Sohatsu Eyes
京都議定書達成に向けた2つの共通認識の必要性
2008年09月02日 富士 昌孝
いよいよ京都議定書の第1約束期間が始まった。しかし、京都議定書削減目標がどのような目標であるのか、まだ十分に理解されていないように思われる。実質的な削減目標が1990年比0.6%削減であることと、京都議定書の削減目標が5年間平均で評価されることの認識の共有が不十分と感じられる場面にしばしば直面する。
まず、日本の「実質的な」温室効果ガス削減目標は1990年比0.6%削減である。政府の京都議定書削減目標では、6%削減目標のうち5.4%は、森林吸収源対策と政府(税金)による海外の排出権購入で穴埋めする。実は、温室効果ガス排出量の削減量は1990年比0.6%削減まででよい。
チームマイナス6%の感覚で考えれば、企業や個人の生活レベルで温室効果ガス排出量を6%削減することは、大きな努力を要する。1世帯のCO2排出量を6%削減するためには、冷暖房の設定温度の調整(CO2削減率▲0.6%(以下同様))、シャワー時間を短くする(▲1.3%)、エコドライブ(▲0.7%)、エコバックの使用(▲1.1%)、コンセントをこまめに抜く(▲1.1%)などの地道な努力に加えて、省エネ型冷蔵庫や電球への買い替えを行う必要がある。支出が必要な地球温暖化対策は、つらく我慢する感覚が伴う。しかし、0.6%削減でよいと考えれば、日々の小さな努力で何とかなりそうな気がする。1990年の生活水準によもや戻れないという状況ではないだろう。目標は、手の届く範囲にあって、達成しようとする意欲が湧くものではないだろうか。
二つ目として、京都議定書の削減目標は2008年~2012年の5年間平均の温室効果ガス排出量で評価される。すなわち、ある年の温室効果ガス排出量が6%削減目標を超えてしまった場合には、他の4年間でその超過部分をカバーしなければならない。後々苦労しないためには、2008年の時点から、できる限り、6%削減目標に近い温室効果ガス排出量に止めておくことが必要だ。
しかし、現状の温室効果ガス排出量は大幅超過の状況だ。京都議定書達成に向けた対応が遅れたことによって、2008年の目標超過量が将来の重荷になることは避けられそうにない。今後、日本は目標超過量の穴埋めのために、海外から大量の排出権を購入することになる。誰がこの排出権購入コストを負担するのか。税金で負担するのか、エネルギー料金に上乗せするのか、企業の収益でカバーするのかといった難問が待ち受けている。
現状の温室効果ガス排出量のベースで推計すれば、京都議定書を達成するためには5.3億t-CO2の排出権の購入が必要だ。排出権価値で少なくとも1兆円、EUの取引価格の場合には2兆円にも上る。政府の京都議定書削減目標や民間企業の自主行動計画が、2010年をターゲットにしていることもあり、京都議定書達成に向けた危機感がまだまだ不足しているように思われる。
一方で、最近、カーボンオフセット付き商品のお問い合わせが多くなってきた。これは、企業や個人の環境意識が高まってきたことと、排出権取引のように、自己の努力だけではなく、他者の協力も得て、地球温暖化防止に貢献するという考え方に対する抵抗感が小さくなってきたことの表れだろう。
ただ、京都議定書第1約束期間に入って、海外の排出権の獲得競争は激化している。2013年以降の地球温暖化対策が明確になっているEUの排出権購入意欲は強い。実際に、私もEU企業との排出権獲得競争に敗れたという経験をしている。排出権の獲得のためには、数年の時間と数百万円単位の開発コストを要するため、競争に敗れた場合の影響は大きい。
日本が高い価格の排出権を購入せざるを得ない状況となり、国際競争力を落とすことにないように、良質な排出権の開発に取組んでいる。省エネ、環境技術の高さを誇ってきた日本が、地球温暖化対策でEUに負けたくないという気持ちで一杯だからである。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。