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貧困層とビジネスの新しい可能性

2008年11月05日 槌屋 詩野



「貧困層」と聞いて最初に何が思い浮かぶでしょう? 日本では世界の貧困層の報道や情報が少ないため、「アフリカの子どもたちが手を差し伸べて食事を求める姿」を思い浮かべる人々も多いのではないでしょうか。しかし、実際のところはそのような「力無く援助を求める貧困層」という典型的なイメージは払拭されつつあります。むしろ、戦後日本が体験したような「復興段階における貧困」の凄惨さが深刻です。それは、基本的なインフラは復興されても、長期的な視野での教育や人材育成、企業や経済が未成熟であるがために、富が蓄積されず、いつまでも貧困が貧困を呼ぶスパイラルを形成しているからです。これに対応しているのが、災害や紛争直後の支援とは区別され、長期的支援と呼ばれる支援の形です。各国の援助機関や政府機関、そして最近十分にオペレーション能力を蓄えつつある国際NGOsが、その資金の主要部分を投じて対応策を講じています。

近年、この分野に「ビジネス」の可能性を見出す先進国の企業が増えてきました。
一つに、貧困層は将来的に中間層になるため、その国の将来に向けて事前にブランドを浸透させておく狙いです。確かに、近年ではマイクロファイナンスや自立的事業の支援制度によって貧困層も活力を持ちつつあり、決して「力なき貧困者」ではありません。
二つに、先進国の市場は少子化・人口減少が進み、既に飽和状態であるということです。先月フィンランドの会合に出席し、先進国企業の取り組み事例を調査してきましたが、北欧では人口減少の経済への影響が非常に深刻となり、新興国と上手に付き合うことができる企業とそうでない企業との財務的パフォーマンスに大きな格差が生まれつつあります。こうして途上国とのパートナーシップの存在は非常に重視され始めています。
三つに、「省資源の技術」を生かす絶好のチャンスと捕らえる企業戦略の登場です。省エネや環境技術を実際に組み合わせ、悪い環境条件や人材条件の中でも確実なオペレーションを遂行する。こうしたチャレンジを通じて、眠っていた技術を活発に利用している例も少なくありません。高度に開発した技術は先進国で売れなくても、インフラが未整備の地域では逆に非常に高いニーズがあるのです。

10年前に貧困層を「BOP」(Base of the Pyramid)と呼び、新市場としてみなす経営戦略の考え方が現れ、賛否両論が起こりました。それをきっかけに、各企業がCSRの取り組みとして着手し、今では、より本業分野で現地の援助セクターとパートナーシップを行う企業が増えています。日本企業の多くはまだ可能性を見出せていませんが、それは今まで現地とのパートナーシップ関係が少なかった結果として現れています。今後は、新興国市場との関係を十分に安定的なものとするためにも、日本企業にとって、迅速な対応が必要となってくる分野でしょう。特に海外展開を行う企業にとっては、長期的視野に基づいた経営方針の下で、経営資源を集中的に投下する必要が出てくることは間違いありません。


[写真] 北欧の会合で紹介されたライフストロー。汚れた水でもこのストローでのめば飲み水になる。貧困地域や紛争地域で活躍するが、先進国でも防災グッズとして活用される。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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