な方法を選択していくことが必要である。上記をバランスよく組み合わせ、無理なく社内で実行できる能力開発体系を整備していくことが重要である。
以 上