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コラム「研究員のココロ」

ITコスト削減の着眼点
~直接コストと間接コストの関係を理解する

2007年09月03日 木村典宏


 世の中のあらゆる分野に情報システムが活用され、新たなIT環境が日々構築されていますが、その普及とともに課題になっているのが、「ITコスト」です。
コンサルティングの現場においても、経営層の入れ替わるタイミング等で、ITコストの削減を目標とするプロジェクトが立ち上がるケースが増えています。しかし、残念ながらただ削減するということだけが大きく取り上げられ、本当に自社にとって重要な取り組みが見過ごされていることもあるように感じています。

1.ITコストの内訳
 「ITコスト」と表現される中には、大きく分けて2種類あります。
 1つ目は、本当の意味でお金を外部に支払っている直接コストです。ハードウェア機器やソフトウェア、ネットワーク利用料に加えて、開発業務や運用管理業務等を委託するために、支払っている費用です。
 2つ目は、自社の社員がIT管理作業に従事している人件費として支払っている間接コストです。情報システム部門の人件費や各業務部門のIT担当者等の作業人件費にあたります。直接的な経理処理として都度処理していないため、通常ではなかなか見えにくいコストです。
 「ITコスト」の削減を進める場合には、この2種類のコストの特徴をしっかりと把握した上で、直接コストと間接コストの枠組みを見直すことも重要な取り組みになると考えます。

ITコスト内訳と特徴



一般的に直接コストが間接コストかの選択が必要なのは、設置場所費、開発費、運用管理費です。これらの費目は情報システムを開発し維持管理していくために、内容の見直しを行う可能性はあるとしても、必ず求められるものであるため、自社で対応するか外部に委託するかの判断が、直接コストと間接コストの構成比に大きな影響を与えます。

2.自社におけるITの位置づけ
 システム技術の発展に伴い、汎用機からダウンサイジング化が進むとともに、パッケージシステムが導入される事例が多くなってきています。その結果、パッケージに特有の技術が必要になり、自社のシステム技術者の育成の困難さや社員のコア業務への集中化によって、アウトソーシングが拡大する傾向にあります。
 特に業界標準的なパッケージシステムを導入した企業の場合は、開発業務から運用業務までを一貫して外部委託方式に切り替え、自社の情報システム部門は企画機能を中心としてシステム技術的な側面を切り離す傾向が出てきています。
 しかし、本来ここで問われるのは、自社におけるITの重要性、戦略性です。本当に重要な内容、戦略的な部分について外部委託した場合は、外部への支払金額が増大するだけでなく、対応スピードが失われることが多いのが現実です。
 特にスピード対応は年々重要になってきています。これまでアウトソーシングをしていた企業が自社の優位性を確保する必要がある業務のシステム機能については、再度自社で開発・運用を行う事例も出始めています。
 システムの開発・運用業務には特別な技術が必要になるため、人材の固定化を招く危険性がありますが、他社と比較して競争優位性を発揮する部分であれば、システムの開発・運用業務こそコア業務という位置づけで、自社で人材の育成を進めています。
 このような動きは、直接コストの削減・間接コストの増大を実現します。全体のコストで評価した場合に増減するかは各社の事情によって異なるとは思われますが、直接コストと間接コストの構成比は大きく変わってきます。
 これは、単純なコストの検討だけで済ますのではなく、自社のIT環境が他社への競争優位性を築く原動力になっているかを見極めることでもあり、まさにIT戦略の重要なポイントです。

3.変更履歴に注目
 一般の企業はどのようにして、この見極めを行うべきかを考える必要があります。最も分かりやすいのは、システム変更が多い部分に注目することです。ビジネス環境が変化し、その変化に追随するために、ビジネスインフラである情報システムが改修されているからです。
 但し、変更内容については注意する必要があります。単なる使い勝手や見栄え等の問題による変更ではなく、環境変化に対応するために業務ルールの変更が頻繁に行われている部分こそ自社で取り組むべきと考えます。変更が頻繁に行われている部分にパッケージシステムを導入したり、外部委託していると、外部への支払金額が積み重なるだけでなく、対応スピードも大きく遅れを取る可能性があります。
 一方、変更がほとんど無い業務については、パッケージシステムの導入や外部委託することで、自社で保有すべきリソース(固定費)を最小化でき、安定的なサービスを安価で継続的に対応できる可能性が高くなります。
 ITの管理体制を考える際には、是非とも各部署からの変更依頼実績をしっかりと確認した上で、新システム構想を検討する際、パッケージソフトの導入や外部委託の可否について、じっくりと考えていただきたいと思います。

4.ITコストのコントロール
 直接コストと間接コストの構成内容、構成比率を大枠として方針を定められれば、対応策は明確になってくると考えます。

 直接コストは、次のような方策が考えられます。
  (1)委託内容(サービスレベル)の見直し
   過剰な委託内容の見直し等
  (2)価格の妥当性の評価
   複数社による見積内容の評価、第三者機関による評価等
  (3)低コストを実現する新技術の採用
   統合化、集約化、ダウンサイジング化等(※投資が必要)

 間接コストは、次のような方策が考えられます。
  (1)ナレッジの共有化
   各種設計書、仕様書、マニュアル、FAQ類の整備等
  (2)運用管理による自動化
   管理ツールの導入等(※投資が必要)
  (3)教育・研修による情報リテラシーの向上
   社内システム環境の説明、eラーニング(※投資が必要)

 最終的にはシステムのライフサイクルを考慮した上で検討期間を設定し、コントロール策を作り上げていくことで、他社に対する競争優位性とITコストの最適化を図っていくことが可能になると考えます。

以上

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