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コラム「研究員のココロ」

自治体経営の評価

2007年09月03日 松原 伸幸


1 自治体経営の手法を評価された岩手県滝沢村

 優れた経営を表彰する「日本経営品質賞」を、昨年(2006年)度は岩手県滝沢村が自治体として初めて受賞しました。
 「日本経営品質賞」は、1980年代に米国経済の復活に寄与したとされる「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞(MB賞)」を範として、1995年に(財)社会生産性本部が創設しました。創造的でかつ継続的に顧客満足を提供するクオリティ改善活動、その実施度合いの評価分析、これらを含めた優れた経営システムを有する企業を対象に表彰を行い11年間で23社が受賞しています。2002年度から自治体部門が創出され、地方分権一括法、新合併特例法、三位一体改革・交付税改革、地方債起債の許可制から協議制への移行など、経営のあり方が問われている自治体経営の審査を実施しています。
 この流れを先取りするように、人口日本一の滝沢村(約53,000人)では平成6年(1994年)11月に柳村純一村長が就任すると「行政は経営である」との認識の下、滝沢村の経営改革に取り組みました。行政情報の公開制度やコンブライアンスの観点からの入札制度改革などを実施し、平成12年(2000年)からは外部アセスメントの提言を入れた本格的な経営品質向上活動を推進しています。この長年の取組が評価され受賞につながりました。(詳細は日本経営品質賞のHPをご覧下さい。)

2 企業経営との違い

 ところが、ちょうど受賞が決まった平成18年11月に村長選挙が実施され、前村長の路線を引継いだ候補が破れ、現在の柳村典秀村長が約3,000票差で当選しました(得票数12,737票)。選挙戦で柳村氏は前村長の路線に批判的な立場で、「内部組織の構造改革と行政品質が果たして住民に見えているのか。実感として満足が得られているかというとそうではない。ほかの行政自治体関係者からの評価と実際の村民の評価には乖離がある」(盛岡タイムス)と、これまでの経営品質の向上の成果の検証を訴えていました。
 このように自治体経営が企業経営と違う点は、経営者としてのトップが今までの組織文化や、推進している事業とは関係なく選挙に勝てばいきなり登場してくる点です。最近では企業経営でもM&Aによりこれまでの組織文化とは関係なくトップが登場してくる事例がでてきましたが、「ゴーイング・コンサーン(Going Concern):企業には継続するという社会的使命・責任がある」の理念の下、企業文化を尊重しながら「いいところは伸ばし、変えるべきは変える」という路線が多いでしょう。しかし、首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶ二元代表制(国の制度は、選挙で選ばれた議員が内閣総理大臣を指名する議員内閣制)である自治体の制度では、首長は変革を求められて住民から選ばれたという自負もあり、議会や自治体職員との対立が起きることがあります。いままで前首長とともに自治体運営の基本的な方針を決定し、その執行を監視してきた議会が、簡単には新首長の方針に沿って意識変革ができないからです。首長が変わったからと態度を急変させれば、いままで進めてきた自治体運営についての責任が問われます。幸い日本では、前王朝を全否定して政権交代を繰り返してきた国とは違い、信長-秀吉-家康の時代を見ても前政権の資産(人的、物的にも)を継承しながら国家を築いてきた歴史があります。「前政権の良い物は残し、悪い物は果断に整理する」そのようなバランス感覚と強い意志を持った首長が必要です。とはいえ、首長の力だけで経営が良くなっていくわけではありません。

3 第3者評価を活用して自治体経営の品質向上を

 現在、民間企業ではJ-SOX法に対応した内部統制強化の体制作りが進められています。J-SOX法(金融商品取引法)は、米国発の会計不祥事やコンプライアンス違反を取り締まるサーベインス・オクスリー(SOX)法に倣って整備された日本版の法律です。内部統制を評価する際には、4つの目的(業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、法令遵守、資産保全)が達成されている事を、6つの構成要素(統制環境、リスク評価、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応)で監査することになっています。特に米国モデルの内部統制要素にわざわざJ-SOX法では「ITへの対応」を付け足してその利用を求めています。
 一方で、北海道夕張市の財政破綻をきっかけとして、自治体経営に注目が集まっています。この内部統制の目的は、非効率な業務への批判、財政破綻を懸念される自治体の経営にも当てはまります。「業務・システム最適化計画」に沿った電子自治体の整備を進めているなど、企業と同様にITへの対応にも取り組んでいる状況だからです。このように、自治体経営の品質の向上の観点からは、民間企業と同様な考え方でLG-SOX(LocalGovernment-SOX)ともいうべき体制作りが必要であり、今がチャンスです。これからの地方分権下での自治体経営は、「自治体はつぶれることは無い」という前提ではなく、「自治体には継続するという社会的使命・責任がある」という理念の下、自治体職員も含めて経営品質の向上を進めなければなりません。首長の能力に依存するのではなく、仕組みとして継続するためにも業務・システムの監査手法や日本経営品質賞などの第三者の評価を導入して、更に改善していく事が大切です。
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