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コラム「研究員のココロ」

内部統制が「日本型人事制度」を変える

2007年08月20日 山中 俊之


予想以上に人事関係のウェイトが大きい内部統制

 2008年4月に始まる事業年度から適用される金融商品取引法における内部統制の対応に多くの上場企業が、急ピッチで取り組んでいる。
 上場企業は、経営者が内部統制報告書を作成し、この報告書は、外部の監査人の意見をつけた上で、有価証券報告書と一緒に内閣総理大臣宛に提出され、投資家に開示される。上場企業や上場を目指す企業にとっては、避けて通れない重要な経営課題になったといえる。
 筆者は、組織人事コンサルタントであり同時に、内部統制構築にもコンサルタントとして参画している。その視点から見ると、当初に予想していた以上に、内部統制構築プロジェクトにおいて人事に関する対応が求められており、日本型人事制度変革の起爆剤になる可能性すら秘めていることを痛感する(図表の人事に関連する項目参照)。
 しかし、内部統制構築プロジェクトに関わる社員は、経営企画部、総務部、経理部の社員が多く、人事部の社員が関わることは多くないのが現状である。そのため、人事に関連するテーマが、後回しになり勝ちのように感じられる。
 そこで本稿では、内部統制構築に関連して、検討する必要のある人事関連の課題やリスクとその対応策を述べたい。

人事ローテーションが重要になる

 まず、第一に、人事ローテーションがこれまで以上に重視されることになる点である。
 例えば、購買担当者と仕入先との関係において、人事ローテーションが少ないと、不正を惹起させるリスクが高くなると考えられる。
 企業会計審議会が示している実施基準の全社的内部統制における評価項目6においては、「問題があっても指摘しにくい等の組織構造や慣行があると認められる事実が存在する場合に適切な改善を図る」ことが求められている。
 多くの企業では、人事ローテーションが停滞している部署を抱えている。勿論、停滞している部署のすべてにおいて、人事ローテーションが必要であるわけではない。
 しかし、長きにわたり人事異動が少ない部署がある場合には、経営者は人事ローテーションの体制作りといった新たな対応が求められることが増えるだろう。

能力要件や職務権限の明確化の必要性が高まる

 第二に、財務報告作成業務をはじめ業務遂行上の能力を明確化して、その能力を有する人員の配置が求められていることである。
 前述の評価項目8では、「信頼性のある財務報告の作成を支えるのに必要な能力を識別し、所要の能力を有する人材を確保配置する」ことが求められている。この項目では、経理部の社員だけではなく、他の部署の管理者等の能力も問われているので、多くの企業では財務研修などの対応が求められるだろう。
 また、内部統制の観点からは、職務権限や責任の明確化が求められていることもあり、これまで以上に、財務報告以外の場面でも、能力と能力に基づく配置が厳格に求められることが今後増えていくと考えられる。
 依然年功的な昇進を残しており、また能力要件を必ずしも重視していない多くの企業にとって耳の痛い話ではないだろうか。
 ポストごとに求められるスキルと社員のスキルのマトリクス、さらにそのマトリクスを用いた配置までが求められるようになるのである。

ポストと人が分離する時代に

 これまでの、「ポスト(職務)と人は一体」といった日本的な人事制度の慣行・常識は通じなくなり、「ポスト(職務)」と「人」が分離され、その双方が、監査部門によって監査される時代に入ったと考えられる。
 日本の人事制度においても、本格的にポストにおいて求められる役割や能力、その役割・能力に対応した社員といった緊張関係が求められるのである。
 内部統制構築は、日本型人事制度についても、大きな変革を促してきているといえる。
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